熊木幸丸、11年目のLucky Kilimanjaroは中庸を取らずに両方を攻める 「ずっと平均台の上で踊り続けていたい」

「11年目だからって、こっちは落ち着いてねえからな!」って吠えている

ーー(笑)。歌詞についてもう少し伺うと、この曲で描かれているのは、社会的には「大人」と呼ばれる存在だと思うんですけど、でも、決してそれだけでは完結し得ない心の内側を持った人間ですよね。「大人になり切れない」というとちょっと違うと思うけど、内面に子どもの頃から変わらない視点を持ち続けている人、というか。〈大人になってもこんな調子さ〉というフレーズがまさに象徴していると思うんですけど、この歌詞に表れている人間像は、熊木さん自身と通じるものはあると思いますか?
熊木:そうですね、特に最近はこういうことをよく考えていて。大人って「線」に生きていると思うんです。過去があって、今があって、未来があるという、その「線」の中で生きている。だから未来が不安になったり、過去に囚われたりすると思うんですけど、子どもは「点」を生きている存在ですよね。過去がどうとか未来がどうとかではなくて、今この瞬間だけを味わっている。それが子ども。本来は、大人になっても、その両方を行き来できている方がいいと思うんです。
ーー「線」と「点」を行き来する。
熊木:大人になっても子どもみたいな瞬間があってもいいし、もっと言えばクラブで踊る時間って、大人も子どもに戻るような時間だと思うんです。でも一方で、会社に行ったり、Googleカレンダーをいじっているような時間というのは、完全に大人の時間。それは両方必要なもので、それを上手いこと切り替えることができたり、使い分けができるということが、生きるうえですごく大事なことだと思うんです。この曲の登場人物は、〈次の支払いはいくら?〉とか、〈大人になってもこんな調子さ〉と言っているくらい「線」で生きているんですけど、一瞬のディストーションで「点」を味わおうとするし、「点」を味わうことで、「線」の形を変えてやろうとする意志がある。そういう部分は、「点」に生きるか「線」に生きるか、そのバランスをどう取ろうか? ということを考えている最近の自分の感覚が反映されていると思いますね。
ーーいくつかのポイントがあることを知ったうえで、「そのバランスをどう取るか?」ということは、熊木さんは大事にされていますよね。
熊木:「バランスは大事だよね」っていうのは、特に最近の自分の楽曲にはすごく出ていると思いますね。バランスが取れていないと、結局、上手くいかないなと思うんです。強さだけではダメで、弱さがあって、ようやくバランスが取れる。今、いろいろな情報が溢れている中で、「強さがあればなんとかなるんだ」って、ひとつの武器を取ろうとしてしまうこともあると思うんですけど、ひとつの武器やひとつの依存先だけだと、上手くいかない。そのひとつが破綻する可能性や、ひっくり返ってしまう可能性だってあるわけだから。だからこそ、いくつかの点を持って自分のバランスを取り続けていくほうが、より楽しく豊かに生きていくことができると思いますし、いろいろな人と付き合っていくことができると思うんですよね。その上で、バランスを取ることが「中庸を取ること」にはならず、「両方を攻める」という形にできれば面白いんだろうな、と思います。
ーーああ、なるほど。
熊木:自分がそれをできているかはわからないですけど、でもそう思っているから、こんな変な楽曲が生まれているんだろうし(笑)。


ーー(笑)。「中庸」にならず、「両極を攻める」というのがいいですよね。
熊木:行ったり来たりしていたいんですよね。平均すれば中庸かもしれないですけど、でも、実際は行ったり来たりしているという。そういうポジションが面白いと思いますし、そうあることができれば、伝えられることも増えると思うんです。「強くあれ!」という曲があってもいいし、「弱くていいんだよ」という曲があってもいい。そのふたつがあることで、「どっちもありなんじゃないか」と思ってもらえればいいなと思ういます。時間によって自分のバランスを変えていくことが、きっと本来的に大事なんですよね。周りからすれば矛盾しているように見えることでも、自分の中では矛盾していないことってあると思うので。
ーーひとつの絶対的な結論を追い求めるんじゃなくて、瞬間的にいろいろな結論が出たっていいですもんね。
熊木:ずっと平均台の上で踊り続けていたいんです。ずっと同じところに居続けられるわけじゃないから。そのためにバランスが大事ですし、バランスの「取り方」も大事だなって思います。あと、そんなにたくさん、線を見る必要はないと思うんですよ。たくさん点を打っていれば、勝手に線はできる。それでいい気がする。自分の曲作りもそうで、「こういう曲を配置してみたら、あとでどこかで面白くつながるだろう」とか、そのくらいの感覚で出しているんですよ。変に「今のLucky Kilimanjaroが求められることをやろう」って、線をイメージして点を打つんじゃなくて、「とりあえず、ここ面白そう」と思うところに点を打っていけば、いつの間にかそれが線に見えてきて、成立することってあるんじゃないかと思うので。そういう意味でもたくさんリリースしたいですし、「丁寧にリリースしてらんねえ」っていう気持ちもあるんですよね。
ーーそれで言うと、「はるか吠える」の歌詞に出てくる〈わからないことだらけさ〉というフレーズは、線を見ている状態では不安の言葉として出てくるけど、点にいる状態から出てくる言葉としては、希望のある言葉なんですよね。「わからない」が希望になる瞬間がある。
熊木:「わからない」って、すごくいいことだと思います。わかっている限り、何もできないんですよ。「わからない」って、未来を連れてきてくれることでもある。もちろん、わからないことは不安でもあるけど……「そんなに不安になってもねえ?」って(笑)。とりあえず、点を打とうぜって。わからなくていいから、面白いことやろうぜって。そんな気持ちが今はありますね。
ーー「はるか吠える」というタイトルは、どのように付けられたんですか?
熊木:正直、このタイトルは曲とはあまり関係なくて。シンプルに、Lucky Kilimanjaroを知らないはるか遠くにいる誰か、あるいは熊木幸丸という人を知らないはるか遠くにいる誰かに向かって、「(早口で)Lucky Kilimanjaroはこんなもんじゃねえぞ!」と吠えているイメージです(笑)。
ーーいいですね(笑)!
熊木:「11年目だからって、こっちは落ち着いてねえからな!」って吠えている感覚(笑)。

