Base Ball Bear 小出祐介、モダンに抗ってでも向き合った“存在”の正体 『Lyrical Tattoo』へ至った思考の変遷を語り尽くす

2026年にデビュー20周年、結成25周年という節目を迎えるBase Ball Bearがニューミニアルバム『Lyrical Tattoo』をリリースした。本作は、“存在の手触り”そのものを、今の彼らがロックバンドとしてどう鳴らし、どう歌にできるのかに挑んだ作品だ。インターネットという巨大なインフラの中で、有形無形の魑魅魍魎が世界を左右する時代にあっても、音が鳴る瞬間の身体性や、誰かの記憶に潜り込むような歌の輪郭を信じている──そんな小出祐介(Vo/Gt)の思考の深部が、7曲を通して浮かび上がってくる。
バンドはこの数年、ライブサウンドを根底から見直し、スリーピースの出音がひとつの像として立ち上がる瞬間を追い続けてきた。前作『天使だったじゃないか』に続き、本作にもその芯が息づいている。
この1万字強のインタビューテキストにおいて、小出の言葉は、懐かしさでも総括でもなく、むしろ「今、この瞬間にバンドはどう在るのか」を語り続けている。その姿勢こそが、周年のタイミングにこのアルバムが生まれた理由なのだ、とも思う。(三宅正一)
突きつけられた“音作りの課題”に向き合った日々

ーー小出くんにBase Ball Bearの作品インタビューをするのは久しぶりな気がします。
小出祐介(以下、小出):そうなんですよね。たぶん『DIARY KEY』(2021年10月リリースの9thフルアルバム)以来ですよね。
ーー近年はmaterial clubとしての活動もありつつ、Base Ball Bearとしてはコンスタントにライブもしていて。僕も去年の11月にLINE CUBE SHIBUYAでの『SHIBUYA NONFICTION Ⅱ』を観て、盤石な演奏力や音の良さも含めて、あらためてさすがだなと思ったんですけど。
小出:そうですか。本当にそう思ってる(笑)?
ーーいやいや、思ってるよ(笑)。それで、年末、プライベートの場でちょっと会った時にどうやってライブの音を作ってるのか聞いたじゃないですか。
小出:あ、そうそう、そんな話もしましたね。そういえば、年末、12月30日に『COUNTDOWN JAPAN 25/26』に出て、ライブが終わってお客さんの反応を見てたら、その日1日朝からいたうちのファンじゃない人が、「贔屓目なしにBase Ball Bearの音が一番良かった」って書いてくれていて。年明けすぐのリハでPAの岸さん(岸邦彦)に「こういう感想ありましたよ」って伝えたんですよ。というのも、岸さんとまさに音についての課題を話したのが、4年前ぐらいの『COUNTDOWN JAPAN』のバックステージのフードエリアだったから。同じ『COUNTDOWN JAPAN』のライブで「こう言ってくれてましたよ」って言ったら、岸さんが「まあそうだろうね」って。
ーーカッコいい(笑)。
小出:「こういう考え方で音作ってる人いないから、そりゃね」って。クールに言われて。「喜べよ」って思ったんですけど(笑)。

ーーその4年前の課題と、Base Ball Bearのライブの音作りがそこからどう変化したのか、あらためて聞かせてもらえますか? すごく大事な話な気がする。
