マカロニえんぴつ、今だからこそ追求した“生々しさ” 原点を見つめ直した新作『physical mind』を4人で語る

フィジカルを重視した生身のバンドサウンドと歌。このバンド本来の魅力がダイレクトに刻まれた、素晴らしいアルバムだ。
デビュー10周年イヤーを記念し、今年6月にキャリア初となるスタジアムライブを横浜スタジアムで開催。バンドとしてのスケールを拡大し続けるなかで届けられたマカロニえんぴつのメジャー3rdアルバム『physical mind』は、メンバーのリアルな息遣いが感じられる作品に仕上がった。「得意なことだけを詰め込んだ」という本作について、4人の言葉で語ってもらった。(森朋之)
重ねたキャリア、充実のライブが導いた“フィジカル”のアルバム

――メジャー3rdアルバム『physical mind』が完成しました。数多くのタイアップ曲が含まれていますが、何よりも現在のマカロニえんぴつのバンド感が真っ直ぐ伝わってくるのが素晴らしいなと。まずはみなさんの手ごたえを教えてもらえますか?
はっとり:今回はメンバーのみんなにアレンジを任せることが多かったんですよ。過去作に比べると個々の音がすごく踊っているというか、躍動している感じがあって。自分で背負った業務は少なめだったので、そういう意味での手ごたえはあまりないです(笑)。俺ががんばったというより、バンドでがんばったアルバムですね。今、バンドとしてやれることがすごくいい形で作品にできたし、反応が楽しみです。
田辺由明(以下、田辺):前作の『大人の涙』(2023年)が2年以上前のリリースで、そこから本当にたくさんのライブをやらせてもらって。横浜スタジアムもそうだし、アリーナ、ビルボードライブ、Zepp、ホールだったり、フェスもそうですけど、いろんな場所で演奏することで、みんなの音、アンサンブルにさらに磨きがかったと思っているんですよ。技術的なところもそうだし、全員が貪欲にもっといい音を出そうとしてて。いい音、いいフレーズ、いいプレイをパッケージできたのが、今回のアルバムなんじゃないかなと。
――ライブの充実ぶりが制作に良い影響を与えた、と。
はっとり:それもあると思います。自分たちもライブが良くなってることを実感しているし、オーディエンスの反応も変わってきたんですよ。こっちが無理に煽らなくてもノッてくれる感じがあるし、バンドのノリも変化しているのかなと。この先、僕らが追求しなくちゃいけないのはノリ、グルーヴだと思っています。今回のアルバムも、その一連の流れのなかにあるんじゃないかなと。
長谷川大喜(以下、長谷川):サウンドメイクにも自信がついてきましたね。曲に鍵盤をハメ込むときは音色やフレーズの選択肢を2から3くらい用意していたんですけど、今回のアルバムは「これ!」と決めることが増えて。自分をさらけ出すというか、気持ちの透明度が高いままに収録できたし、まさにフィジカルで録れた1枚だと思います。
高野賢也(以下、高野):さっき田辺くんも言っていましたけど、いろんなライブをやったことが大きかったですね。5年前に開催するはずだったアルバム『hope』(2020年)のツアーもそうだし、ハマスタのライブの初日はインディーズ期の楽曲や廃盤になってる曲も演奏して。FCツアーでもコアな曲をやったり、過去のナンバーに触れる機会が多かったんです。特にインディーズ時代の曲はガムシャラな音というか、熱血系、体育会系みたいな感じで。若さというより……。
はっとり:力任せだね。
高野:そう。武器がないから拳で勝負してる感覚があったんですよね。前作の『大人の涙』はいろんな作り方、録り方をしたし、そのおかげで引き出しや武器が増えた感じがあって。それはすごくいいことなんですけど、昔の曲から感じられる“得意なことだけで戦ってる”という感覚もいいなと。
はっとり:やっぱり引っ張られますよね、そこは。経験って、必ずしも進歩につながるとは限らなくて。何事もそうだと思いますけど、持ち物が増えると何かを置いていかなくちゃいけないんですよ。それを都合よく“洗練”とか“無駄を削ぎ落す”なんて言ってるんだけど、要はなくしちゃったものがあるってことなんです。


