keinは“現在進行形”のロックバンドだ――未来へ向かうためのツアー『delusional inflammation』を振り返る

kein、未来を見せたツアー最終公演

 「人生は何が起こるかわからない」なんてことをよく聞くし、想像してもみなかった未来に遭遇することは誰しも生きていればいくつかあることだ。人気絶頂の最中で解散し、メンバーのその後における華々しいキャリアの起点となったバンドであるkeinが、解散から22年の歳月を経て再結成したというニュースもそれに値するだろう。

 令和の時代にkeinが“生きている”というだけでもにわかには信じ難い事実であるのにもかかわらず、過去を懐かしむだけの再結成ではないことを示すようにEPをリリースし、さらにはメジャーデビューまで果たしてしまったのだ。つくづく我々の想像もしない方向に転がっていくバンドであることを痛感させてくれる。彼らが7月にリリースしたメジャー2nd EP『delusional inflammation』を携えた『TOUR 2025「delusional inflammation」』のファイナル公演を7月20日に神奈川・SUPERNOVA KAWASAKIにて開催した。本稿では22年越しのメジャーデビューを果たした“オールドルーキー”による圧巻の一夜の模様を記そうと思う。

 再結成からまもなく3年が経過し、当時の活動期間より再結成後のほうが長くなることとなる。この7月にリリースされた『delusional inflammation』のインタビュー(※1)では、今ツアーを「来年以降の動きの兆しや、僕らが進むべき方向、進みたい方向を見せられるツアーになる」と話しており、この日は間違いなくkeinの未来への起点となる一夜なのだ。

 ステージ後方にはバックドロップが吊られ、赤と青が混じる怪しげな照明に浮かぶ“kein”の文字がオーディエンスを出迎える。定刻を少し過ぎた頃、暗転する場内に開演を告げるSE「Anno Domini」が響くと、次々とメンバーがステージイン。眞呼(Vo)が登場すると、「ようこそ!」の声とともに2nd EP同様「斧と初恋」でライブの幕を切って落とした。続く「リフレイン」でギアを上げ、そのままバンド随一のヘヴィさを持つ「Spiral」へと雪崩れ込むと、玲央(Gt)はフロアを煽り、攸紀(Ba)は不敵な笑みを浮かべる。ここまで再結成後の楽曲がずらっと並んできたが、当時の楽曲からテイストが一変していることは明らかだ。20年以上経っているのだから当たり前と言ってしまえばそうなのだが、そのアンサンブルや一音一音の説得力に、それぞれが第一線で活躍してきた経験をkeinというバンドに還元するように、その技術はもちろんバンドマンとして矜持をぶつけていることがわかる。

 その姿勢は今作に収録されている「幻想」でも感じることができた。耳をつんざくようなフィードバックノイズを断ち切るように攸紀がベースを響かせ、Sally(Dr)渾身のエイトビートが走りだす。keinが今作で意識した“メジャー感”や“抜け感”をダイレクトに反映しながらも、途中玲央がマイクを取る場面はこの日のハイライトのひとつであり、今後の見どころにもなっていくはずだ。

 ライブが中盤に差し掛かると、歌を軸に据えた楽曲群が並ぶセクションが待ち構える。aie(Gt)のギターソロに導かれるように始まった「幾何学模様」ではグルーヴィーなアンサンブルを聴かせてくれたし、「思い出の意味」では眞呼の伸びやかな歌声を堪能することができた。また、keinの代表曲である「嘘」もこのタイミングで披露されることとなり、あらためて彼らの楽曲の幅広さを感じさせる。当時の楽曲と新曲群とのコントラストを色濃く打ち出すことで、keinというバンドが令和の時代に現在進行形のバンドとして生きていることを示すこととなった。

 「遠いところまでお越しくださってありがとうございます、keinです。今日は最高に楽しみましょう!」という挨拶を経て、「FLASHBACK THE NEWSMAN」をドロップし、徐々にフロアのボルテージを上げていく。そこからさらにぐっとオーディエンスを深淵の世界に引き込んだのは、呪いの言葉のごとく早口で捲し立て、そのダークさをもって地獄に叩き落とすようなハードな変拍子ナンバーである「Puppet」、さらに変幻自在のツインギターと縦横無尽のリズム隊によるkein流ダンスナンバーともいえる「Rose Dale」といった『PARADOXON DOLORIS』に収録されている新曲群だ。

kein『TOUR 2025「delusional inflammation」』

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