小出:僕らにとって3回目の日本武道館ライブをやったのが2022年11月10日で。その年の『COUNTDOWN JAPAN 22/23』のライブ後に、フードエリアでスタッフのみんなとご飯食べてる時に、岸さんに「今日の音どうでした?」って聞いたら、けっこう真剣な顔で「Base Ball Bearはもっとやれると思ってた」って言われて。「え、それは何に関して?」って聞いたら、「音作りに関して。武道館の時からもっとやれると思ってた」と。こちらとしてはそれまでの1年間、武道館に向けていろいろ音を調整してきたつもりだったから、「武道館の時も違和感があったの?」ってなって。岸さんに「勢いでそのままやってる若い子たちだったら今の音作りでいいかもしれないし、何も言わないかもしれないけど、これから40代を迎えようとするバンドの出音として考えるんだったら、このままでいいの?」って言われたんですよ。
ーーなるほど。
小出:具体的に話を聞いていったら、「たぶんメンバー各々が、自分が出して気持ちいい音を追求していると思う」と。その結果、出音の立ち上がりが早ければ、演奏していて手応えがあるから気持ちはいい。僕だけじゃなくて、ドラムの堀之内(大介)も、ベースの関根(史織)も、自分の出音として立ち上がりが気持ちいいものを欲してると。じゃあ実際にお客さんが聴く外音はどうなってるかっていうと、立ち上がりがいい音が全部鳴っちゃってるから、それはいわば“点のぶつかり合い”になってるっていう。立ち上がりがいいっていうのは、アタックがすごく早く立ち上がってくるということだから。そのアタック同士が音の点だとしたら、点がぶつかり合ってる状態。だけど、バンドのアンサンブルは本来もっとにじみ合うべきだし、ドラムとベースとギター、歌、コーラスが絡んで、面として鳴ってるっていうのが一番いいと思うんだけど……うちのバンドは同期もないし、クリック聴くことも特にない。演奏している楽器しか音が出てないバンドなわけです。中音を確認するモニター環境として、イヤモニもしてないし。
ーーそうなんだよね。イヤモニじゃなくて、足元のモニタースピーカー、いわゆる「ころがし」で中音を確認しているという。
小出:そう。岸さんもライブの音作りに関してずっと気になっていたけど、聞かれないから言ってなかった、と。じゃあそのためにはどうしたらいいのか、2023年の年明けすぐにメールで「もうちょっと具体的に教えてくれますか?」って聞きました。岸さんもメールでやり取りするタイプじゃないんだけど、付き合ってくれて。そこから「出音を見直すリハーサルをやりましょう」となって、年明けすぐにライブに向けたリハじゃなくて、バンドのアンサンブルをもう1回見直すだけのリハをやったんですよ。
ーーそこまでやったんだ。
小出:そうなんです。今バンドがどういう音を出してるか確認する一番の方法として……うちの場合はステージ上の立ち位置として、真ん中にスペースが空いてるトライアングルの状態だから、真ん中にしゃがんで演奏してみれば、それぞれがどういう音を出してるかが正面でわかる。歌はわかんないけど、演奏に関してはわかると。実際にそうやって聴いたら、もうバキバキでめちゃくちゃ音が痛かったんです。こういうことか、と。音量のバランス感も音の立ち上がりも、「あちゃー」ってなったんですね。まさに岸さんの言う通り、それぞれが自分の音をモニターするっていうことに意識がいきすぎてた。岸さんがもうひとつ言ってたのは、「自分が気持ちいい音を各々鳴らすのも、音響的な考え方で言えば別になしじゃない」ということ。ただ、「これが俺の演奏だ、以上。それも別にいいんだけど、でもそうじゃないでしょ。レコーディングではいろいろ考えてるじゃん」と。自分がライブで出して気持ちいい音が、バンドサウンドとして、自分がオーディオとして求めるものとイコールじゃなかったっていうことを突きつけられて。「じゃあ全部見直さなきゃダメだね」ってなったんですよ。
ーーどういうふうに変えたんですか?