――なるほど。
はっとり:もちろんそのときは「これが最善策だ」と思って選んでいるんですけど、振り返ったときに「あれは持っておいた方が良かったな」ということもあって。ただ、取り返しに行こうと思えばやれるんですよ。今回のアルバムはそういう気持ちになる場面が多かったのかなと。賢也が「武器がなかったから拳で勝負してた」って言ったけど、そういう潔さって実は大事で。そのことを意識しながら作ったアルバムでもありますね。
――緻密で多彩なアレンジはまちがいなくマカロニえんぴつの武器だと思いますが、そこだけに頼るのは違うと。
はっとり:難しいことをやるのも楽しいし、必要な場面もあると思うんですけどね。ただライブにウエイトを置くと、ミスを恐れず感覚で弾けたほうがいいし、音程に悩まずパッションで歌えたほうがいいなと。メロディにしても、俺はほっとくとどんどん覚えづらい感じになっちゃうんですけど(笑)、お客さんが歌いやすかったり、本能でガッと歌い切れることも大事なので。歌録りも1曲通して歌うことが増えたんですよ、最近。
田辺:うん。
はっとり:それもライブを意識しているからなんですよね。1曲ですべてを絞り出すのも素敵だし、勢いに任せて歌い切るのもカッコいいんだけど、最後ゼイゼイしちゃって、「いちばん伝えたいことが伝えられなかった」みたいになるのは良くないじゃないですか。最後の最後にフルパワーで押し出せたほうがいいし、そのためにはどうしたらいいだろうと。キーを少し落としているのも、そういうことだと思います。

――そういうスタンスを含めて、『physical mind』というタイトルに結び付いた?
はっとり:そうですね。タイトルは楽曲が出揃ってから決めたんですけど、レコーディングの現場でも“フィジカル”という言葉をよく使っていて。まず、ずっとサポートしてくれているドラムの高浦(高浦“suzzy”充孝)がフィジカルドラマーなんですよ。考えるよりも本能で叩くタイプで、それに影響されることがけっこうあって。メンバーも高浦みたいに、あまり取り繕わないで、フィジカルに演奏してほしかったんですよね。そこに自分の思いやマインドを乗っけられたらめちゃくちゃいいよねって。それを実現させるために、今回は俺がみんなの演奏に口出しするのは良くないなと思っていました。いままでは結構いろんな注文をしていたんだけど、それも意図的にやめて。
田辺:ライブみたいな勢い、熱量で録った曲が多いんですよ。アレンジの緻密さで言えば前作の『大人の涙』、その前の『ハッピーエンドへの期待は』(2022年)のほうがあるんですけど、今回はすごく生々しいサウンドになっていて。まさにフィジカルですよね。
長谷川:さっきも言いましたけど、あまり迷わずに「これだ!」という感じで録れたので。ある意味、諦めというか……。
はっとり:諦めというより、潔さ(笑)?
田辺:割り切り?
長谷川:そうです(笑)。そういう感じでやっていくのもありなんだなって。レコーディングってどうしてもかしこまっちゃう感じがあったんですけど、自分なりに勢いを出せたんじゃないかなと思っています。
高野:僕はクラシックをやっていたので、もともとは“楽譜絶対主義”みたいな感じでやっていて。以前はあらかじめ考えたフレーズを楽譜に起こしたり、メモを書いて録音していたんですよ。最近はある程度だけ決めて、細かいところはその場の感覚でやるようになっていて。基本的にサポートドラムの高浦と一緒に録るので、目の前で叩いている音を感じながら演奏できるのもよくて。ライブに近い感じで立って演奏しているんですけど、弾き方やフレーズも自然と変わってくるんですよね。高浦も譜面なんて見てないし。
はっとり:デモを渡すのがレコーディングの前日になることもあるんですけど、高浦はインプットも早くて。自分のニュアンスで叩くんじゃなくて、デモのパターンをしっかり踏襲したうえで、「ここはこうしたいんですけど」と相談してくれるんです。
田辺:歌詞を汲み取って叩いてくれたりね。
はっとり:自分のソロプロジェクト(Blue Ladder)で歌う機会も増えているから、歌に対する心境の変化もあるんだと思います。高浦から教えられることは本当に多いし、ありがたいですね。




















