THE BACK HORNが野音に刻んだ27年の軌跡 ひとつの歴史の節目を迎え、すべての時代が共鳴した一夜に

THE BACK HORN、野音に刻んだ27年の軌跡

 Zepp Shinjuku (TOKYO)での『「KYO-MEIワンマンツアー」〜Dear Moment〜』ファイナルから僅か1週間、THE BACK HORNは『「爆音夢花火2025」~LAST 野音 NIGHT~』と題して日比谷公園大音楽堂のステージに立った。公演中はあいにくの雨になったが、この程度の雨はTHE BACK HORNのファンなら平気の平左。なにしろ昨年は酷暑だったが、3年前は中断寸前の豪雨、2017年も雨だった。雨確率が高いTHE BACK HORNは今回の野音に合わせて、物販には雨具が並んでいる。ビニールコートやTHE BACK HORNのロゴ入り雨合羽を着た人たちが場内を埋め尽くし、思い切り楽しんだ2時間になった。

『「爆音夢花火2025」~LAST 野音 NIGHT~』(撮影=Rui Hashimoto[Sound Shooter] )

 お馴染のSEが流れ、ファンの歓声に迎えられ笑顔で登場した4人は、オープニングナンバー「レクイエム」で一気に空気を引き締めた。これは2004年7月17日に行った最初の日比谷野音公演『夏のワンマン市街戦!~夕焼け目撃者~』でも幕開けを飾った曲だ。ステージを飾るバックドロップも、その時のもの。その後この日比谷野音で5回『夕焼け目撃者』と題しライブを行ってきたが、今年9月で改修工事のため閉鎖となるためこの景色の中では今回が最後となる。ひとつの歴史の節目という思いが、この日のライブには込められていたようだ。

 2曲目は最新作のリード曲「親愛なるあなたへ」。菅波栄純(Gt)が鋭いリフを掻き鳴らすと山田将司(Vo)が「来いよ!」というように腕を振り、オーディエンスが歓声で応える。〈今ここで 響かせよう 命の咆哮を〉という歌詞に応えて拳が空に突き上げられた。さらに山田が腕を振って「希望を鳴らせ」に突入、タイトルを繰り返すサビは大きなシンガロングと重なった。そんな熱気を冷ますように小雨が降り始めた中、松田晋二(Dr)がマイクを手にした。

山田将司(Vo)
山田将司(Vo)
菅波栄純(Gt)
菅波栄純(Gt)

 「始まりました、最後の改修前の野音。皆さん少し雨の雰囲気を感じてくれてますけど(笑)。最後の野音を体験しにきてくれた超満員の2500人の皆さん、ありがとうございます。『爆音夢花火』は最初に野音をやった時の映像作品のタイトルなんですけど、その雰囲気もありつつ、皆さんに「野音で聴きたい曲」を投票で募っていたので、その曲も、最新のTHE BACK HORNの曲も交えながら、今日は最高の野音を皆さんと作っていきたいと思います。いろんな時代のいろんな楽曲に酔いしれて、今日は最高の夜にしてください!」

 この言葉を受けた「ひょうひょうと」は1stアルバム収録曲。初期の彼ららしい荒削りな魅力のある曲だが、それに続いたのが最新作のダンサブルなナンバー「Mayday」。松田の言葉通り新旧の多彩な曲を畳み掛けてきた。そしてイントロで岡峰光舟(Ba)がベースをうならせた「疾風怒濤」はソリッドなロックチューン。歌いながら山田はクルクル回ったりステップを踏んだりと全身で起伏に飛んだ曲を表現し、歌い終わると「アツいぞ、みんな!」と呼びかけた。

岡峰光舟(Ba)
岡峰光舟(Ba)

 エスニックなセッション風のイントロで始まった「幻日」から、岡峰のベースと菅波のギターがせめぎ合う「情景泥棒」でスリリングな空気を高め、山田も歌いながらギターを弾いてライブならではのバンドの音が響き渡る。さらにこの曲のスピンオフ「情景泥棒〜時空オデッセイ〜」へ。バックトラックに乗せて山田が呟く原曲と対照的な前半からスリリングな後半へと、曲の情景を変えて行く中で菅波のギターソロが熱っぽく光った。その熱のままに「カラビンカ」が続き、山田の力強い歌と菅波のギターに合わせてオーディエンスが腕を上げる。カラビンカ(迦陵頻伽)とは仏教用語で美しい声を持つ人頭鳥身の生き物を表すからだろう、エンディングで菅波はギターを置いて両腕を鳥のように羽ばたかせてステージを飛び回った。

松田晋二(Dr)
松田晋二(Dr)

 そんな菅波を岡峰が「こいつギター弾かねえなと思った」とイジると松田が「カオスだったね」と受け、興奮冷めやらぬ菅波が「心のスクショタイム」と場内を見渡した。松田は最初に野音でやった時を振り返り「当時は音楽もダークで空の下のワンマン大丈夫かと思ったけど、自然の中で描き出す闇の気持ちよさがあった」。この言葉に続いたのは、そんな頃を象徴する曲のひとつ「世界樹の下で」。3連のリズムでドラマチックに響くこの曲は“若き兵士が殺し合うことは美しいと言えるのか”と投げかけ〈みんな幸せな 星座になれたら〉と結ぶ。今もこの歌のような世界は続いている。この曲が「野音で聴きたい曲」の1位だったそうだ。けれど初期の曲もそんなにダークなものばかりではなく、切実な思いがあふれるような名曲も多いのだ。松田のドラムが軽やかなビートを響かせた「幸福な亡骸」は山田が優しく惜別を歌い、「キズナソング」はドラマチックに受け継がれていく命を歌う。THE BACK HORNが人間の本質と向き合って奏でてきた音楽が空の下で響くと、温かい拍手が送られた。

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