ーー「こんなもんじゃないぞ」というのが、今の熊木さんのモードなんですね。
熊木:常にそう思っていますね。そう思っていないと退屈になってきますし、「こんなもんじゃ満足させねえからな、俺は!」って(笑)。「もっと面白いことしてやるからな!」っていう、そういうことを11年目の夏シングルで吠えたくなったんだと思います。
ーー最高だと思います。思えば、「エモめの夏」や「踊りの合図」「ファジーサマー」「後光」……これらの夏シングルの歴史の中でもかなり異色の曲になりましたよね。
熊木:「はるか吠える」は、自分が高校生の頃、暑い中でもイヤホンで音楽を聴きながらチャリで高校に部活をしに行っていた頃を思い出して作っていた曲でもあって。なので、絶対に夏が合うなと思ったし、自分が高校生の頃だったら絶対に聴いていたなと思う曲で。これを聴いて、いい夏にしてほしいなと思いますね。
ーーじゃあ、歌詞の〈ださい自転車〉というモチーフは、熊木さんが10代の頃に漕いでいた自転車のイメージでもあるんですね。
熊木:そうなんです。あと最近、教習所に自転車で行っているんですよ。5年前くらいに買った自転車なんですけど、ほんとダメな自転車で(笑)。メンテナンスをしていないこっちが悪いんですけど、その自転車、漕いでも漕いでも「これ、歩いているのとほぼ同じなんじゃないか?」ってくらいのスピードで(笑)。
ーー(笑)。
熊井:そのチャリを漕いでいるときに「なんだこのチャリ、ダサいなぁ」と思って。それで歌詞メモに〈ダサい自転車〉って入れていたんです。
ーーなるほど(笑)。最後に、今回はジャケットに映っているのがギターですが、熊木幸丸という音楽家にとって、ギターという楽器は、何をもたらす楽器と言えますか?
熊木:そもそも14、15歳の頃にギターを手に取ったところから音楽を始めていますし、今でも、自分が歌で何かをしたいと思うときにまず手に取るのはギターなんです。鍵盤を弾きながら歌うこともあるんですけど、結局、一番しっくりくるのはギター。僕の場合はですけど、シンセサイザーやピアノより、ギターを使っているときのほうが人間的なメロディになりやすい気がします。コードの押さえ方やちょっとしたズラし方もわかっているからかもしれないですけど、ブルージーな質感というか、弱さ、捻くれている感覚……そういう人間の感情の美しくない部分とか曖昧な部分まで含めて表現しやすい楽器だと思うんですよね、ギターは。だから、歌う分にはすごく自由度が高いですし、曲を作るときに「メロディを考えよう」となったら、まずはギターでコードを弾きながら考えることが多いです。楽しい楽器ですよ、ギターは。僕にとってギターを持つことは、自分が感情的になるスイッチを押すことでもあって。ギターを持った瞬間に「とりあえず、鳴らすか」って、フィーリングから入りたくなる。頭で考えながら曲を作るんではなくて、ふと鳴らしてみて、歌ってみるっていう、自分の頭で考えていないレベルでの即興が始まるのがギターだなと思います。ギターをやっていてよかったなって思います。


■リリース情報
Lucky Kilimanjaro デジタルシングル
「はるか吠える」
2025年7月2日(水)配信リリース
配信リンク:https://lnk.to/lk_harukahoeruNR
■ツアー情報
『LOVE MY DANCE LOVE YOUR DANCE』
5/11(火・祝) 大阪:服部緑地野外音楽堂 ※フリーライブ
OPEN/16:15 START/17:00
5/30(金) 横浜:KT Zepp Yokohama
OPEN/18:00 START/19:00
6/28(土) 仙台:SENDAI PIT
OPEN/17:00 START/18:00
6/29(日) 郡山:HIPSHOT JAPAN
OPEN/17:00 START/18:00
8/3(日) 東京:TOYOSU PIT
OPEN/17:00 START/18:00
8/9(土) 名古屋:Zepp Nagoya
OPEN/17:00 START/18:00
9/20(土) 高松:Festhale
OPEN/17:00 START/18:00
9/23(火・祝) 福岡:Zepp Fukuoka
OPEN/17:00 START/18:00
10/25(土) 大阪:なんばHatch
OPEN/17:00 START/18:00
10/26(日) 岡山:CRAZY MAMA KINGDOM
OPEN/17:00 START/18:00
11/16(日) 広島:CLUB QUATTRO
OPEN/17:00 START/18:00
11/24(月・祝) 札幌:Zepp Sapporo
OPEN/17:00 START/18:00
■関連リンク
Lucky Kilimanjaro Official Fanclub「LKDC」:https://fc.luckykilimanjaro.net/
オフィシャルサイト:https://luckykilimanjaro.net/




















