山崎まさよしの楽曲は時代を越えて愛される――デビュー30周年オールタイムベスト『山崎見聞録』世代別クロスレビュー

山崎まさよし『山崎見聞録』世代別レビュー

 山崎まさよしが、デビュー30周年記念日の9月25日に全33曲を収録したオールタイムベストアルバム『山崎見聞録 〜30th Anniversary All Time Best〜』をリリースした。

 30年という歳月の中で山崎の音楽は、時代を超えて聴き手それぞれの人生に寄り添い続けてきた。その普遍性をより鮮明に浮かび上がらせるために、本企画では20代・30代・40代のライターとして風間珠妃氏、蜂須賀ちなみ氏、三宅正一氏の3名によるクロスレビューを展開。世代ごとに異なる体験や感性を通して選ばれた楽曲は、聴き手の数だけ解釈が広がることを教えてくれる。時代や年齢を越えて心を揺さぶる山崎まさよしの音楽を、“今聴く理由”とともに紐解いていく。(編集部)

■20代:風間珠妃
「令和の今初めて触れる楽曲も、驚くほど自然に自分の人生の断片と重なっていく」

 「山崎まさよし」という名前を聞くと、世代を超えて誰もが知っているヒットメーカーとしての姿がまず思い浮かぶかもしれない。けれど、リアルタイムで彼の楽曲に触れてきたわけではない20代の自分が『山崎見聞録 〜30th Anniversary All Time Best〜』を聴きながら改めて感じたのは、90年代に生まれた楽曲も、令和の今初めて触れる楽曲も、驚くほど自然に自分の人生の断片と重なっていく、ということだった。即効性のある“バズ”を生むサウンドが主流となった時代に育ったからこそ、山崎の音楽には新鮮さと普遍性が同時に宿っているように感じる。ここでは、同アルバムに収録される楽曲の中から、私にとって特に印象深かった3曲を紹介したい。

「心拍数 ~from 『Transit Time』~」(1996年)

『Transit Time』(2002年)
『Transit Time』(2002年)

 最初に触れたいのは、1996年のアルバム『アレルギーの特効薬』に収められた「心拍数」だ。シンプルな言葉で綴られたラブソングだが、山崎の声に乗ることで、どこか言葉の奥行きが増していく。

 近年の音楽シーンを眺めると、“バズ”を狙ったリズムやインパクト重視のメロディーが多く並び、「いかに短時間で耳を奪うか」が強調されがちだ。もちろんそれはそれで楽しいし、私自身もTikTokで流れる曲に惹かれることは多い。しかし、そうした時代に「心拍数」を聴くと、心を揺さぶられる。まっすぐに「好き」という気持ちを言葉に乗せた歌詞、そして日本語の響きを余すことなく伝えるメロディ。奇を衒わないからこそ、恋をした時の戸惑いや不安、そして熱のこもった胸の高鳴りがストレートに響いてくる。自分の世代が日常的に接してきたJ-POPのラブソングとは、やはりどこか質感が違う。むしろ、こんなに純度の高いラブソングが、かつて当たり前のように流れていたこと自体に羨ましさを覚えてしまう。もしこの曲をSNSでシェアしている友人がいたら、思わず「センスがいいなあ……」と唸ってしまうだろう。それが、「心拍数」という曲だと思う。

「21世紀マン」(2015年)

『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』(2015年)
『ROSE PERIOD ~the BEST 2005-2015~』(2015年)

 大人になるということは、間違いなく“選択”の連続だ。〈いつだって正しい事ばかり選んで来れた訳じゃない〉という歌詞は、SNSの発達によって“誰かと自分を比較してしまう環境”が身近になった私たちの世代に、痛いほど突き刺さる。

 たとえば、大学に進むか、働き始めるか。就活での選択や、恋愛、人間関係、コンプレックス。大人になっていく過程で、“正しい答え”を探し続けることはしんどい。むしろ、選んだ道が正しかったのかどうかは後になってしかわからない。しかし、この曲は〈間違って引き返してみて悔しいことも味わった〉と歌いながら、その過程も含めて自分の人生だと歌っている。“正しさ”だけでは切り抜けられない現実を前に、引き返したり悔やんだりする時間を肯定してくれるこの曲は、ある種の救いだと思う。どの時代の若者もきっと同じ思いを抱えてきたのだろうし、その“普遍”を軽やかな音楽にして差し出してくれる山崎の存在がとてもありがたい。

「空へ」(2016年)

『空へ』(2016年)
『空へ』(2016年)

 そして最後に挙げたいのが「空へ」。2016年公開の映画『ドラえもん 新・のび太の日本誕生』の主題歌である本楽曲は、山崎にとって初めての書き下ろしとなるアニメ映画主題歌でもある。子どもの頃からずっと家族で触れてきた作品である『ドラえもん』。中学生時代、映画に心を揺さぶられる没入感を生んでくれたこの楽曲を、大人になってから改めて聴くと、別れや旅立ちの場面を言葉にできないような愛で包み込む“優しさ”に気づかされる。〈まだこのままでいたかったんだけど/あまり時間が無いみたいだ〉という歌詞にもあるように、原始人のククルや、可愛がってきたペット――ドラコ、グリ、ペガとの別れは、当時映画館で観ていた子どもたちの胸を締め付けた。しかし、それは今思うと、子どもが成長して大人になっていく過程の痛みや希望を描いていたようにも感じられる。

 自分自身、大人としての歩みを始めた時期にあるからこそ、この曲に込められたメッセージが今の気持ちとリンクし、年月を経た“今、歌詞を読むからこそ解釈できる想い”に共感した。山崎自身がひとつの作品を通じて伝えたかったことを、年齢を重ねたからこそより深く咀嚼できるのも、長年愛される名曲の楽しみ方だと思う。

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