ずんだもんの『世界化計画』は“曖昧さ”を肯定する ストリートに接続しながらメジャーデビューを果たす意義

 ずんだもんの「みんなと一緒にずんだもんでいっぱいの世界を作りたい!みんなの作った素敵な作品を世界中のみんなに届けたい!」(※1)という想いからスタートした『ずんだもん世界化計画』。昨年12月にビクターエンタテインメントからのメジャーデビューを発表後、2025年1月には無料オンラインライブ『ZUNDAMON Major Debut Online-Live "PaRTi! - Daybreak-"』を開催。そして、本プロジェクトのリリース第一弾として6月25日にリリースされたのが、メジャーデビューEP『DANCE THROUGH THE WORLD』だ。「~なのだ」というずんだもんの代名詞的な語尾(CV:伊藤ゆいな)に、鞘入りの枝豆をかたどった両耳と、白の半袖ブラウスに緑色のサスペンダーパンツを身に着けた、あの“マスコットキャラ”こそが、ずんだもん――そう言いたいところだが、『世界化計画』においては事情が大きく異なっている。

 『東方Project』から派生した頭部のみのキャラクター “ゆっくり”を使用した「ゆっくり実況」「ゆっくり解説」「ゆっくり茶番劇」などを凌ぐ勢いで人気を集めているのが、このずんだもんを使用した動画だ。ボカロ界隈でも、ネタ曲を中心にずんだもんがフィーチャーされるケースはこの数年でかなり増えている。例えば、ボカロP・なみぐるは、自身のMVにイラストレーター・nekomoによる描きおろしのずんだもんを登場させている。大漠波新の「のだ」も初音ミクと重音テトの間にずんだもんを配置する並びで、音声合成ソフトの視点から人間へメッセージを投げかけるボカロ曲だ。いまやネットカルチャーとは切り離せないずんだもんだが、実は東日本大震災の復興支援を目的に企画された「東北ずん子・ずんだもんプロジェクト」から生まれた。当初は、あくまで主要キャラクター・東北ずん子の所持している弓が変身した妖精という“サブキャラ”に過ぎなかった。

 2021年、ずんだもんの人間形態が発表され、同年8月にクレジットを表記すれば商用・非商用問わず利用可能な無料音声合成ソフト「VOICEVOX」の初期実装としてリリースされたことが大ブームを生むトリガーとなった。それにしても、ここまでずんだもんを使うクリエイターが増え続けたのはなぜか。その背景には、まず、ずんだもんというキャラクターの設定が持つ“曖昧さ=余白”がある。公式設定の性別は女の子だが、公式がユーザーに独自の解釈を委ねた結果、「男の娘」や「ショタ」などさまざまな解釈がされた。そして第2に、ずんだもんを企画運営しているSSS合同会社の二次創作に対する“寛容な姿勢”も大きく影響している。東北企業は無料でイラストの商用利用が可能で、近年では企業所属のストリーマーやVTuberなども非商用の範囲内であれば、事前の問い合わせなしに使用が可能になった。ユーザー主導で生まれた身長198センチ・体重160キロ・36歳の巨漢「ずんだどん」は、そうした公式の柔軟な取り組みが生んだ一例といえるだろう。正直なところ、音声合成ソフトがメジャーデビューするというのは、異例でカオスな状況だが、ずんだもんがそこに至ったことへの納得感がメジャーデビューEP『DANCE THROUGH THE WORLD』にはある。

【ずんだもんEPリリース記念生放送】世界を語りつくすのだ。 ゲスト:四国めたん

 フィルムやトイカメラで撮ったようなレトロな雰囲気のジャケット写真に加えて、「ずんだ餅」というずんだもんの本質を、巨大な豆の鞘と白い羽毛のような素材であしらった戦闘服という大胆な形で衣装に落とし込み、アイドルらしさと未来的で洗練された要素を叶えたラグジュアリーな新キービジュアルも目を引く。

 そうしたビジュアルの印象が、〈答えをなくしたマーケット Old style ゲッベン90’s street〉(「シェケンシェソンシャ」)や〈お節介なWALL ちょーキュートにドローしてやる〉(「セーワ?」)といった言葉と通じている点も印象的で、本作にはニューヨークで生まれたストリートカルチャーを想起させる要素が濃厚だ。人種差別や奴隷制度、貧困層の背景下、心の閉塞感から解放を求めた当時の若者たちがアイデンティティを音楽やファッション、アート、スポーツなどの“遊び”で取り戻していったところは、まさにずんだもんに“遊び”を見出したユーザーの手によってミーム化していった軌跡と重なる。はっきりしたビート感のダンスミュージックと歌詞に、ずんだもんの牽引する強い意志が表れているのがこの2曲だと思う。

 また、言葉遊びや軽快なライムが、ずんだもんの世界観をよりクセ強く、愛されるものにしているのも面白いポイントだ。特に「セーワ?」の〈NO door, A moll? C dur? NO door〉というフレーズは、音楽理論上の対概念であるA moll(Aマイナー)とC dur(Cメジャー)を、否定語「NO door」で挟むことで意味を攪乱している。その上で「のーだ」が何度も耳に届くことで、言葉の“意味”という壁が解体され、純粋な音の快感として再構築されていく。“曖昧”であることそのものを肯定する、ずんだもんの存在意義がここに色濃く象徴されているようにも感じられる。

ずんだもん - セーワ?【Official Music Video】

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