炙りなタウン、曲作りに込める“抜け出したい感情” 3人の心が重なり合った現体制初アルバムを語る

岡山発の3ピースバンド、炙りなタウンが2年ぶりの2ndフルアルバム『炙りなタウン② -最終兵歌を口ずさむ-』を7月9日に発売した。めぐぞう(Dr/Cho)加入後、現体制初のフルアルバムにして過去曲も再録してパッケージされた本作。「ずっと怒ってる」と語るゆきなり(Gt/Vo)が音楽で届けたい願いや叫びを素直に書き表し、そこと強く共振したしおきち(Ba/Vo)、めぐぞうが歌詞を引き立てながらもアツい演奏を繰り広げている。その結果、楽曲のバリエーションも純度もこれまで以上に研ぎ澄まされた、素晴らしいアルバムに仕上がった。阿吽の呼吸で支え合う、この3人だからこそ辿り着けた新たな代表作について、たっぷりと話を聞いた。(編集部)
「1stフルアルバムを超えた」――広がりを確信できた理由
――ジャケットのイラストは、1stフルアルバム『炙りなタウン1 -死にたくなってからが本番-』と同じイラストレーターが描いたものですか?
ゆきなり:そうです。ましろさんっていう、イラストレーターじゃなくてお絵描き屋さんって名乗ってる方なんですけど。1stフルアルバムのジャケットはわしが一人で楽器屋さんにいて、まだギターを買う前の絵だったんですけど、2ndフルアルバムのジャケットではライブハウスで歌ってて、すみだ(しおきち)が目の前にいるっていう。これは本当にあった話で、この日に「バンドしよう」という話になって、炙りなタウンを組んだんです。なので、今回のジャケは、炙りなタウン爆誕の瞬間ですね。
しおきち:元々この日のライブには一人で出る予定じゃなかったんだよね?
ゆきなり:そうそう。
しおきち:バンドを組んで初めてのライブだったのに、急にメンバーが「やらない」と言い出して。それでも穴を開けないように、一人でステージに立って。一人でも目をひん剝きながら、ぐわーっと歌ってるゆきなりの姿を見て、「この人とバンドやりたい」と思ったんですよね。

――そうして炙りなタウンが誕生し、2023年10月にはめぐぞうさんが加入。今作はこの3人で初めて作ったフルアルバムですが、完成後の今のお気持ちを聞かせていただけますか?
ゆきなり:1stフルアルバムを超えたなって思いました。前作は「ワー!」って書いたら「ギャー!」ってアルバムになった感覚だったけど、今回は「こういう曲も作ってみたい」「こういう歌も歌ってみたい」というふうに挑戦することができて。わしはいわゆる青春パンクやパンクロックにすごく影響を受けてきました。だけど前作からの2年間でいろいろな経験を積ませてもらって、いろんな戦い方のバンドさんと一緒にライブをやらせてもらったり、そういうイベントに呼んでもらえたりする機会が増えて、いろいろなジャンルの音楽を聴くようになって。そこで「こういう“カッコいい”もあるんや!」と知ったからこそ、今までやったことのないことにも飛び込んでいけるようになったんかなと。自分たちの音楽の幅が広がったのを感じてます。
しおきち:ゆきなりも言ってたように、パワーアップしたなと思ってます。めぐが加わってから初のアルバムということで、「1998」とか、すでに出している曲も再録したんですよ。3人の「いくぞ! オラァ!」というテンションがギュッと詰まってて、世の中に改めてグサッと突き刺せるような……大きくて深くて強い1枚になったかなと思いますね。そもそもこの3人は、一番好きなジャンルがバラバラで。わしはちっちゃい頃にお父さんからTHE BLUE HEARTSを教わってそこから音楽を聴くようになって、中高生の頃はチャットモンチーやHump Backをよく聴いてたんですけど――。
めぐぞう:自分はパンクも大好きだけど、元々はマキシマム ザ ホルモンが好きで、中学生の頃は人間椅子や筋肉少女帯を聴いてました。メタルとか、ヘヴィなサウンドが好きです。
しおきち:こんな感じでルーツがちょっと違うので、めぐの加入が刺激になって、バンドの表現の幅が広がったんですよね。

――めぐぞうさんは、炙りなタウンでの初のフルアルバム制作、いかがでしたか?
めぐぞう:どの曲もゆきなりさんが「こういう曲を作るから」ってポンと言うところから制作が始まって、最初はバラバラな曲が集まってる印象だったんですけど、「全然違う曲なのに歌詞がリンクしてる!」みたいなびっくりがだんだん増えてきて。偶然なのか必然なのかわからないですけど、そういう面白いことがたくさん起こるから、目がバキバキになっちゃうくらい楽しかった(笑)。本当に早く皆さんに聴いてほしいです。
——例えばどんなところに楽曲同士のリンクを感じましたか?
めぐぞう:例えば1曲目の「パピコ」で言っちゃいけないことを言った(※ピー音が入っている)あと、7曲目の「SING OR DIE」に〈言っちゃダメなこと言ってしまったり〉という歌詞があったり。あと私の中で熱かったのは、「さらば」の歌詞で〈あたしねきっとツキがないからね〉と言ったあとに、「ルナ」が来るところ。
ゆきなり:“ツキ”と“月”が繋がってるのはたまたまですね。曲順も3人で決めたので……その時に気づいたんだっけ?
めぐぞう:私がその時に気づいて「この曲順がいい」と提案して。作品に向き合い続けていたら、こんなふうに閃くことがあるんだ! という楽しさがありました。
――挑戦の多い制作だったそうですが、全体的にポジティブなテンションだったんですかね。
めぐぞう:そうですね。新しいアイデアが出てきたら「案出した人、イェーイ!」って感じで。
しおきち:「最高! 天才!」って言い合いながら。
ゆきなり:もちろん実際にやってみて、「さっきあんなに盛り上がってたのに、なんか違うな」ってこともありましたけど(笑)。
めぐぞう:私は「太鼓の達人」がルーツなんですけど、「SING OR DIE」に「太鼓の達人」のある曲のフレーズを入れようと提案した時、ゆきなりさんも一緒にめっちゃ盛り上がってくれました。ゆきなりさんとは鬼レベルでよく勝負してたので。
ゆきなり:そうそう。ゲーセン行ってな。

