「人生狂わす覚悟でステージに立ってる」ーーTETORA、初の主催フェス『KAKUSHIN CLUB』で繰り広げた“名勝負”

TETORA、初主催フェスレポート

 TETORAが初の主催フェス『TETORA presents KAKUSHIN CLUB』を8月2日、大阪・大和大学で開催した。

 『KAKUSHIN CLUB』には主催のTETORAを含む計13組のバンドが出演。約9時間半にわたって熱いライブを繰り広げた。TETORAはライブ活動を重ねることで、自らのイメージするカッコいいバンド像を追求している。今回声を掛けた12組とは全て対バン経験があり、TETORAが信頼を寄せるライブバンドが一堂に会した。中には前後の日に大阪から遠い場所でのライブを予定していたバンドもいたが、全員二つ返事でオファーを引き受けてくれたと、TETORAのメンバーは嬉しそうに語っていた。TETORAと出演バンドの相互の信頼、日々ライブハウスで切磋琢磨するうちに芽生えた絆が窺えるエピソードである。

TETORA ライブ写真
上野羽有音(TETORA)
TETORA ライブ写真
いのり(TETORA)
TETORA ライブ写真
ミユキ(TETORA)

SIX LOUNGE、炙りなタウン、FOMARE……“かっこいい”を競い合うバンドたち

 当日は、大和アリーナと体育館ステージの2ステージ制で進行。タイムテーブルはライブとライブが被らないように組まれていて、観客のステージ間移動を配慮したバッファも設けられていた。チケットさえあれば誰でも全バンド観られる設計であり、TETORAからの「全バンドカッコいいからぜひ観てほしい」という想いが伝わってくる。

 大学敷地内にはフォトスポットや飲食の出店などもあり、学園祭のようなムードが漂うなか、『KAKUSHIN CLUB』は大和アリーナのトップバッター・ammoのライブから幕を開けた。「TETORAの初めての後輩、初めての弟、初めてのレーベルメイト」と自身を紹介したammoは、何者でもなかった自分たちを拾い上げてくれたレーベルへの感謝を込めて「俺たちを信じてくれたその小さな直感を、カクシンに変えに来ました!」と宣言。始まりの歌「フロントライン」を力強く掻き鳴らした。対する体育館ステージトップバッター・the奥歯'sは、「正直に言ってしまえば、TETORA、早くどいてくれないかなって思う。でもTETORAがいなかったら俺たちの道しるべはなかった」と率直な想いを語り、愛憎入り混じったその気持ちを爆音のパンクロックに託した。

 カネヨリマサルは、2018年に初めてTETORAのライブを観た時のことを「初めて会った時からカッコよくて涙が出た」と振り返る。そして「そんなバンドと同じ時代にバンドできて嬉しいです。これからもTETORAがずっと続きますように。TETORAのカクシンがもっと深まりますように」という想いを、夢や友情を歌った楽曲「わたし達のジャーニー」に込めた。ミニマムジークは、TETORAのことを「いつも挑戦的な姿を見せてくれる先輩」と言い表してリスペクトを表現。同時に「俺は小心者でネガティブ。カクシン的な音楽をカクシン持ってやってると100%思うことはできない。でも今、3人で音を鳴らすのが楽しいという一心で毎日を送ってます」と本心を打ち明け、瑞々しいサウンドを届けた。

 TETORAのレーベルメイトのアルステイクは、「あの人たちへの気持ち“勝ちたい”しかなかった中で、今日は初めての気持ち“力になりたい”って感覚です」と意気込みながらステージへ。「よくわかんないけど、カクシンって何なの? 図星と違うの?」「でも対バンをするたびにカクシンつかれたって感じるあの瞬間」など、『KAKUSHIN CLUB』にちなんだ言葉を織り交ぜながらライブを展開した。climbgrowはシャウトとともにライブをスタートさせ、観客には「あなたにとってのカクシンと俺にとってのカクシンを、今この瞬間だけはロックンロールって呼んでいいですか」と投げかける。MCを最小限に留め、数曲を連続で演奏した彼らは、「あと50秒!」と言いながらギリギリまで音を鳴らす姿も印象的だった。

