山内惠介、椎名林檎とのコラボで新境地へ 「順風満帆じゃなくてよかった」——点と点が結ばれた25年も振り返る

山内惠介、椎名林檎とのコラボを語る

 『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』最優秀演歌・歌謡曲 楽曲賞、『NHK紅白歌合戦』への10年連続出場、『第66回 輝く!日本レコード大賞』(TBS系)優秀作品賞受賞など、演歌界を代表する歌手として活躍を続けている山内惠介。そんなデビュー25周年を迎えた“演歌の貴公子”の新曲「闇にご用心」(水木しげる没後10年の節目に放送されるアニメ『ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ』エンディングテーマ)の作詞・作曲・編曲は、なんと椎名林檎。ジャズ、歌謡、都々逸などを融合させたサウンド、〈夜目遠目笠の内…〉といった和の情緒を滲ませる歌詞が一つになった同曲は山内惠介の新境地であると同時に、ジャンルを超越した新しい日本のポップスの在り方を示している。

 リアルサウンドでは、山内惠介に単独インタビュー。「僕にとっても挑戦でした」という「闇にご用心」の制作、25周年を迎えた心境などについて語ってもらった。(森朋之)

“椎名林檎ワールド”全開だったレコーディング

——新曲「闇にご用心」は椎名林檎さんの提供曲。痺れるほどカッコいい曲ですね。

山内惠介(以下、山内):ありがとうございます。すべて椎名林檎さんのおかげですね。林檎さんに初めてお会いしたのは10年前で、きっかけは『NHK紅白歌合戦』だったんです。僕が『紅白』に初出場した2015年の打ち上げの席で、林檎さんに「実は僕、林檎さんと同じ高校(福岡県立筑前高等学校)の出身なんです」とお話しして。その後は接点がなかったんですが、去年の『紅白』のリハーサルで林檎さんから「お元気ですか」と声をかけていただきまして。そのときに「曲を書いていただくことなんてできるんですか?」みたいなことを言ったら、「いいですよ」と。その直後に『ゲゲゲの鬼太郎』のエンディングテーマのお話をいただいて、「これはもう、林檎さんに書いていただこう」と思い、お願いしました。

——椎名林檎さんの音楽も聴かれていたんですか?

山内:はい。高校生のときに『無罪モラトリアム』(椎名林檎の1stアルバム/1999年)がヒットしていて、僕もCDを買って。同じ高校の先輩だと知って、それ以来、憧れの存在だったんです。ただ、曲を書いていただくなんて夢のまた夢で。ジャンルも違いますし、お会いできるとしたら『紅白』だけですからね。でも、去年は「今だったらお願いしてもいいかな」と思えたんですよ。僕も10年続けて『紅白』に出させていただけてて、ただ歌って帰るだけではなくて、何か持って帰りたいなという思いもあったので。これまでは周りの方がいろいろな出会いを作ってくださいましたけど、30代後半、40代になった頃からは、自分でアタックするのも大事だなと。勇気が必要ですし、もし断られたらどうしようとも思いますが、傷つくのは自分だけですからね。今回、林檎さんに曲を書いていただけることになって「思い切ってお願いしてよかったな」と思います。

——デモ音源を聴いたときの印象はどうでしたか?

山内:林檎さんが仮歌を入れてくださっていたんですが、「最初から最後まで椎名林檎の世界だな」と感じましたね。これまでの自分が歌ってこなかった曲調ですし、ノリ方もこういう感じで(と指をパチンと鳴らす)オシャレだなって。もう一つ「すごいな」と思ったのは、小唄や都々逸の要素を入れてくれていたんですよ。そこできっちり山内惠介の味わいというものを作ってくださったんだなと。

——ジャズ、歌謡のテイストもあるし、ハイブリッドな楽曲ですよね。歌詞については?

山内:歌い出しが〈夜目遠目笠の内…〉なんですよ。「女性は、夜見るとき、遠くから見るとき、傘をさしているときはさらに美しく見える」という江戸の言葉なんですけど、この言葉自体を存じ上げなかったし、林檎さんは本当に勉強家でいらっしゃるんだなと。〈野次馬根性火の粉が降るぞ〉も〈魔の手引くのは下衆ばかり〉もそうですが、これまで歌ったことがない言葉ばかりでした。歌ってみるとまた印象が全然違っていて、言葉の響きを大事にされているんだろうなと。昔の言葉って、その中に音があるんですよ。それをきっちり歌詞に入れているし、ジャンルは違えど、大和魂や日本というものに重きを置いていらっしゃる方なんだと思います。

山内惠介 「闇にご用心」Music Video

——そこが山内さんと椎名さんの共通点、相性の良さかもしれないですね。レコーディングはいかがでした?