音楽を通して形になっていく“肩身の狭さ”や“怒り”
――アレンジは何を起点に考えることが多いですか?
ゆきなり:歌詞ですかね。2人とも「歌詞でこう言ってるからこういうフレーズを」というふうに考えてくれることが多いです。
めぐぞう:私は、歌詞の発音に合わせて叩くことが結構多くて。特にお気に入りなのは、「桜花」のド頭ですね。〈神様めがけて小石を蹴ったら/マシンガンみたいな雨が降ってきて〉という歌詞に沿ってフレーズを作れたから、本当に小石を蹴ってるみたいなんですよ! ここはぜひドラムにも注目してほしいです。
ゆきなり:あと、「伶央」の〈君の気持ちはバッタもんだけど〉のところも、〈バッタもん〉ってドラムで歌ってるやん。
めぐぞう:ああ、そうですね。「ダツダダン」って。
しおきち:「パピコ」の最初のミサイル落ちたところも好きだな。
めぐぞう:ありがとうございます、みんな。いろいろ見つけてくれて。
ゆきなり:こういう話、3人で結構するんですよ。曲解説みたいな。「この曲はこういう気持ちで書いた」って言葉にして伝えるし、「それを受けて、こういうふうに演奏してくれたんだよね?」って聞いたり、2人から言ってもらったりもする。
――そうなんですね。しおきちさん、ベースに関してはいかがですか?
しおきち:「SING OR DIE」はイントロからワーッて感じで、〈精神を壊せ〉という歌詞から始まってて。このダークな感じをどうやったらベースで出せるだろうって、めっちゃ考えましたね。例えば2番の〈言っちゃダメなこと〉のところは、トンネルの中とか地下空間をイメージしてて。
ゆきなり:マリオ(『スーパーマリオブラザーズ』)の1-2とか言ってたよな?
しおきち:そう。ベースのフレーズを考える時は、歌詞から自分なりにイメージを膨らませて、「こういうのはどう?」って提案することが多いですね。

——「SING OR DIE」は、喜怒哀楽で言うと“怒”の曲ですよね。〈地獄に堕ちろ〉の直後の音にも怨念がこもっている。
ゆきなり:そうですね。怒りは確実にあるのに、どこにぶつけたらいいかわからない、そのもどかしさをこの曲にぶつけたという感じです。5曲目の「ワレワレハオンナノコ」で〈たまには「馬鹿アホマヌケ地獄へ堕ちろ!」と/叫びたくもなるんだよ〉と言ったあと、この曲で〈地獄に堕ちろ〉って叫んでるんですよ。この2曲の繋がりに気づいてくれたのもめぐで、自分としては無意識だったんですけど、この2曲って同じ時期に作ってるんですよね。
——その時期に、怒りが湧く出来事があったんですか?
ゆきなり:いや、わかんない。ずっと怒ってるので。
——ゆきなりさんは自分の感情に素直に曲を書いていて、どの曲にも思考や人間性が出ているから、アルバムというパッケージになった時に、“根っこは通じている”みたいな現象が起きるのかなと思いました。特に“自分のやりたいことと世の中で正しいとされていることがズレている”という感覚が根強くあるんじゃないかと、私はこのアルバムを聴いて感じたのですが。
ゆきなり:そういう感覚はあると思います。バンドをやること自体も親からずっと反対されてて。高校生の時も軽音楽部だったんですけど、ギターを背負ってるだけで非国民みたいな扱いだったから、自分がやりたいと思ってることは、周りの大人からしたらダメなこと、悪いことなんだって。縛られている感覚がすごくあったし、肩身の狭い10代を過ごしてきたんです。あとは同級生からも「まだバンドやってるの?」って言われたり。
——「あのめ、」では〈なんでもすぐに忘れるくせに傷つけられたこと/覚えている、覚えているくせに/仕返しはできない〉と歌っていますよね。この歌詞は?
ゆきなり:これは大人というよりは、同級生に宛てた言葉なんですけど。学校の中ってグループとかあるから、自分がバカにされたり傷つくようなことを言われたりしても、結局その場の空気に合わせちゃうことが多かったんですよね。それで家に帰ってから、布団の中に入って「本当はあの時こう思ってたのに……」ってぐるぐる考える。でも言い返したり、相手を傷つけたりすることはできなかったんです。
――だけど今はバンドがあるし、曲に感情をぶつけることができる。
ゆきなり:はい。曲にして、自分の思ってることや感情を整理して、ライブで歌って、楽になっ……っているというよりは「本当はこう思ってるんや」と理解することで、逆に自分を追い詰めてるかもしれない。
――そうですよね。
ゆきなり:そこは自分でもまだ答えが出てないですけど、形にしたいと思ってるから曲を作ってるって感じですかね、今は。
めぐぞう:「あのめ、」はゆきなりさんからボイスメモが届いた時点で、私は結構苦しくて。ゆきなりさんのつらさ、抱えてることが書かれてる曲だなと思ったんですよね。ライブでこの曲をやる時は、ゆきなりさんのことをただただ見つめるようなイメージで演奏してます。



















