広瀬香美「ロマンスの神様」、Tani Yuuki「X/Y/Z」……2022年上半期トレンドに見るTikTokヒットの新潮流

 2022年上半期にTikTokで流行した様々なトレンドを対象とした「TikTok2022上半期トレンド」の大賞と各部門賞が7月15日、発表された(※1)。ノミネート30選のなかから大賞に輝いたのは、ミュージシャン・広瀬香美が1993年にリリースした楽曲「ロマンスの神様」。長く聴き継がれている冬の定番曲だが、TikTokクリエイターのタイガが同曲を使って独自の振付を制作して踊ると、新たな世代を中心に大反響に。それをもとにした「ロマンスの神様」の振付動画が多数投稿され、楽曲の総再生数も16億回以上にのぼった。

視聴者の興味を引くポイントをきっちり押さえていた「ロマンスの神様」

広瀬香美 / ロマンスの神様

 再び大ヒットとなった「ロマンスの神様」だが、特に斬新に感じたのが、TikTok上での同曲の起点だ。本来の感覚であれば、イントロやサビのアタマからスタートする方が分かりやすく、きりも良い。しかし今回使用された動画音源は、サビ前の〈そんなの嘘だと 思いませんか?〉というパートから始まり、そして〈Boy Meets Girl〉というサビのコーラスへ突入していくものだった。楽曲の起点としてはかなり意外性がある。ただ、動画を開いた瞬間〈そんなの嘘だと 思いませんか?〉といきなり同意を求められるのはかなりインパクトがあり、視聴者的には「なんのことだろう」と興味をわかせる。

 それに加えて、サビ前の歌のパートが起点となっていることは、TikTokでの流行を意識した昨今の楽曲構成にも関連づけられる。TikTokでは動画開始数秒で興味を持たれなければすぐにスワイプされる傾向がある。そこで、イントロから入るのではなく、いきなり歌のパートを持ってきて視聴者の興味を引く楽曲構成が増加していると言われている。それらの点を踏まえると、「ロマンスの神様」のサビ前の歌のパートを起点とした動画音源は、TikTokにおける視聴者の興味を引くためのポイントがきっちり押さえられていたのではないか。

 また、「ロマンスの神様」をフルで聴くと、仕事に追われて恋がなかなかできないことや、目の前にあらわれた恋人候補のことを細かくチェックする様子など、さまざまな思惑がドラマ性たっぷりに描かれていることが分かる。しかし今回流行した動画音源ではそういった曲全体から感じるストーリー性よりも、〈ロマンスの神様 この人でしょうか〉などのフレーズ面が際立つようになっている。TikTokは短尺とあって、音源も省略されてシンプル化する。視聴者が曲から受ける印象も変わってくる。そのため歌詞やメロディについては、短い時間のなかでダイレクトかつキャッチーに伝わるものの方がウケやすいのかもしれない。

タイガの振付が人気になる理由

ORIGINAL LOVE(オリジナル・ラブ)/接吻-kiss-

 その点で驚いたのは、同じくタイガの振付動画が人気の火付け役となり、「TikTok2022上半期トレンド」にもノミネートされたORIGINAL LOVEの「接吻」だ。物足りない毎日を埋めるようなディープな愛の関係を背景とし、サビの〈長く甘い口づけを交わす〉へと結びついていく同曲。1995年のリリース当時はこの曲が持つアダルトで危険さも漂うドラマ性に酔いしれたものだが、今回のTikTokでの流行では、そういったストーリーではなく、口づけという行為自体にスポットがあてられ、その感触やムードを連想させるようになっていたところが興味深かった。「ロマンスの神様」同様、省略化されたことで楽曲がもともと持っている物語性とは別の情景が生まれたのだ。振付も含めて視聴すると、「TikTokで観るとこういう聴こえ方や解釈になるのか」と新たな発見がたくさんあった。

@taiga_no_furitsuke こんなたくさんの人に踊ってもらえるとは😭みなさん、本当にありがとうございます🙏🏼 #接吻#originallove #本家 ♬ 接吻 - Original Love

 ちなみにタイガが手がけてブレイクした振付は、いずれも決して難易度が高いものではない。ダンス初心者でも馴染みやすいのだ。かと言って淡白でもない。そのバランスの良さこそが、TikTokで流行しているポイントのひとつだろう。今回のトレンドにノミネートされたSnow Manの「ブラザービート」の振付動画が顕著であるように、TikTokでは、ひとりでも大勢でも盛り上がれて、シンプルだけどひと癖もあり、なおかつ投稿者のチャーミングな一面がのぞけるような振付が幅広く受け入れられるのではないか。

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