Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸、“生きる=大変”な時代に音楽ができること 「安心できる心の置き場になってほしい」

LK熊木幸丸 音楽で作る“居場所”

 7月に『Dancers Friendly』、そして10月に『Soul Friendly』という、コンセプトの異なる2枚のミニアルバムを続けてリリースしたLucky Kilimanjaro。「体を踊らせる」ということに徹底的に向き合いながら、それでいて彼ららしい繊細さとしなやかさを持つダンスミュージック集となった『Dancers Friendly』に対し、この度リリースされる『Soul Friendly』は、より柔和な表情を持つ、あなただけのパーソナルスペースを温める愛と安寧の作品集となった。でも、そこはラッキリ。その柔らかで静かな温かさの中にも、命が燃え上がるような恋とダンスのフィーリングもまた確かに、刻まれている。

 かつて「HOUSE」でインドア人間の踊るような生活を歌い、「350ml Galaxy」で見事な「帰り道アンセム」を奏でたラッキリの新しい表情が『Soul Friendly』にはある。以下のインタビューで熊木幸丸自身が語っているように、『Soul Friendly』のテーマは「つながり」だ。喜びも、いたわりも、ときに傷も、ここでは「交わし合う」ものとして描かれる。感覚的な言い方になってしまうが、今までのラッキリの音楽が「おかえり」と言いながら聴き手を招き入れるものだったとしたら、『Dancers Friendly』と『Soul Friendly』の2作は、「いってらっしゃい」と言いながら、聴き手の中にお守りのような体温を残してくれるーーそんな作品たちだと思う。そこには信頼がある。

 この『Dancers Friendly』と『Soul Friendly』という2作品、そして11月からは10周年を締め括るツアーも開催され、そのファイナルとして来年2月には幕張メッセでのワンマン公演も控える今現在のモードについて、熊木に話を聞いた。(天野史彬)

EP制作で得た“ダンスミュージック”の気づき

Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸

ーー『Dancers Friendly』と『Soul Friendly』という2枚のミニアルバムを作り上げて、改めて、熊木さんの中でコンセプトの異なる2作を作ったことの必然性はどんなところにあったと思いますか?

熊木幸丸:元々は「Lucky Kilimanjaroの音楽を要素分解したらどうなるか?」というところから、「体で踊れる」と「心で踊れる」というふたつのコンセプトの作品をそれぞれ作ったら面白そうだという興味本位からスタートしたことなんです。『Soul Friendly』までできた今、改めて感じるのは「同じことをしていた気がする」ということですね。「不可分なものを分けようとしていたんだな」という感覚はすごくあります。結局、体と心は表裏一体で、連動し合っている。それを僕は自分の曲でずっと表現していたんだなと思いました。もちろん、だから意味がなかったというわけではなくて。

ーーはい。

熊木:その不可分さに気が付くことができてよかったですし、「こういうふうに、僕の音楽は心と体の間を揺れ動いているんだ」という気付きがあった。それがまず、この2作品を作って幸せだったことだなと思います。

ーー「6曲入りのミニアルバム」というサイズ感についてはいかがですか? フルアルバムともシングルとも違う、このサイズだからこそ表現し得たものもあったのではないかと思います。

熊木:そうですね。ひとつのテーマにフォーカスしたとき、3曲くらいのサイズ感だとそこまで選択肢も広がらないですけど、6曲あれば、ひとつのテーマに対していろいろなアプローチの仕方ができますし、アルバムほどバランスを気にしなくていい。作っていて新鮮で楽しかったです。

ーー来年2月には幕張メッセでのワンマン公演も控えていますが、ライブの規模感もどんどん大きなものになっていき、よりたくさんの人に作品を届けていこうという中で、今のLucky Kilimanjaroのアクションがこの2作品だったことの意味は、熊木さんの中でどのように考えられていますか?

熊木:そもそも、この1年くらいはダンスミュージックの「体で踊れる」気持ちよさを強く打ち出してライブをやってきたんです。それはコロナ明けで、お客さんの動きがリセットされたような感覚があった中で、より「ダンスミュージックの機能的な魅力をしっかりと伝えなくてはいけない」という気持ちがあったからなんですけど、僕が本質的に思っている音楽の美しさって、そこだけではなくて。