山内:林檎さんが立ち会ってくださったんですよ。実際に歌いながら、「こういう歌い方はおできになりますか?」と丁寧にお話ししてくださって。そもそも歌い入れに入った瞬間から“椎名林檎ワールド”だったんです。ヘッドフォンをして声を出したら、完全にノンリバーブで。「ああ、椎名林檎さんの世界だな」と。僕は普段、リバーブをかけることが多いんですけど、全然違ってましたね。歌詞の語尾に関しても、「ここは伸ばす」「ここは短く切る」というのが明確だったんですよ。音符的には伸ばすことになっているところでも、歌詞に合わせて切って歌ったり。「なるほど、こうやって歌をお作りになっているんだな」という発見があったし、新鮮でしたね。林檎さんは独特の節を持っていらっしゃるし、ご本人も素晴らしいボーカリストなので、ディレクションもわかりやすかったです。

——山内さんにとっても新鮮なレコーディングだったと。

山内:はい。力を抜くことも意識してました。少し脱力しながらも、きちんとリズムを当てていくことが試されていたと言いますか。求められることができたら嬉しいし、そうでなければ悔しいし……。やっているうちに本気になっていきました。あと、林檎さんも「いつもはどんなふうにレコーディングしているんですか?」と興味を持ってくださって。僕はいつも1時間くらい雑談して、温まってから歌うんですけど(笑)、林檎さんはスタジオに入ったらすぐレコーディングブースに直行して、集中して歌われるみたいで。僕も真似してみようかなと思いましたね。すぐ影響されるので(笑)。

「上手くならないと続けている意味がない」

——いろいろなトライアルがあった制作だったと思いますが、完成した楽曲を聴いたときはどう感じられましたか?

山内:頑張ったなって(笑)。自分がこの曲を表現し切れなかったとしたら、それこそ才能の限界だと思うんですよ。それは「闇にご用心」だけではなく、どんな曲もそうなんですけどね。新しい曲をいただいたときはいつも「このハードルを越えられるか?」という気持ちになるし、そのハードルは年々上がっていくんだろうなと。もちろん自分の歌も上達していかないといけないし、上手くならないと続けている意味がないので。林檎さんに書いていただいた曲は安易ではなかったし、一つの賭けでもあった気がして。なので完成した楽曲を聴いたときに「頑張ったな、よかったな」と思ったんでしょうね。

——ステージでどう表現されるかも楽しみです。

山内:この歌によって、ボーカリストとしての自分がさらに開花したらいいなと思っています。「闇にご用心」が(セットリストに)加わることでこれまでの曲も引き立つでしょうし、僕もすごく楽しみです。演歌、歌謡曲の歌手は“座長公演”というものがとても大事で。それが第一線でやっていることの証でもあるんですが、「闇にご用心」という演目を作ってもいいかもしれないですね。もちろん『ゲゲゲの鬼太郎』の曲ではあるんですけど。

山内惠介「闇にご用心」|『ゲゲゲの鬼太郎 私の愛した歴代ゲゲゲ』エンディング映像

——『ゲゲゲの鬼太郎』にはどんな思い出がありますか?

山内:小さい頃からアニメを観ていましたし、「おい、鬼太郎!」って目玉おやじの真似をしたり、下駄や草履を鬼太郎みたいに足からポーンと蹴飛ばしたり(笑)。あとはとにかく「怖い」という印象でしたね。僕、鍵っ子だったので、家で一人で観てたりしてましたから。

——子供の頃に観たアニメの『鬼太郎』、怖かったですよね……。椎名林檎さんとのつながりができたのも大きいですよね。

山内:本当に。『ゲゲゲの鬼太郎』のおかげで、椎名林檎さんに曲を書いていただけましたから。今回はアップテンポの曲なんですけど、林檎さんが「ゆったりした曲もいいですよね」とおっしゃってくれて。「もしかして2曲目もある……?」と願っています(笑)。レコーディングの後、お食事もご一緒したんですよ。高校の頃から憧れていた方に曲を書いていただいて、長い時間を過ごして。とても不思議でしたし、嬉しかったですね。

——ちなみにどんな話をしていたんですか?

山内:イメージチェンジの話が印象に残っています。僕自身、もう若手ではないですし、大人の歌手になっていかないといけない。でも、イメージチェンジって難しいですよねと。そうしたら林檎さんが「山内さん、おヒゲを生やされたことはありますか?」とおっしゃったんです。僕はずっと「綺麗にしていなさい」と言われてきたし、もちろんヒゲを生やしたこともない。そうお伝えしたら、「ヒゲは男性にとって、とてもオシャレなものだと思うし、大人の男の象徴だと思ってるんですよ」と。そのお話を聞いたとき、美空ひばりさんのことを思い出しました。僕は母が聴いていた美空ひばりさんに感銘を受けて歌手になろうと思ったのですが、ひばりさんは幼少の頃から活躍されていたじゃないですか。

——芸能界デビューは9歳のときですからね。

山内:はい。でも、当たり前ですがだんだんと大人になっていく。そのときにひばりさんのお母さんが、彼女に男装をさせるんです。そういう段階を踏むことで、世の中に大人になっている姿を見せていく。それもイメージチェンジのやり方だと思いますし、林檎さんはやっぱりプロデュースのセンスをお持ちなんだなって。

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