弌誠、キャラクターの輪郭を露わにする“憑依型の歌声” 意外性とスリルに徹した予測不能な表現力

『原神』や『崩壊:スターレイル』などの人気ゲームタイトルの開発/運営元、HoYoverseの最新アクションファンタジーRPG『ゼンレスゾーンゼロ』のローンチからまだ1カ月も経っていないーーそんなゲームとしてもこれからのタイミングで、2024年7月19日、ネットの海に、とあるファンメイドのキャラクターソングが投下された。それは、ゲーム内のキャラクター、エレン・ジョーにインスパイアされて制作したという弌誠の「モエチャッカファイア」だ。
その曲名の通り、のちにTikTokのUGC(ユーザー生成コンテンツ)でも爆発的に使用されるようになり、各種音楽チャートにランクイン。バイラルヒットした。ネットシーンで受け入れられやすいアングラなサウンドメイクはもちろん、萌え要素のあるメイド姿とは裏腹に、中身はドライで淡白というエレン・ジョーの“意外性”を、気だるさの漂う低域に沈む声として落とし込むことで、キャラクターのギャップを最大限に引き出した。ここに、バズの要因があったのだと思う。「モエチャッカファイア」は、今年5月に開催された『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』でも6部門にわたってエントリーし、弌誠の正真正銘のアンセムになった。
とはいえ、ヒットする以前から、ユーモラスななかにも可憐さが宿る「よなべのタンゴ」や、ネット掲示板「2ちゃんねる」発の都市伝説を映画化した永江二朗監督の『きさらぎ駅』の主題歌「通リ魔」、同じく永江二朗監督の映画『リゾートバイト』の主題歌「しあわせレストラン」をきっかけに、早期の段階で“見つけてしまった感”を味わっていたリスナーもいるはず。たとえば、2023年4月にリリースされた「恋舞」には、日本古来の伝統的な歌曲「さくらさくら」のメロディが取り入れられているなど、日本の童謡から着想を得たアニミズム的な感性が息づいている作風であることは外せないポイントだ。ミニマムながら、一音一音が深く沁みる童謡ならではの余韻が鍵となって、「よなべのタンゴ」のMVをはじめ、ハートウォームな世界が開かれている。
2020年2月の初オリジナル曲投稿から約5年で積み上げてきたタイアップ曲、さらにはキャラクターソング。今の弌誠とはいったいどんなシンガーソングライターなのか。そこで、筆者の考える弌誠像は、作品上のキャラクターの輪郭を声そのもので表現する“キャラクター憑依型”の新しいタイプのシンガーソングライターということだ。
そのことは、映画『きさらぎ駅』の新作続編となる映画『きさらぎ駅 Re:』の主題歌「ガタゴト」にも表れている。重力感のあるボーカルとトリッキーな音使い、ジャンルを越境したメロディが、ホラー作品ともかなり相性がいいのは「ガタゴト」を聴けば明らか。ハードコアテクノやチップチューンの香るサウンド、グリッチを掛け合わせた十分な存在感に、バーチャルとリアルを彷徨うMVの視覚的なストーリーも劣らずスリリング。なかでも、シンフォニックな響きを持ったブロックへと転換する時のハイな歌声は、上下どちらにも伸びる柔軟でレンジの広いボーカルの可能性を感じさせるものだ。こうした歌声の実験的なアプローチが光っていたのは、昨年末にリリースされた『ゼンレスゾーンゼロ』の星見雅のキャラクターソング「あられやこんこん」でもあった。狐を連想させるハイトーンボイスは、「モエチャッカファイア」の骨太なテクスチャーとは180度違う。「ガタゴト」のラスサビ前に狭まるブレイクダウンの劣化や破滅を示す〈泣いちゃダメ〉のねじ曲がった表現は、キャラクターのスリリングな姿を体現している。まさに必要であれば破壊も辞さない表現者の極致といっていいだろう。
そのキャラクターに憑依するスタイルは、7月11日にリリースされた最新曲「デビデビデビット」でも健在。同曲もまた、2024年5月にローンチされた当時、今後の期待度の高さが窺えるゲームとして注目を集めていた、KURO GAMESが開発したオープンワールドアクションRPG『鳴潮(めいちょう)』のザンニーのキャラクターソングだ。アレンジャーに、ローファイヒップホップやジャズ色の濃いボカロP出身のシンガーソングライター・春野が参加している。仕事ができて大人びたザンニーを象徴する〈O SHI GO TO DIE SU KI YO〉というユーモア溢れるリズミカルなパワーフレーズは、モダンに昇華されたジャズフレーバーに溶け込んだ艶っぽい歌声によって美しくラップされている。
6月21日には、『鳴潮』のYouTube公式アカウントにて、二次創作を集めた「『ソラリスシーサイドストーリー』|鳴潮同人スペシャル番組(全編CC字幕付き)」が公開され、そのなかで「デビデビデビット」のMVも公開された。日々、時計に追われ、モノトーンで殺風景な表情に慣れてしまったザンニーのなかに時々ちらつく情熱の赤。弌誠は、このザンニーの隠れた焦燥感を〈はにかみ滑って殻割れて〉と、粗削りなボーカルによって完璧なまでに描き出した。「モエチャッカファイア」、「あられやこんこん」に続く第3弾のイメージソング「デビデビデビット」でも、キャラクターの持つ“意外性”を、柔軟で彩度の高い歌声によって掬い上げているように思う。
今後の予定としては、8月12日にLIQUIDROOMで初のワンマンライブ『チャイルドレストラン』を開催する。先行販売で即完売したことを受けて、8月27日にはZepp Shinjuku (TOKYO)で追加公演を行うことも決定。弌誠の公式YouTubeアカウントで公開中の一人でバンドアレンジした「モエチャカバンド」というセンスのにじみ出た映像といい、ノイズすれすれの危うさがある剥き出しの演奏に、第六感を刺激された。作品の輪郭を際立たせるためなら、“自分”という色すら透かしてしまう柔らかさがあるのが、弌誠だ。当日のステージに飛び出すのは、人か、獣か。そんな余計な想像すらしてしまうほどに、視線の先が読めない。そしてこれまでのMVのプロデュースまで、すべて弌誠自身が手がけているというのだから、ライブとなればその企みは一層おいしい。音という名の皿が、2公演のステージにどんな順番で供されるのか。今から、それを考えるだけでも空腹に火がつく。
■リリース情報
弌誠「ガタゴト」
2025年6月27日(金)リリース
配信:https://lnk.to/issey_gatagoto
弌誠「デビデビデビット」
2025年7月11日(金)リリース
配信:https://lnk.to/issey_devidevildebit
■ライブ情報
『弌誠 1st ONE MAN LIVE「チャイルドレストラン」追加公演』
公演日:2025年8月27日(水)
会場:Zepp Shinjuku(新宿・東京)
公演時間:OPEN 18:00 / START 19:00
チケット価格:5,500円(税込)※スタンディング
主催:VAP INC. / HOT STUFF PROMOTION
企画・制作:VAP INC. / HOT STUFF PRESENTS
問い合わせ:HOT STUFF PROMOTION(050-5211-6077 ※平日 12:00~18:00)
チケット販売サイト:https://issey.lnk.to/childrestaurant
特設サイト:https://childrestaurant.xyz
■弌誠 関連リンク
Official YouTube:https://www.youtube.com/@tyih
Official Instagram:https://www.instagram.com/tyih.art/
Official X(旧Twitter):https://x.com/tyih_1950
Official TikTok:https://www.tiktok.com/@issey_hello