 ねぐせ。は、寝屋川VINTAGEでの初対バン以降、TETORAとの競演を重ねてきた。ポップな楽曲が多い彼らは、「俺たちは今日出てる他のバンドとはちょっと違うかもしれない。でも今日呼んでくれたってことは、俺たちと一緒に歌ってほしいと、TETORAは思ってると思うんです」と意気込みながら、大和アリーナをシンガロングとハッピーなムードで包み込んだ。激しさと儚さが共存するサウンドを鳴らすリーガルリリーにとって、ライブハウスは「生きることは感じること」と知った場所であり、TETORAは「どんな場所で歌ってもライブハウスに変えてしまうバンド」だという。ラストには「ライブハウスの曲」と紹介して「天きりん」を奏で、『KAKUSHIN CLUB』に捧げた。

 FOMAREは、オグラユウタ(Dr/Cho)脱退発表後初のライブ。「複雑な思いで今日を迎えるかと思ってたけど、やっぱり複雑で。でもTETORAへ返したい想いもあるし、やらなきゃいけない」と明かしながら、複層的な感情を全て演奏に乗せる人間臭いライブを展開し、ラストには観客同士が肩を組み、巨大なサークルが生まれた。HakubiはTETORAのことを「大好きで尊敬してる大切な仲間」「武道館に初めて連れて行ってくれた友達」と表現しつつ、「カッコいいし誇らしいけど、出会わなければよかったなと思う時もたくさんあります」と胸中を明かす。心を引き裂くようなその感情を歌と演奏に込めた「午前4時、SNS」は圧巻だった。

 SIX LOUNGEは、「TETORAありがとう。バンド見ても、会場見ても気合いが入ってることがひしひし伝わってくるよ。俺らも気合い入れていきます」と語りながら、観客にも「頼むよ?」と投げかけ、ソリッドかつダイナミックな3ピースサウンドを鳴らす。「メリールー」ではシンガロングが自然発生するも、ヤマグチユウモリ(Gt/Vo)が「ちょっと待って、俺一人で歌わせて。アリーナで歌える機会あんまりないんだから」と一度静止。ヤマグチが豊かに歌い上げたあと、「どうぞ歌ってください!」とオーディエンスに楽曲を渡す場面もあった。最後に体育館ステージに出演した炙りなタウンは、『KAKUSHIN CLUB』にはTETORAのライバルバンドが集まっているとし、「TETORAの最後のライバル」と自称。「この中の何人が今日のカクシンに気づいてるかわからなくても、戦うのをやめない。100人に歌っても99人に伝わらないことばっかり歌ってきた」とライブハウスでの日々を回想し、同胞TETORAへ想いを馳せながら、疾走感溢れるサウンドを鳴らした。最後は楽器を掻き鳴らしながら、「早く行け!」とTETORAの待つ大和アリーナへの移動を促していた。

大トリ TETORAがかき鳴らした泥臭い日々の結晶

 そして時刻は19時半。ここまでの12組が繋いだ想いを胸に、TETORAは『KAKUSHIN CLUB』トリのステージに臨んだ。オレンジ色に染まったステージにメンバーが現れると、広いアリーナを埋め尽くすオーディエンスが熱視線を送る。楽曲よりも先に届けられたのは、上野羽有音(Vo/Gt)の言葉だった。「今日出演してくれたバンド、“カクシン”って言葉をいっぱいいっぱい言ってくれました。それぞれのバンド、どの2文字の意味で言ってくれたんやろな」――そんな上野の呟きは独り言のような温度感でありながら、観客への問いかけも確かに孕んでいる。

TETORA ライブ写真

 上野がコードを鳴らしながら、〈染めて 染めて〉と歌い始めた。1曲目は「8月」。上野自身の中にある“8月”の断片的な記憶を歌った楽曲だ。その記憶の中にはもちろん、人生の大半を注ぎ込んできたライブハウスでの記憶も含まれており、この曲ではバンド活動から得た言葉、人生訓も歌われている。上野はそのフレーズ〈「経験」が盲点にならないように〉を歌い終えたあと、「先輩バンド、後輩バンド、同い年のバンドとかじゃなくて、TETORAにとっては今日出てる全員がライバルバンド。『KAKUSHIN CLUB』、TETORAが勝ちに来ました」と宣言。いのり(Ba)、ミユキ(Dr)とともに力強いサウンドを響かせた。観客は音から3人の気合いをすぐさま感じ取り、拳を上げ、天を叩き、抑えきれないエネルギーを発散させている。上野は顔を上げ、目の前の景色を視界に収めながら歌っていた。

TETORA ライブ写真

TETORA ライブ写真

 TETORAは「素直」「ミッドナイトカモフラージュ」を熱量高く鳴らしながら、観客に「全員、来い!」と投げかける。「ずるい人」の前には、上野がコードを爪弾きながら、「大学にも行かずに、先生に怒られても受験せず、みんなが勉強してるなか、私は歌を書いていました」と語り、〈君に書いた歌を/本人が歌うなよ〉という歌い出しへと繋げた。

