弌誠×ヰ世界情緒「連れ出してトロイメライ」特別対談 MAISONdesが導いた邂逅、コラボが生んだ新境地

和ぬか×asmiによる「ヨワネハキ」や花譜×ツミキによる「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ」など、数々のクリエイターとシンガーによるユニークな化学反応をこれまでに数多く実現してきたMAISONdesによる新作、「連れ出してトロイメライ feat. ヰ世界情緒, 弌誠」が5月14日にリリースされた。
今回制作を担当した弌誠は、昨夏公開されたアクションRPG『ゼンレスゾーンゼロ』のキャラクター・エレン・ジョーのイメージソング「モエチャッカファイア」が昨年から今年にかけて各チャートを席巻。歌唱を担当したKAMITSUBAKI STUDIO所属のバーチャルシンガー・ヰ世界情緒もダークかつ幽玄で儚い楽曲の世界観を大きな魅力とし、インターネットを中心に多彩なクリエイティブで大勢を虜にし続ける存在だ。

令和におけるサブカルチャーの最前線に造詣の深い人にとっては、非常にホットなビッグタッグとなった今回のMAISONdes楽曲。蓋を開けてみれば、元々両者が持つ重厚感あるイメージとはやや異なるポップで軽快かつメロウなサウンドだった点も、その意外性に多くのリスナーが熱い視線を注いでいた印象だ。
そんな楽曲のリリースにあわせ、本コラボで初対面となった弌誠とヰ世界情緒による対談が実現。お互いの印象や「連れ出してトロイメライ」制作にまつわる裏話、そして両者がそれぞれにクリエイターとして軸に持つ価値観など、コラボを契機として生まれた二人の新境地とも言えるケミストリーを、ぜひ本稿の端々から感じてほしい。(曽我美なつめ)
ダークな世界観と技巧的な歌唱は二人の共通点
――お二人は今回のタッグ以前に、直接の面識や接点などはあったのでしょうか。
ヰ世界情緒:いえ、今回の制作でお互い初めて関わらせていただきました。私は「モエチャッカファイア」で弌誠さんを初めて知って、すごく素敵な楽曲を作られる方だな、という認識はあったんですけど。
弌誠:こうしてお話しさせていただいたのは今回が初めてですよね。ただ自分も、一方的にですがもちろんヰ世界情緒さんのことは存じ上げていました。歌ってみた動画で「この人いいな」って思って調べたら情緒さんだった、ということもたびたびあって。
ヰ世界情緒:そうなんですか、嬉しい! 聴いていただけて光栄という気持ちでいっぱいです。
――今回MAISONdesへの“入居”のお話をいただいた際、お二人とも率直にどう思われましたか?
ヰ世界情緒:これまで数々のヒット曲を生み出している“アパート”なので、そんな熱量あふれる場所に入居させていただけるなんて、という怖れ慄きの気持ちがすごくありましたね。
弌誠:自分も「ほんとに自分でいいんですか?」って感じでした。むしろ「家賃払うからずっといさせてください!」みたいなマインドで(笑)。本当にありがたいお話です。

――ちなみに、お二人の組み合わせもMAISONdesさんからの提案だったんでしょうか。
ヰ世界情緒:そうですね。MAISONdesさんから歌唱のオファーをいただいて、蓋を開けたらタッグのお相手は弌誠さんだったという感じで。機会があれば私からも、なぜ私たちを組み合わせてくださったのかを管理人さんへお聞きしてみたいです。
弌誠:でも、実は個人的に情緒さんと一緒にやってみたいなあと思っていたんですよ。情緒さんが持たれているダークな世界観の部分が共通点というか、僕の曲と合うんじゃないかなあ、という思いもありました。
ヰ世界情緒:弌誠さんって歌の表現として、技巧に寄った歌い方をされるじゃないですか。私はそれも自分との共通点なんじゃないかなと思っていたので、その点でもご一緒させていただくことでどうなるのかな、という感覚はありましたね。

