山内惠介、椎名林檎とのコラボで新境地へ 「順風満帆じゃなくてよかった」——点と点が結ばれた25年も振り返る

デビュー初期の苦節を経て10年連続の『紅白』へ
——山内さんはここ数年、楽曲を通して表現の幅を広げているように感じます。ラテン調の「紅の蝶」もそうですし、シングルには織田哲郎さんが作曲した曲、いしわたり淳治さんが作詞した楽曲も入っていて。
山内:確かにこれまでとは違う作家の皆さまとの出会いによって、見える景色が変わってくることはあると思います。声の出し方にしても、いろんな気づきがありますからね。大事なのは「なぜこの曲を歌うのか」ということ。「闇にご用心」もそう。高校の頃から憧れていて、10年前の『紅白』で初めてお会いして、去年ようやく「曲を書いていただけませんか?」とお願いして。25周年で点と点が線で結ばれたという感じもありますし、この先、30周年に向けて進んでいくという意味においても、大切な曲になりました。本当、全部に意味があるんですよね。無駄なことなんて何もないですから。

ーーデビュー25周年を迎えたことについては、どう感じていますか?
山内:デビューからずっと忙しかったわけではないんです。最初の6年間、「歌手としてやれていたか?」と言えば、そうではなくて。2007年に事務所を移籍して、レコード会社と所属事務所の両輪で再スタートを切らせてもらった。そうやって支えていただいたことがとても大きいと思います。売れてない時期も、ちゃんと1年に1枚、シングルを作らせてもらったこともありがたいなと。曲を作ることも録音することも、キャンペーンすることもすべてにお金がかかりますからね。そうやって続けさせてもらえたからこそ、自分の過去を「暗かった」と思わずにいられるし、何よりもすべての曲が愛おしい。今はありがたいことにたくさんの方に自分の歌を聴いてもらえるようになりましたが、だからこそ、デビューから6年間の楽曲もしっかり伝えていきたいと思ってます。『紅白』に初めて出させていただいたのはデビュー15年目だったんですが、今振り返ると「順風満帆じゃなくてよかったのかも」と思ったりもしますね。あの時期が自分の礎になったわけですから。
——なるほど。
山内:今はやっぱり、「闇にご用心」がお客様にどう受け取ってもらえるか楽しみです。ずっと恩師(作曲家の水森英夫)の曲を歌ってきたんですが、2年前に出した「こころ万華鏡」からは、いろいろな作家の方の曲を歌わせてもらって。お客様の中には「どこに行っちゃうのかしら」と思われた方もいらっしゃったかもしれないし、離れていった方もいるかもしれない。僕はそれでもいいと思っているんです。安易なことをやっているつもりはないですし、自分が成長するためにやっていることなので、いずれ戻ってきてもらえたらいいかなと。
——『NHK紅白歌合戦』にも10年連続で出演。『紅白』に出ることで、活動にはどんな影響があるんでしょうか?
山内:紅白歌手と言っていただけますし、それが“座長公演”につながっていくのかなと。林檎さんもそうですが、『紅白』でしか会えない方もいらっしゃるんですよ。以前、石川さゆりさんが「『紅白』に出ると、ジャンルの違う方々と出会える」とおっしゃっていましたが、まさにそうで。レコード大賞にも同じようなところがあって、旬の方々のステージを観られるじゃないですか。Mrs. GREEN APPLEを観させてもらって「上手いなあ」と感心したり、JO1の方々にご挨拶していただいて「礼儀正しい方々なんだな」と思ったり。
——J-POPのメインストリームで活躍している方と交流できるわけですね。
山内:そうですね。『紅白』の話だと、サザンオールスターズさんとユーミン(松任谷由実)さんが「勝手にシンドバッド」を歌ったときはNHKホールが震えました。「すごいな。こういう興奮を自分のステージに取り入れるには、どうしたらいいだろう」と。そういう経験ができるのもとても大きいですね。

「25年かかってようやく、天職なんだなと思えるようになりました」
——さらに「紅の蝶」で『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』最優秀演歌・歌謡曲 楽曲賞を受賞。日本の歌を海外のリスナーにも届けたいという思いもありますか?
山内:僕はずっと日本語で日本の歌を歌っていますし、それを多くの方に届けたいという思いは年々強くなってます。『紅白』は海外でも観られますし、地球の裏側のブラジルで、僕の歌を歌ってくださっている方もいて。「こちらで歌ってくれませんか?」というお声もいただいているんですが、なかなかスケジュールが合わなくて。もしあちらで歌えたら、感動するでしょうね。その一方で「日本は広いな」とも思っていて。まだまだ知らないことがたくさんあるんですよ。土地土地に民謡があるし、コンサートで地元の歌を歌うと、お客様がとても反応してくださって。もっともっと勉強しないといけないなと思っています。
——この25年の間にCDからサブスクへ音楽の聴かれ方が大きく変わりました。コロナ禍の時期からは配信ライブというやり方も加わりましたが、この変化をどう捉えていますか?
山内:コンサートは本来、その日限り・その場限りで終わるものですが、配信の場合、アーカイブで数日間観られることもあって。それはとてもいいことだなと思ってます。会場に足を運べない方にも観ていただけますし、それまで興味がなかった方が「山内惠介、いいじゃない!」と思ってくれることもあって。なので今も配信ライブは続けていますね。勝手が違うので、当初は戸惑いましたけど。最初はタリーランプ(どのカメラの映像が放送・記録されているかを示すランプ)をつけてもらってたんですけど、そっちばっかり気になってしまって(笑)。今はタリーランプを消して、配信用に収録していても目の前のお客様に向けてお届けするようにしています。
——やはりステージから直接、歌を届けるのが本筋だと。
山内:そうですね。配信やサブスクなど便利な世の中になりましたが、ステージはなくならないですから。お客様は生音の良さや照明が作り出す雰囲気を楽しみたいでしょうし、歌手はステージがなければ生きていけない。つまり僕らも命をもらえる場所なんですよ。25年かかってようやく、この職業が天職なんだなと思えるようになりました。もちろん、まだまだ追求していかないといけないですけどね。

——現在は25周年を記念したコンサートツアーの真っ最中。7月には御園座(名古屋)、新歌舞伎座(大阪)で『デビュー25周年・貴公子の旅は続く』が開催されます。
山内:前半が和装に合う楽曲、後半がストーリー仕立てのコーナーもある公演ですね。1日2回公演の日もあって、体力的には大変なんですが、皆さんに喜んでいただけたらなと。北島三郎さんは今もステージで歌っていらっしゃるじゃないですか。僕はまだ40代。もっとやっていかないといけないですね。
——30年、40年と続けていくと。
山内:ただ、あまり先を見るのはやめようと思っているんですよ。何があるかわからないから、目の前のことを大事にしたいなと。そうやって一生、青春でいたいですね。

◾️作品情報
山内惠介
Digital Single「闇にご用心」
2025年7月2日(水)配信スタート
配信:https://jvcmusic.lnk.to/BewareOfTheDarkSide
作詞・作編曲:椎名林檎
管編曲:村田陽一
drums 石若駿
wood bass 鳥越啓介
guitar, electric sitar 名越由貴夫
piano 伊澤一葉
alto flute 坂本圭
clarinet 中ヒデヒト
bass clarinet 有馬理絵
trumpet 西村浩二
trombone 村田陽一
tenor sax 山本拓夫
recording & mixing engineer 井上うに




















