森口博子「私にとって“歌=生きる”」 恵まれ、守られた40年――アルバム『Your Flower ~歌の花束を~』

“古い会館との会話”で生まれた感情「年齢を重ねるのも悪くない」
――アルバム2曲目の「Good Morning Good Night」は、シンガーソングライターの平松愛理さん提供曲。平松さんとは、今作のベスト盤にも収録されているシングル曲「Someday Everyday」(1997年)などでご一緒してきました。
森口:私が小泉今日子さんの友人役で出演していたドラマ『最後から二番目の恋』シリーズ(フジテレビ系)をモチーフにとリクエストさせていただきました。40代、50代、60代の頑張ってきた大人への「年齢を重ねるって大変なこともあるけど悪くないよね」っていうメッセージを込めてほしくて。そうしたらもう“平松愛理節”の言葉が炸裂で、想像以上のでき上がりで、「さすがだな」と思いました。私が特に痺れたのが〈今日こそひとつだけ 大切に諦めよう〉という言葉。これは哲学だなと思って。投げやりになってサボって諦めるとかではなくて、大切にしてきて頑張ってきたからこそ、もう諦めたほうがうまくいくことが大人にはあるし、前を向いているからこそ、そういうこともあるよねっていう。そこがちょっと泣けましたね。
――サウンド的にもロック調で、背中を押してくれる感じがあります。
森口:以前、私が30周年の時に開催したコンサート(2015年7月12日開催『HIROKO MORIGUCHI 30th Anniversary Concert I wish~君がいるこの街で~』)で、ミニのスパンコールのワンピースで髪を振り乱してロックを歌っている映像を、愛理さんが観てくださったみたいで。「博子ちゃんってこんなロックとかも歌えて、等身大で本音を言える大人になったんだね。かっこよかった」「あの映像の博子ちゃんだったら、この曲のメッセージをしっかり表現してくれると思った」って言ってくださって。
――それもあってロックな曲調になったんですね。
森口:「博子ちゃん、いいぞ頑張れ! これまで頑張ってきたけど、さらに負けるな!」と思ったら、曲を書きながら泣けてきたと聞いて、すごく嬉しかったですね。やっぱり年を重ねると、体に謎の痛みが出てくることはありますけど(笑)、気持ちは豊かになるじゃないですか。細かいことにいちいち感動したり、ありがたみが増したり。
――森口さんもそういうことを実感する瞬間が増えてきた?
森口:それで言うと、私、このあいだ、古い会館と会話したんです……建物と会話してる、別に危ない人じゃないですよ(笑)。とあるコンサートの会場が古い会館で、リハビリ中の身でありながら階段が急だったり、控室の換気口には埃が溜まっていたり、会場と私の声の相性が全然合わなかったり、リハーサル後、少しブルーな気持ちになっていたんです。でもふと、「この会館ができ上がった時は街のみんなが喜んで、たくさんの人を幸せにしてきた場所じゃないか」と思って、「あなたも頑張ってきたんだよね、ごめんね」という気持ちになったんです。そうしたら会館が「こんなに古い会場を選んでくれてありがとう」と言ってくれたような気がして、涙が出てきちゃって。私だって50代にして仕事をもらえていて、「ありがとう」という気持ちになるんだから、会館だって色んな思いがあると思うんですよ。だから本番は相性のことなんか気にせず感謝の気持ちで。そうしたら、めちゃめちゃ気持ちよく歌えたんです。たぶん、若い頃だったらそんなことには気づけなかった。年齢を重ねるのも悪くないなって思いました。