――そう言われてみると、確かにお二人の音楽のムードには共通したものを感じます。その近しさも互いに感じてらっしゃったんですね。今回弌誠さんは制作側での参加でしたが、これまでこういった他者への楽曲提供の経験はあったんでしょうか。
弌誠:以前一度ありましたが、かなり久しぶりです。
――ご自身で歌う曲とほかの方への提供曲ですと、やはり作り方も変わるので苦労する部分もあるのではないかと思うのですが。
弌誠:いや、でも情緒さんは何でも歌えるので。好き勝手できるな、と思って(笑)。
ヰ世界情緒:ふふふ、頑張りました(笑)。
弌誠:頑張らせてしまったかもとは思いつつ……でも、本当に情緒さんのおかげで、自分が制作で苦労した部分はあまりないかもしれないです。胸をお借りして作ったというか、抜群の歌唱力に助けてもらった形でしたね。
浮遊感と普遍性を重ねて──“コンビニ”をテーマとした理由
――今回の楽曲は、どのような部分にテーマやコンセプトを置いて作られたんですか?
弌誠:大前提として、情緒さんの歌が一番引き立つというか、どうやったら魅力的に見えるかというのは自分なりにかなり考えました。当初はダークなビリー・アイリッシュの「bad guy」みたいな曲を作ってたんですけど、ボツにして全部作り直したり。結局2曲ぐらいボツにしたんですよ。今のオケになってからも、歌詞が大幅に変わってたりしています。タイトルに繋がる〈連れ出してよ トロイメライ〉という歌詞も、当初はまるっと全然違うフレーズだったんです。めちゃくちゃいろんなデモがありましたね。烏滸がましいかもしれませんが、せっかくタッグを組んで曲を作るのなら、新しいヰ世界情緒さんをどうにか引き出せないかな、と思って。
ヰ世界情緒:今の形になるまでの変遷もすごく気になります。ボツになったバージョンも全部聴きたいです(笑)。
弌誠:加えてさらに爽やかな感じの曲というか、どうせなら今までのMAISONdesにもないような曲を、と思ったんですよね。かつ、情緒さんもあまり歌ったことのないような曲で、僕も作ったことのない曲、みたいな。貴重な場なので新しいことをアウトプットしようと試行錯誤した結果、最終的にこの「連れ出してトロイメライ」に至りました。
――弌誠さんの制作面では、具体的にどんな“新しさ”を取り入れたんでしょう。
弌誠:たとえば“夏”や“青春”を感じる曲って、今までの自分の作品に一つもないんですよ。基本的にダークな曲ばかり作ってきたので。爽やかさ、ポップさ、みたいな発想にいきついたのは、これまでのMAISONdesさんの曲に影響された部分もあるかもしれません。
――新しい引き出しを一から開けるというより、従来のMAISONdes楽曲が持つポップな要素を、弌誠さんというフィルターに通すとどうなるか、みたいな感覚ですかね。
弌誠:そもそもMAISONdesさんのコンセプトにも“孤独”みたいな要素があるんですよね。“四畳半フォーク”の延長線上にある“六畳半ポップス”というテーマ。自分も根が暗いので(笑)、そういうのっていいな、と思ったんです。単純に明るいだけじゃない、けど明るくはしたい、みたいな。なので新規性はありつつも、その共通点はベースにしたままを意識してました。
――そうなると、実際の楽曲制作時も普段とは少し違う作り方になると思うんです。具体的な手法として、何かいつもとは違うことをされたりはしましたか?
弌誠:自分で「懐かしい平成ヒットソング」とか「2020年代ボカロ曲メドレー」とか色々な既存曲プレイリストを作って、そこにこの曲のデモを置いて流れで聴いたりしていました。そういう環境で聴いた時でも違和感のない曲というか、流行に乗りすぎない曲、普遍的なメロディを持つ曲にしたくて。あとは楽曲のテーマの一つだった“コンビニ”も、すごく普遍的な要素を持つアイコンだと思っていて、その点も含めて“どこで聴いても大丈夫な曲”にしたかったんです。
――MVやジャケットなど、楽曲のアイキャッチにもコンビニテイストのイラストが用いられていますよね。この“コンビニ”のテーマはどこから出てきたんでしょう。
弌誠:これは「情緒さんがコンビニの制服着たらかわいいだろうな」っていう発想から始まったものですね(笑)。あとはNewJeansやILLITの曲のようなドリーミーなムードというか、浮遊感や夢見心地みたいなサウンドと“誰もいないコンビニ”のイメージが、自分の中でなんとなく結びついていて。今のトレンドでもあるのですが、元々浮遊感あるポップスって昔も一度流行っていて、そのリバイバルという一側面もあると思うんです。それも一つの普遍性に通じる要素だな、と。加えて、単純にサウンドの雰囲気と情緒さんの声も相性がよさそうだと感じたので、そういった連想もありました。

――“普遍性”という要素からの“コンビニ”という着想や、そこから転じてある種の心地よさを感じる音作りを意識したということですね。一方で、今曲の中でも印象的なフレーズになる言葉数の多いサビメロディは、忙しなさという面ではそういった要素とやや相反する音のようにも感じます。
弌誠:あ、でもサビはかなり最初の段階で決まってたんですよ。情緒さんの発話というか、一つひとつの発音が心地いいなと思っていたので、なるべく言葉をタタタタッと並べるような感じにしたかったんです。イメージとしてはPCのタイピングの音が心地よく聞こえるような、そんな感覚をサビでは追及しました。


















