アユニ・Dが刻む、矛盾や葛藤を超えた今の“私” PEDRO待望の新作『ちっぽけな夜明け』で放つ決定打

PEDRO、『ちっぽけな夜明け』で放つ決定打

 アユニ・Dによるバンドプロジェクト・PEDROが、ミニアルバム『ちっぽけな夜明け』を9月10日にリリースする。アユニ・Dとはなにか、そのアユニにとってPEDROとはなんなのか、なぜ彼女は今、曲を作り、歌詞を書き、ベースを弾いて歌っているのか、そしてそれはどうしてロックバンドでなければならないのか――。BiSHの一員として活動していた頃からこのバンドにまとわりついていた……というか、もしかしたらアユニ自身が囚われていたかもしれない数々のクエスチョンに、面と向かって、胸を張って応えるような全6曲が揃っている。「PEDROってなんなの?」と聞かれたら、黙ってこのミニアルバムを差し出せばいい、それぐらいの潔さと明快さと強さが、この作品にはみなぎっている。

 今から遡ること2年、2023年はPEDROにとって大きな転機だった。言うまでもなく、BiSHの解散という大きな出来事があったからだ。2023年6月29日、BiSHは目標であった東京ドームでのワンマンライブでその活動を終えた。そこから、PEDROの新章は始まっていった。2021年の12月に行われた横浜アリーナでのライブをもって無期限の「充電期間」に入っていたPEDROは、BiSH解散ライブの翌日である6月30日、初ライブの場所でもあった新代田フィーバーでシークレットライブを開催。そこで、常にアユニを横で支えてきた田渕ひさ子に加えて新ドラマーとしてゆーまお(ヒトリエ)を迎えた現体制をお披露目した。

PEDRO / さすらひ [午睡から覚めたこどものように @ 新代田FEVER] with interview

 その後、7月5日には過去の楽曲の中からアユニ自身が作詞作曲を手掛けたものを新体制で再レコーディングしたアルバム『後日改めて伺いました』をリリース。このアルバムを聴き、その後のツアーでのライブを観て、筆者は衝撃を受けた。自身がフロントパーソンを務めるバンドでありながら、精神的にどこか“お客様”から脱しきれていなかったアユニが、手練れのサポートメンバーを引っ張っていこうとしているのがはっきりと感じられたからだ。だが、その気負いと責任感は、新たな迷いへとアユニを導いていった。

PEDRO TOUR 2023「後日改めて伺いました」 [OFFICIAL TRAILER]

 2023年にリリースされたアルバム『赴くままに、胃の向くままに』はアユニが尊敬するミュージシャンなどさまざまな外部アレンジャーを迎え、より自由かつオープンに制作に臨んだ作品で、とても開放的でキャッチーなアルバムだったと思う。だが、そんなアルバムを作ったアユニ自身は、作品そのものには手応えを感じている一方で、どこか戸惑っているようでもあった。そこにはおそらく“時期”による部分もあったのだろう。BiSHという大きな存在がなくなり、自分の人生を懸けるものはPEDROのほかにないという状況で、目の前にあるそれをより慈しみ、愛おしむ気持ちが生まれたとして、それは不思議でもなんでもないし、そうやって人との繋がりの中で音楽を生み出すことは彼女にとって心地のいいことだったはずだ。だが、それでは満ち足りないものが彼女の中には間違いなくあった。

PEDRO | ALBUM 赴くままに、胃の向くままに 全曲 LIVE VIDEO [Zepp DiverCity 2024.03.12]

 それを自覚したところから、今に至るPEDROの覚醒は始まった。YouTubeで公開されている、昨年の『PEDRO TOUR 2024「ラブ&ピースツアー」』を追ったドキュメンタリーで、アユニはこんなことを言っている。「孤独は、自分の本音を押し殺しているときに生まれる葛藤のようなものだと思ってて。私がもっと本音を押し殺さずに、人やものに向き合うことができたなら、その葛藤はきっと美しいものになるなって。孤独も美しいものになると信じてます」。実際、このツアーでのアユニは自身の思いや感情に対してとても正直に音楽をやっているように見えた。そんな『ラブ&ピースツアー』、そしてその最中の2024年11月にリリースされたミニアルバム『意地と光』は、アユニが“アユニ・D”を取り戻していく契機となった。〈わがままも承知さ/何もできやしないが/なんだかんだ言わせてよ/元気でいておくれ〉。そう歌う「アンチ生活」という曲には、アユニが何を思い、どんな態度で日々を生きているのかがありのままに描かれていた。

PEDRO / アンチ生活 [LIVE VIDEO]

 前置きが長くなってしまったが、そんな変遷を経て、ついにできあがった“決定打”が、今回の『ちっぽけな夜明け』である。自身の生まれ年を曲名にした「1999」の〈こんにちは、僕です〉という言葉から始まるこのミニアルバムにアユニが刻みつけたものとは、清廉潔白でも聖人君子でもない、相変わらず泥臭くて青臭くて面倒臭い、こんな世界クソだと思いながらも心のどこかでいつも幸せを願っている、ひとりの人間の姿だ。

 〈泣いて食った飯の数と/必死に恥かいた日々を/希望と呼ばずになんと呼ぶ〉〈神様なんかにはなれなかったけど/ありのままの僕で叫び続けるよ〉――絶望にぶん殴られ、自分自身に苛立ち、周囲とぶつかり、ぐっちゃぐちゃになりながら歩んできた人生。それを丸ごと受け入れ、そんな自分だからこそ希望も夢も歌えるんだという自覚。それがこの曲、そしてミニアルバム全体に溢れかえっている。

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