――すごくいいお話。TVアニメ『ワンパンマン』第1期(テレビ東京系)のエンディング主題歌「星より先に見つけてあげる」(2015年)で前山田健一(ヒャダイン)さんとご一緒していましたが、今回の「元祖バラドルなんだもん!」は全力でバラエティ路線に振り切った曲ですね。曲名からして森口さん以外にはありえないパワーワードです。
森口:もう「ヒャダインさん天才!」と思いました。打ち合わせで「私は『この先に歌がある』と思ってバラエティに全力で取り組んできて、それによって今、こんなに素敵な歌を歌わせていただいているので、『結果バラドルでよかった』ということを歌いたいです」というお話をしたら、ヒャダインさんなりに私のことをすでに色々と知っていてくださって、「えっ、そんなことまで!?」というワードをぶち込んできて。〈セーラー服反逆するどころか/卒業前にリストラ宣告〉は、私が10代でもがいていた当時に出演したドラマ『セーラー服反逆同盟』(日本テレビ系)からだったりしますし。
――〈雄のロバを口説いたし〉というのも、バラドル時代の苦労話として有名なエピソードですよね。
森口:そう、リストラ宣告直後のバラエティのお仕事が、リポートで雄のロバを口説きに行くロケだったんです(笑)。この曲は、ほかにも、いきなりマイナーコードで『アタックNo.1』のオマージュのようなセリフが入ったかと思ったら、曲の途中でクイズ番組が始まったりして。もうザ・エンターテインメントですよね。そんななかで〈目の前のこと 一生懸命やっていれば/バラエティ豊かな 人生になる/素敵な歌に巡り合い/素敵な人に助けられ〉の所で泣けました。それと〈何十年も 芸能人生 過ぎたって/一日も同じ日なんかないの〉ってフレーズが出てくるところでもウルウル。芸能のお仕事に限らずですけど、どんなに辛くても、どんなにサボりたい日でも、二度と同じ日はこないと思ったら、やっぱり大切に思えるじゃないですか。ホロリとさせられました。ちなみに曲中の「ピロ子」コールはヒャダインさんの声です。最後は絶対にみんなで「いいともー!」と言ってほしいですね(笑)。
広瀬香美、岸谷香……盟友たちとの制作秘話
――続く新曲「forever and ever and ever and ever.......」は、広瀬香美さんが詞曲を書き下ろした優しい雰囲気のバラード。広瀬さんとは、今回のベスト盤収録の「LUCKY GIRL ~信じる者は救われる~」(1994年)をはじめ、数々の楽曲でご一緒してきました。
森口:広瀬さんとはもう30年来の親友なので、私の悩み事や歩んできた道を全部知ってくれているんです。この曲も「全部を詰め込んだ、博子ちゃんの歌よ!」と言ってくれて感涙!ファンの人とのこれまでの繋がりと広瀬さんとの友情が描かれた名バラードがまたここに!
――これまで出会ってきたすべての人への感謝の思いが伝わってきて、とても温かな気持ちになります。
森口:すごく琴線に触れるメロディですよね。広瀬さんのプロデュース力も流石で、ドラマやミュージカルもやってきた私だからこそ、冒頭は〈はぁ〉というため息のお芝居から始まったら、すごくハマると思うと。そこから壮大に展開していく構成になっていて。すごくドラマティックで泣けます。タイトルもすごくこだわっていて、「forever」の頭文字が小文字になっているのは、博子ちゃんの繊細なイメージと合わせてと。なおかつファンの皆さんとの関係を“ずっと”と表現するにしても表記には限りがあるので、最後は点々(…)にすることでずっと続いていくことを表していて。この点々が7個なのも意味があるんですよ。
――というのは?