小出:要は音の立ち上がりを見直すっていうことなんだけど、自分だけの話じゃない、メンバー全員の話なんで。全員の音を調整するためにはまずドラムを見直さなきゃいけないから、ドラムのキットを新しく作ったんですよ。堀之内はパワーが強いドラマーだから、なおさら打点が強く出ちゃう。だから堀之内のパワーをちょっといなしてくれるキットにして。パキパキにならないキットにすることで、パワーを調整してる。
ーー面白い。
小出:ヘッドをいろいろ見直すとか、キックが硬いからビーター(バスドラムのフットペダルに取り付けられた打面を叩くパーツ)を試すとか、いろんなことをやって。そこからドラムの音が決まりました。じゃあベースはどういうロー感が出てればいいか? それに対してギターはどういう音色で上に乗っかってくるか? そういうことを、2023年の頭からその日のリハをきっかけに、その後ツアー中もずっと調整していました。
ーーライブ当日もずっと調整を続けた。
小出:そう。各ライブハウスでリハごとにまずフロアの真ん中にしゃがんで、今日はこういうふうに鳴ってるなとか、演奏しながらフロアに出て、こう聴こえてるなとか全部チェックして。そういう考え方で中音を作っていきました。そして、中音を増幅させて外音としても出力する。つまり、お客さんが体感するのは、目の前のステージで鳴ってる中音とそれを増幅した外音が混ざったものを1個の音像として聴いてるというやり方で。
ーーそして、2023年以降からかなりライブの音が変わったと。
小出:本当に変わりましたね。そのまま放置してたら悪い意味で今と全然違ったと思います。正直、岸さんともっと早くこういう会話がしたかったなって思った。でも岸さんの職業の美学もわかるじゃないですか。中で鳴ってるものを外でちゃんと作るのがPAの仕事という矜持もあるし。あの時の『COUNTDOWN JAPAN 22/23』で「どうだった?」って聞いて、岸さんが武道館の音が良くなかったって引っかかってたというわけだから。あの時、聞いて本当に良かった。
ーーじゃあもう一度武道館やらないとね。
小出:次はもっといい音で演奏できるはずです。
Base Ball Bearとmaterial clubで異なるサウンドの考え方
ーーちなみにその話が、2024年2月にリリースした前作『天使だったじゃないか』に与えてる影響ってあるんですか?
小出:もちろんあります。『天使だったじゃないか』でパワーポップをやってみようという理由はまた違うアングルからの発想なんだけど、『天使だったじゃないか』の音の雰囲気をちゃんとライブで作るためには、毎回確認しないといけなかったから。パワーポップでファットな音作りをやろうと思ったら、それまでのサウンドと考え方が違うので。『天使だったじゃないか』のツアー中もずっと調整してました。すごく貴重な時間を過ごしましたね。岸さんに嫌がられるぐらい毎回聞いてたし(笑)。「音、大丈夫ですか?」って。
ーーパワーポップに着手したのは別のアングルから、というのはどういう理由だったんですか?
小出:当初、『天使だったじゃないか』はサウンド面でも企画色が強いものを作ろうとしていたんです。その時に考えてたのは、真逆のことだった。すごく冷たい音のアルバムを作ろうとしていたので。
ーーそうなんだ。
小出:そうなんですよ。すごく冷たい音にしようと思ってたんだけど、やってみたら全然キャラに合わなかった。ART-SCHOOLのコスプレしてるみたいな感じになっちゃって。考え方としてはポストパンクっぽい音、ニューウェーブっぽい音をやろうとしたんだけど、結果それを日本でやったらART-SCHOOLの劣化版になっちゃったという感じで。
ーーでも、そのムードはmaterial clubにフィードバックした部分もあるんじゃないですか? material clubが2024年10月にリリースしたアルバムはポストパンク、ニューウェーブ感はあるじゃないですか、「水のロック」しかり。
小出:ああ、そうですね。あれはキダ(モティフォ)さんとナリハネ(成田ハネダ)がいるからこそやれるなっていう感じで出せた要素ではあるよね。
ーーそういう棲み分けができるのは良かったよね。
小出:material clubではそういう冷たいサウンドもできるっていうね。キダさんみたいなエッジィなギタリストがいるから、material clubでは思いっきりやれるんだけど、Base Ball Bearでは似合わなかったから、じゃあ真逆にいってみようかと。エッジィなものが冷たいのであれば、真逆のファットなギターのパワーポップをやってみようかって試したら、「やっぱこっちのほうがキャラに合ってるね」ってなったんですよね。
ーーしっくりきた、と。
小出:曲を作ってても、ライブをやってもしっくりきました。自分らの血の中にはあるのに、ちゃんと意識的にはやってきてなかったから。やってみたら「似合うね。楽しいね」ってなったんですよね。
ーー血の中にあったけど全然出してなかったっていうのは、今作のサウンドプロダクションにも言えることですよね。
小出:そうです。だから『天使だったじゃないか』を作り、「夏の細部」(2024年にダウ90000の演劇公演『旅館じゃないんだからさ』の主題歌として書き下ろし、2025年8月にリリースしたシングル)を作り、この方向でもうちょっと突き詰めてみたいなと思ったんですよ。





