 僕が中学生の頃にBUMP OF CHICKENの音楽を聴いたときと同じような、モヤモヤや傷つきに対しての解答やカタルシスを得ることができるという部分にも音楽の美しさはあるし、僕はそういうものとしてもダンスミュージックを捉えてきたんですよね。その部分もどうにかしてしっかりと伝えたい、というのが根本にあって。2023年の『Kimochy Season』のときもそれを伝えようとしてはいましたけど、あくまでも体と心を混合する形でしか表現できていなかったと思うんです。今回「分けてみたい」と思った大きなモチベーションはそこだったんですよね。「ダンスミュージックって、実は心の部分でも踊れるものなんです」ということをしっかりと伝えたかった。そこには僕の焦燥感や、「今これを伝える必要がある」という必然性があったんだと思います。

Lucky Kilimanjaro 熊木幸丸

ーーもちろんこの先も様々なアクションを起こしていくと思うんですけど、今このタイミングで「表面的に盛り上げよう」ということではなく、自分たちがやっていることの両義的な部分、純粋な部分をちゃんと伝えようとされているところに、とても誠実さを感じます。

熊木:僕らは今年10周年なんですけど、これまでの10年というよりは、「次の10年をみんなにどうやって踊ってもらうか?」ということを考えるんですよね。僕らよりもひと回りくらい下の世代の人たちがこの先、社会に出ていくこともあるだろうし、「その先でも踊れる音楽をどうやって提示していくのか?」ということは考えます。みんなの人生の中で当たり前のようにダンスが機能するためには、やはり本質的な音楽の魅力、ダンスの魅力を伝えなくてはいけないなと思うんですよね。……まあ、ミニアルバムを2枚作るの、すげえ大変でしたけどね(笑)。

ーー大変でしたか(笑)。

熊木:途中から「本当に分けるのか?」みたいな気持ちになってきて(笑)。でも、『Soul Friendly』のマスタリングをしたときに「分けてよかったな」と思いましたね。

ーー振り返って、『Dancers Friendly』を作っていたときの熊木さんのモードはどのようなものでしたか?

熊木:去年、シングル『後光』のカップリングで「でんでん」という曲を出したんですけど、その後ツアーで演奏していくうちに「これくらいマッシブな曲でも、お客さんからレスポンスはあるんだな」と思ったんです。「みんな自由に踊ってくれるんだな」という手応えがあって。こういう曲にもお客さんが感情を乗せてくれるなら、僕もそれに応えたいなと思ったんです。ただ、そうは言っても僕が求めているダンスミュージックの熱狂はマッチョな感じのものではなかったんですよね。愛を持って、マッシブなダンスミュージックを伝えたかった。そのバランスを全体的なテーマにして作ったのが『Dancers Friendly』ですね。「強くあろう」とするよりは、むしろ「弱くあっていい」という状態の中で踊ってもらおうっていう。

ーーそれに対して「Soul」、いわば「魂」という言葉を掲げた『Soul Friendly』の根幹にあったテーマはどのようなものでしたか?

熊木:『Soul Friendly』は今までの作品に比べてもかなり多くのデモを書いたんです。普段よりも4倍くらいのデモを書いたんですけど、歌詞を書く中で思ったのは「愛」や「つながり」、「能力に限らない相互承認」、「お互いの居場所」ーーそういうものが全体のキーワードになっているな、ということで。それにプラス、『Kimochy Season』からずっと歌っている「心の動きへの許容」。自分の心の変化や、そこで生まれるギャップからくる傷つきを認めること。それが、『Soul Friendly』の根底にあったものだと思います。

ーー収録曲の中でも「フロリアス」や「コーヒー・セイブス・ミー」のような曲は、1曲の中で大胆に曲調が変化しますよね。こうした部分も、動きや変化への許容という部分が表れているような気がします。

熊木:そうですね。もはや「展開」とも言えないような、そもそもの土台が変わってしまう、「そこまで変えちゃう?」というくらいの変化が1曲の中で起こってもいいんじゃないか? というサウンド面での興味があって。そうやって驚きを与えてみたいと思ったんですよね。言うなれば、転職して業界ごと変えても面白く生きていけている、みたいな(笑)。そのくらいのインパクトが必要かなと。特に「フロリアス」は、2部制でデザインしてみることで、ひとつのメッセージの伝わり方が多面的になるんじゃないか? と思って作りました。現代のショートに消費するスタイルとは逆を行っている気もするし、むしろ曲の前半と後半のどちらもショートに消費してもらってもいいような気もするし。そのくらいの面白さがある曲になったと思いますね。

ーー「フロリアス」は、後半はmaotakiさんがメインボーカルをとっていて、このツインボーカルもLucky Kilimanjaroとして新しい試みですよね。

熊木:そうですね。作りながら「ここまで変わるなら、歌ってもらっても面白いんじゃないか?」と思って。maotakiさんも歌える人だし、試してみたらすごくはまりがよかったんですよね。

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