東京ハードコアシーンの突然変異・moreru 夢咲みちる、厨二を極めた先で鳴らす美しき爆音のすべてを語る

東京ハードコアシーンの突然変異と言っていいだろう。グラインドコアやブラックメタルを飲み込んだ極北の爆音を鳴らしつつ、同時に童謡のようにメランコリックなメロディで観客を全力シンガロングさせる。歌われる内容は殺意と自己嫌悪と破滅願望に満ちた厨二病的なもので、イタい、キツい、ヤバいと背筋を震わせる世界観が、なぜだか泣けるほど美しく見える。そういうライブを繰り返してきたmoreruが、4枚目となるアルバム『ぼぼくくととききみみだだけけののせせかかいい』を世に放つ。かつてなくキャッチーな暴力性が吹き荒れる全12曲は、クオリティの面でも全体のストーリー性という意味でも、世のなかを震撼させ、ことによっては多くの若者の人生を狂わせていくだろう。ボーカル・夢咲みちるに聞く、厨二を極めた果ての未来像。(石井恵梨子)
夢咲みちる、14歳で耳にした音楽の衝撃――「世界の真実のように思えた」


――すごいアルバムが完成しました。今の手応えはいかがですか。
夢咲みちる(以下、みちる):うん。今まででボリュームもいちばんあるし、ちゃんと「アルバムを作ろう」と思って作ったアルバムだと思います。ただ、作ってた時の“どうかしてる俺”と“今の俺”はもはや違うので。満足感とか手応えはもうこの瞬間には失われてる。ちょっと思い出せないです。
――みちるさん、曲作る時はどうかしてるんですか?
みちる:制作をする時って、人はどうかしてますよね。どうかしてない時に作った曲は面白くなんない。
――とはいえ人って「どうにかなっちゃおう」と思ってそうなれるものではなくて。曲作りに向かう精神状態ってどんな感じですか?
みちる:本当に作れる期間、曲を作ろうってなる時は一年のうち2カ月ぐらいしかなくて。その期間はいちばん自分のなかでドライブ感がある。気持ちが加速して、もう酒とか飲みまくって、言葉通りむちゃくちゃ、ぐちゃぐちゃになってる時に曲がついてくる。かっこよく言うとそうなります。
――最初にmoreruが目指したものって、ぐちゃぐちゃなもの、グラインドコアやハードコアになりますか。
みちる:ブラストビートをやりたかった。あとはノイズです。
――何がきっかけでそういう思いを持つんです?
みちる:えーと、14歳の頃にノイズを聴いて、それが衝撃で。そのあとPig DestroyerとかBrutal Truthを聴くことによって、ブラストの速度と強度がいいなって。それが世界の真実のように思えたんですね。
――テレビやラジオではまず出会わない音楽に真実を見た感じ?
みちる:うん。「それがすべてを言っている」って思いました。言葉では説明できない部分、シンプルな表現では直接的に喋れないこと。その密度がすごかった。混沌としている、その真実がここにあるなって。
――当時、学校は嫌いでした?
みちる:学校、半分くらいしか行ってなくて。でも、ノイズやり始めたぐらいでまた学校に行き出して。……まあ苦痛でしたね。嫌いでした。
――冒頭から〈同級生、話しかけません〉(「初恋と戦争の準備」)って歌詞もあります。この時代の風景が、強烈に焼き付いているのかなと。
みちる:学校空間みたいな風景って、人格を作る段階でいた場所ですし。取り戻せないものとしてずっと存在するから。取り返しがつかないという意味で。そうですね、学校空間は焼き付いてるけど……ハタチ過ぎてまでそんなことばっかり言ってて、情けなくなってきましたね。もう言うのやめます。
――いや、いいと思います(笑)。
みちる:これは子どもが言うべき。僕はもう言わないです。ちょっとそこにとらわれすぎていたなって、自分の歌詞を読むと思う。
もっと行きたい。まだ足りないです、厨二病が

――分析してみると、「あいつら全員殺したい」っていう憎悪と、「あの頃の自分を救いたい」っていう自己救済、どちらが強いと思います?
みちる:うーん、自分を救いたい感情はあんまりないですね。人を救いたいともまったく思わないし。安易に救われた気分になることを自分のなかでよしとしてないので。なんなら、もっと破滅に向かって10代の頃に学校で暴れまくってればよかったなって、すごく反省してるんですよ。つまり……全員ぶち殺しておけばよかった。
――はい(笑)。
みちる:それをやれなかった後悔、ぐらいしかないのかな。救うとかじゃない。自分もまわりも破壊したい。あの時にやっとけばよかったなって、今は思う。
――誰かを殴ったり喧嘩したりできないタイプでした?
みちる:いや、僕、実は小学4年生から中学ぐらいまでムエタイやってて。
――え、意外。
みちる:むっちゃ殴り殴られ、してましたよ。イジめられたりしてないし。
――不愉快な言い方かもしれないけど、破滅とか殺意にとらわれてる思考を、世のなかでは厨二病と呼びますよね。それについては?
みちる:なんかもう行くとこまで行きたいですね、厨二病。てか、そもそも社会とか生活のことばかりに目を向けるべきじゃないですよね。厨二病って言葉がなんで中2の時期を指しているかって、いきなり“他者”とか“超越性”、あとは“神”みたいなことを考え出すからで。それでイタい奴になってくわけでしょ? で、そういうこと考えるのを止めた人たちはもう厨二病と呼ばれない。僕は考えることを止めたことがないので。もう、超厨二病です。
――全肯定だ。
みちる:もっと行きたい。まだ足りないです、厨二病が。
――その気持ちがバンド表現に向かうのは自然なことでした?
みちる:自然でしたね。バンドの直接的な肉感でしか、それこそめっちゃ厨二病的に言うと、「デュオニソス的なものに辿り着けないのでは……ククク」みたいな感じ。肉を持つしかないわけです。


















