炙りなタウン、曲作りに込める“抜け出したい感情” 3人の心が重なり合った現体制初アルバムを語る

誰かを想って曲を作るようになったきっかけ
――炙りなタウンのライブを観ていると、曲を書いているゆきなりさんだけではなく、しおきちさん、めぐぞうさんも「自分の曲だ」と思いながら鳴らしているんだろうなと感じます。
しおきち:わしは、歌詞を見た時に自分の人生に置き換えることがあるんですけど、ゆきなりの人生から生まれた曲なのに、「うわあ、わかる。こういうこと、めっちゃ思っちゃう」と感じることが多くて。ゆきなりが書いてくれた曲やけど、自分の曲みたいな感覚になれてるから、ライブを観て、そういうふうに思ってもらえたのかなと思います。
ゆきなり:「わしの曲や!」って思いながらライブやってるってこと?
しおきち:そう。今ゆきなりが話してくれたようなことを、わしも学生時代に思うことがあったし。あと、ゆきなりのことを15歳から知ってるのもデカいのかな。一緒に遊んでたりしたので、この子がどんな感じだったのかを知ってるから、自分の人生にスッと置き換えられるのかもしれない。
ゆきなり:いろいろな時代を見てきたからね。
――その話、もう少し聞きたいです。しおきちさんから見たゆきなりさんの変遷。
しおきち:変遷ですか? でも、ずっと尖り続けてますよ。
ゆきなり:ヤベー(笑)。
しおきち:違うベクトルでずっと尖り続けてる。「この人、おもしろっ!」と思いながら一緒にバンドやってます。

——そのトゲの先にある対象物、怒りの矛先みたいなものは、変化することはあってもなくなることはないんですか?
ゆきなり:なくなることはないですけど、10代の頃に比べたらマシになったと思います。
しおきち:そうね。大人になったかもしれない。
——このアルバムでも、自分の感情をただ吐き出しているわけではない。特に終盤に収録されている曲には、「今生きづらさを感じている人に寄り添いたい」というゆきなりさんの気持ちが表れていますよね。
ゆきなり:そうですね。誰かを想って曲を作れるようになったのは、バンドを始めて、ライブハウスに行くようになってからですね。そういう面でも、前回のアルバムの時よりも成長したというか。ずっと自分の気持ちをぶつけるばっかりだったんですけど、ライブハウスに来るお客さんは、自分が一方的に投げたものを受け取ってくれて。それを現場で体感すると、お客さんのことを考える時間が増えるんですよね。特に「ルナ」は、ライブハウスですごく泣いてる女の子に作った曲で。
——〈「明日は来るよ」と誰かが歌えば/「確かに来るけど地獄が来るよ」と君が笑ったんだ〉という歌詞からバンドのスタンスが感じられて、素晴らしいなと思いました。そこから〈今夜誘拐犯になって最後のトドメを刺したげる〉と続きますが、人それぞれの地獄があるという事実から目を逸らさずに音楽を鳴らしているのが炙りなタウンなんだなと。
ゆきなり:自分自身、ずっと「抜け出したい」と思ってるし、特に10代の頃はその感覚が強かったんですよ。今わしらの目の前にいてくれてる子たちも、そういうことを考えたりするんじゃないかと思うし、「一緒に抜け出したい」「一緒に強くなりたい」という気持ちで曲を作ったり歌ったりしてますね。
変わることのない“自分らしくありたい”という気持ち
——「桜花」は、初めてメンバーに向けて書いた曲だそうですね。
ゆきなり:炙りなタウンのことを歌ったことがなかったなと思って。歌詞に出てくる〈だいだらぼっち〉はめぐのことで、〈ペガサス〉はしおきちのことです。
めぐぞう:ペガサスって検索して、画像を見た時に「美しいな」と思って。そのあと、だいだらぼっちを調べたら、面白いような恐ろしいような画像が……。山を作る妖怪なんだよね?
ゆきなり:なんかね、一人ぼっちの大きい子。星のことを〈金平糖〉って表してるんですけど、だいだらぼっちとだったら、届くはずのない夜空にも届くのかな? って思ったり。ペガサスは……素敵な力を持ってて、すみだってペガサスっぽいなと思って。
しおきち:コーラスとかでわしも一緒に歌う曲があるから、〈ラブソングを歌ってやるのさ〉っていう。「バンドの曲だよ」って作ってる途中で言われたんですけど、わしはすごく嬉しかったですね。
めぐぞう:私も嬉しかった。でも、ちょっと照れました(笑)。だって〈最後の晩餐ぐらいは/あなたと食べたいや〉って……「えっ、うちのことだったらどうしよう?」みたいな(笑)。
しおきち:あはは! 最初は〈僕は、僕は行く/名もなき戦場へ〉だけど、だいだらぼっちとペガサスが出てきてから、〈僕ら〉と複数になってて。「3人で行くところまで行くぞ」と言ってくれてるみたいでドキドキしました。
めぐぞう:私は昔から「自分以外みんな敵や」と思いながら生きてきたんですけど、ライブをする時とかいまだに、周りの人が敵に見えちゃうことがあるんですよ。だけど、ステージで2人のことを後ろから見ている時は「この2人は絶対に敵じゃない」と思える。人の目が敵みたいに見えちゃう日があっても、それでもこの3人でやるっていう曲なんじゃないかと、私は思ってて。
しおきち:うん。強くなれる曲ですね。