 そしてMCでは『KAKUSHIN CLUB』開催の背景が明かされる。「私自身がバンドっていう存在に気づいちゃったのは、ライブハウスじゃなくて、家の近所でやってた夏フェスでした。なんか電気が走ったみたいに、うわーってなって、『バンド組みたい!』ってなって、TETORAを組みました」。上野がそう語ったのは、10-FEETが主催するフェス『京都大作戦』のことで、『KAKUSHIN CLUB』も『京都大作戦』と同じく、関西のプロモーター・サウンドクリエーターの協力があって、開催が実現したという。

 記念すべきフェス初主催のタイミングに立ち会った観客へ「目の前にいてくれて、ありがとうございます!」と伝えた上野は、さらに「13歳の時の私へ。バンドに気づいちゃって、人生狂わせられてくれてありがとうございます!」と続けた。そんなMCのあと、久々に演奏されたのは「13」。モノクロの日常が、何かとの出会いによって、カラフルに色づいていく瞬間を歌った楽曲だ。その“何か”が上野にとって音楽、バンドだったことは言うまでもない。3人は気合いの入った演奏で、今日も鮮やかに日々を更新していく。

TETORA ライブ写真

 「バンドに出会って、そのおかげでライブハウスってヤバい場所に気づいちゃいました!」と叫ぶ上野は、TETORAのホームのライブハウス・心斎橋BRONZEの名前を連呼しながら、「私らが今日のクライマックス!」と宣言した。そうして「7月」から始まった後半戦、バンドの演奏は勢いに乗っている。こうなったら誰にも止められない。「バカ」で上野が「次はTETORAが人生狂わす番!」と叫ぶと、いのりが鳴らす強烈なルート音、ミユキの力強い連打が会場に響いた。「嘘ばっかり」で飛び出した「悔い残すな!」という言葉は、観客にも自分にも向けたものだろう。照明がステージだけではなくフロアも照らす中で演奏した「言葉のレントゲン」では、上野が「『KAKUSHIN CLUB』に気づいてくれて、ありがとうございます!」と観客に感謝を伝え、「今日この1日で、カクシンして、カクシンして、カクシンしました。やっぱりライブハウスにいてるバンドが主催するフェスは本物ってこと」と実感を噛みしめた。

 「冗談混じりで“TETORA早くいなくなってほしい”と言ってるバンドがいたけど……どんとこい! 私らは人の人生狂わす覚悟でいつもステージに立ってるんで」。そんな頼もしい発言も印象的だったMCを経て、ラストには「このイベントのカクシンハン、TETORAでした!」と「Loser for the future」が鳴らされた。地道なライブ活動、カッコいいバンドでいたいという想いの強さゆえに、対バンに“負けた”と感じ、悔しい想いをすることもある日々から生まれた楽曲だ。泥臭い日々の結晶である迫力満点のバンドサウンドが、アリーナに堂々と鳴り渡る。勝ち負けにこだわる日々の全てに意味があるのだと語る〈未来は今日だ〉というフレーズが、この日は、会場にいる誰かの人生を塗り替える言葉として響いた。

TETORA ライブ写真

 その後、TETORAはアンコールを求める声に呼ばれて再登場。「感謝でいっぱいで気を抜いたら泣いちゃいそう」と言う上野は瞳を潤ませ、感極まった様子で、観客や共演バンドに「お互いそれぞれの場所で戦って、またライブハウスで会いましょう」と、さらに「いつも挑戦とか、最新のTETORAを受け止めてくれてありがとうございます。これからも一緒に面白がれますように」と伝えた。そうして終演を迎えた『KAKUSHIN CLUB』。13歳で音楽に出会い、人生を狂わされた一人の少女が描いた夢が現実となったこの日、新たなカクシンの種が、会場をあとにする一人ひとりの胸に宿ったことだろう。

TETORA 上野羽有音×炙りなタウン ゆきなり、カッコいいバンド像の追求 “負けられない相手”としての信頼関係

TETORAと炙りなタウンが4月12日よりスプリットツアーを開催し、全国をまわる。今回はそんな両バンドを代表して、TETORA …

TETORA、ライブバンドの日常における“特別な1日” 剥き出しの演奏で33曲を駆け抜けた武道館ワンマン

『経験が盲点にならないようにツアー』の初日公演として開催された、TETORA初の日本武道館ワンマンの模様をレポートする。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる