日向敏文×オノ セイゲン、初のフルオケ作品『The Dark Night Rhapsodies』で追求した音像 「ひとつのゴールにたどり着いた」

3日の予定が11日にーーこだわり抜いたオノ セイゲンのミックス

ーー実際の録音はブダペストのハウスエンジニアの方が行って、ミックス作業からセイゲンさんが関わっていくということなんですね。
オノ:僕はブダペストに行ってませんが、サントラ収録のお手本のようなシステムの話を聞くだけでも最新の技術と柔軟性があることはよくわかりました。たったの2日間ですよ。実際、上がってきた演奏と録音が素晴らしかった。
ーーマイクが62本と資料に書いてあったのですが、一曲につき62の個々の音源があるということですよね。想像つかない本数なのですが……。ロックやポップス系のレコーディングだと、楽器ごとにブースに入るイメージがあるのですが、フルオーケストラの場合は同じフロアに全員いるんですか。
日向:音が小さいハープだけは別の部屋でしたが、基本的に仕切りなどはないですね。
オノ:日向さんの曲はハープコンチェルトと言えるくらい、ハープが活躍するから。小さい音だからそこだけ別だったんですね。
ーーということは、録音されたマイクごとのトラックには、他の音も入っているということですよね。
オノ:もちろんそうです。昔のオーケストラやジャズの名録音なんて、マイク2、3本から8本程度で、だから互いのかぶりの音もアンビエンスとして計算してセッティングします。その場でいいバランスでないといけませんでした。今回は62本のマイクで録音するということは、あとからあるフレーズだけクローズアップしたり、ハープを一番フロントに持ってきたり、作曲家の望むことならなんでもできます。
映像に置き換えると、1台のカメラだけですべてを撮ろうとしたら演劇舞台のように俯瞰で撮るしかない。でもカメラがたくさんあると任意の表情をクローズアップもできます。お手本のようなマイキングも素晴らしいし、テイク3までしかないのにここまでのレベルになっている演奏技術も驚くべきものでした。
ーーミックス作業に入る前に、最初に何を行ったのですか。
オノ:まずはスタジオ選びですね。ミックスで大事なのは正確なモニターにつきます。評判のいいスタジオを3つくらい周って、音響ハウスの第6スタジオが非常によかったので、ここでやることになりました。ただ、3日くらいあれば終わるだろうと思っていたら、11日もかかってしまった(笑)。
ーーなぜ3日の予定が11日になってしまったのでしょうか。
日向:今回、セイゲンさんが選んでくれたアシスタントエンジニアの竹田(壮志)くんがすごく有能で、セイゲンさんの意見をよく汲んでくれる理想的なチームだったんですよ。だからこそ、セイゲンさんと竹田くんのコミュニケーションも複雑になって増えてきて、さらに良くしようという方向に向かっちゃったから日程も増えたんです(笑)。
オノ:収録が2日間だったらミキシングは1〜3日ですよ。僕は1日6時間以上やらないので3日。でもね、編集をしたりタイミングやアクセントを変えたりするだけじゃなくて、テンポや音量といった細かいニュアンスなどはスコアに書かれている以上のことも、追求すればどこまでもできちゃう。ミックスをしているうちに、ここをちょっと変えようとかどんどんアイデアが出てくるんですよ。「あと3日欲しいね」を繰り返した結果が11日間(笑)。
日向:僕もスコアを書いた時から考えが変わってきて、今までなら一度録音したらそれで完成だったのに、セイゲンさんに「これできる?」なんて言ったら「できる」ってすぐ答えが返ってくるので欲が出てしまった。
オノ:今のデジタル技術では不可能はない(笑)。
日向:(笑)。そう、だからテンポを少しゆっくりしてみたり、この音符だけ少し伸ばしたり。そうやっているうちにどんどん日程が延びました。
ーー元の録り音は素晴らしいけれども、さらに手を加えていったということですね。
日向:それも音楽的要素の実現のためなんですよ。よりベストなものを目指したくなるというか。もちろん元の演奏が良いからであって、良い演奏じゃなければ手を加えるほどどんどん悪化していきますからね。
ーー結果的に、日向さんの理想に近づいていったと。
オノ:ただ、あのミックスもいいけどこっちのミックスもいいよね、という風にOKテイクが溜まっていくんですよ。ですから、今回CDとSACDのハイブリッドなので、CDの層には45分というフルアルバムのサイズだけ収録したのですが、SACD層には109分まで入りますからAlternate Mix(別ミックス)も入れました。
ーー通常のミックスと別ミックスの他に、SACD層には[Mastered from the Lacquer Disc]という音源も収録されています。
オノ:よくアナログ盤は温かみがあって音がいいとかいうじゃないですか。CDのダイナミックレンジ(96dB)と周波数特性(20〜20KHz)の音は、物理的にレコードにカッティングできません。針飛びしない音で60dB程度にピークを抑え込まないと小さな音はノイズに埋もれてしまいます。相対的に中域の密度にリスナーは惹かれます。アメリカでは70年代にFMラジオで、風をきるオープンカーでさえ歌がカッコよく聴かせることがヒット曲につながりました。ラジオオンエアー向きの音=アナログ盤の音作りです。2000年に登場したSACDは人間の耳で聞こえる音は、すべてそのまま収録・再現できます。いい音のレコードの元となるラッカー盤そのままの音源まで収録しました(笑)。
ーーすごく盛りだくさんの内容ですが、日向さんの完成形に対しての率直な感想はいかがですか。
日向:もちろん、自分のスコアの書き方などでいろんな反省点はあるんですが、最終的にはうまくまとまったし、ひとつのゴールにたどり着いたという感想ですね。次の目標もできましたし。
ーーまた、フルオーケストラのアルバムを作りたいという想いはあるんですか。
日向:それはあります。今書いている曲はほとんどフルオーケストラのスコアなんです。今回はその一部が実現しましたが、自分としてはまだ2、3枚分アルバムを作れるくらいの曲数があるんですよ。今回セイゲンさんと一緒に作ったことで、どうすれば自分の理想に近づけるプロセスがよくわかったので大収穫でした。
オノ:あれだけのオーケストラのトラックをまとめるのは、最新の技術ではあるのですが、手法としてはアナログ的なんですよ。それがとても面白かったですね。90年代頃を思い出しました(笑)。また一緒に新しいことができるといいですよね。
■リリース情報
日向敏文『The Dark Night Rhapsodies』
発売日:2025年6月25日
¥4,400(税込)パッケージ版価格
MHCL-10184
SACDハイブリッド 1枚
<収録曲>
1. Dark Night Overture
2. Candles in the Rain (from Babylon in the Sands)
3. Fire & Storm (from Babylon in the Sands)
4. Lust in the Desert (from Babylon in the Sands)
5. Snowfall (from Babylon in the Sands)
6. Faith Under the Rubble (from Babylon in the Sands)
7. Vendetta
8. Never Forgiven
9. Joker
10. Darkest Night (from Dark Night Rhapsody)
11. il camino (from Dark Night Rhapsody)
12. Phantom (from Dark Night Rhapsody)
13. Bells in the Mist
14. Wings of the Lion
15. Enigma
16. Sweet Rebels
詳細:https://www.110107.com/s/oto/discography/MHCL-10184?ima=000

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