――では、最後の質問を。今後も活動を続けていく中で絶対にブレさせたくない信念、炙りなタウンの“芯”のようなものはありますか?
めぐぞう:汗をいっぱいかいて、大きな声で歌うこと。それだけをずっと心に持っていたいです。
しおきち:人の顔をちゃんと忘れないように。今もこうして話しながら、お客さんやイベンターさん、「この人たちのおかげでライブができる」という人の顔を思い浮かべています。自分たちがバンドを本気でやってる分、周りの人たちも全力でわしらを支えてくれているので、そのことを忘れずにバンドを続けていきたいです。
ゆきなり:わしは、わしのままでいれたらいいなと思ってます。その時やりたいことをやって、歌いたいことを歌って、ついてきてくれる人たちや支えてくれる人たちにちゃんと感謝する。大好きなばあちゃんが「あなたはあなたらしく」とよく言ってて、「自分らしさってなんだろう?」と考えることもあるんですよ。10代の時と20代の今を比べたら、気持ちも音楽も歌っている言葉もきっと変わってる。だけど、わしという人間は変わらないでいられたらなと思います。何かに怒ってたり、「この人のことが大切」と思ったり……っていう自分が、バンドを始めたきっかけ/続ける理由になった人やもののことはずっと心に置いて、当たり前にならないようにしたいです。どれだけ大きな会場でライブできるようになったり、ありがたいイベントに呼んでもらえたとしても、わしは一人で今のわしになれたわけじゃない。そのことをずっと忘れたくない……けど、「一人ぼっちや」「空っぽや」と思ってた10代の自分も忘れないでいたいですね。炙りなタウンは、「15歳の自分を救いたい」と思って始めたバンドなので。その気持ちを忘れずに、おばあちゃんになっても、炙りなタウンのゆきなりでいられたらと思います。

◾️リリース情報
炙りなタウン
2nd full album『炙りなタウン② -最終兵歌を口ずさむ-』
2025年7月9日(水)リリース/¥2,750(税込)
from WAKASA WO WARAUNA WORKS
購入:https://tower.jp/item/6902400
<収録曲>
1.パピコ
2.プルースター
3.アホの大学生
4.伶央
5.ワレワレハオンナノコ
6.反省文
7.SING OR DIE
8.あのめ、
9.1998
10.劣等星
11.さらば
12.ルナ
13.桜花
14.凪の人
15.ランデブー
◾️ライブ情報
『炙りなタウン「かかあ天下」』
7月23日(水)愛知 名古屋RAD SEVEN
8月15日(金)福岡public space 四次元
8月29日(金)東京 渋谷CLUB QUATTRO




