森口:“forever”が7文字で、“森口博子”(もりぐちひろこ)という名前も7文字なので、フ
ァンのみんなとの関係と“森口博子=forever(永遠に)”という意味が込められていて。点々にも、願いが込められているんです。
――素晴らしいですね。歌詞の締めの〈あぁ眠れそうにないわ/秘密〉も、いろんな想像が膨らむフレーズです。
森口:そう! 広瀬さんは私のいろんなことを知ってくれているし、これまで言えなかったことも悔しかったことも全部含めて、一緒に過ごしてきた仲なんです。なので「いろんなことがあったけど、もう……話しきれないから秘密!」みたいな(笑)。
――思い返すと眠れなくなるほどいろいろなことがあった、と。
森口:そう! これまでたくさんのアーティストの方々に曲を書いてきたけど、号泣しながら書いたのは博子ちゃんが初めてと言ってくれて。その話を聞いて私まで泣けて震えちゃいました。本当に友達で良かったと思います。
――アルバムは既発曲の「Ubugoe」をはさみ、続いての新曲が岸谷香さん提供の「年下のあいつ」になります。同じく岸谷さんが書いた『紅白』歌唱曲「スピード」(1992年)や「ホイッスル」(1993年)などを思い起こさせる、聴いていて元気になれる曲ですね。
森口:すごく爽快なロックチューンですね! オファーの際は代表曲のひとつでもある人気楽曲「スピード」のような、ライブでみんながアガる楽曲にしてください、と。だけど、私たちももう大人になってきたので、年相応に弾けながら、でも元気が出るっていうものを目指しました。曲ができ上がってきた時に、香さんが譜面に仮タイトルで「年下のビリー」って書いていたんですよ。それがかわいいなととても気に入って。「じゃあ私、“年下”をモチーフに歌詞を書きます」とお伝えして、歌詞は共作しました。で、私のなかには実際に“年下のあいつ”のモデルがいて。
――それはどんな方なんですか?
森口:現場にいるスタッフの子で、最初は私がからかってたら耳を真っ赤にしていた男の子なんですけど、今となっては軽くあしらってくれたり、私のくだらないギャグに大声で笑って、心の介護までしてくれてるっていう(笑)。その急成長に驚きと喜びを感じていたので、私を軽く追い越していったその年下くんに、「君たち、これからも未来の日本を支えて、幸せになってよ!」っていう。あとは冗談で「私の将来の介護もよろしくね!」という思いも込めて(笑)。そういう気持ちで、次世代の若者に向けてのエールソングを、この歳だからこそ書けるかなと思ったんです。「スピード」の頃はまだ自分が「がんばれ」と言われている側だったけど、今は背中を見られている側っていう。
――そして今回のアルバムのなかでもひと際強烈な個性を放っているのが、森口さんが作詞曲した「ドキがムネムネ♡」です。
森口:(話題として)飛ばされるかなと思ったんだけど、この曲も触れてくれるんですね(笑)!
――いや、この曲はスルーできないなと……。
森口:あははははは! この曲は、ライブでビキニを着て歌ったんですよ。
――ビキニ!?
森口:去年リリースした『ANISON COVERS 2』のライブのツアーグッズを作るにあたり、ジャケットで披露したビキニ姿の30センチくらいのアクスタ(アクリルスタンド)を作ったんです。ほかにも8センチシングルCD風のアクスタもあったので、せっかくだから実際に歌詞も書いてグッズ化したんですよ。歌詞があるんだったら曲も作ってサプライズで披露したらみんなびっくりしてくれるだろうなと思って、私が作曲して、それをライブのアンコールでビキニを着たまま飛び出して歌ったっていう(笑)。でも、それを「40周年のアルバムに入れたい」って言ったらもうみんなに反対されて。プロデューサーも頭を抱えていましたけど(笑)、自分で作詞作曲したので「(豪華作家陣のなかに)私も加えて!」と思ってねじ込みました。
――でも、この曲があることで森口さんらしさが一気に加わりますからね
森口:テーマは、「50代の私がビキニになったところで誰も死にゃあしない」。誰も傷つかないですし、ビキニに限らず、「年齢に関係なくやりたいことをやっちゃおうよ!」という思いを込めました。
――冒頭から〈ヒューヒューだよ!〉で始まるのも流石だなと思いました。
森口:そうそう。平成感というかレトロポップがテーマだったので、当時私がバラエティー番組でよく使っていた〈バッチグー〉とか〈ラッキーウッキー (ハグキ!)〉〈レッツラゴー!〉というワードを織り交ぜました。



















