ツミキ、音楽におけるボーカリストの重要性 ノーメロ みきまりあ、Aooo 石野理子、星街すいせいらシンガーに託すもの
10月16日に、NOMELON NOLEMONのニューシングル『水光接天』、Aoooの1stアルバム『Aooo』がそれぞれリリースされた。そのどちらにも所属しているのが、ツミキだ。
現在ツミキには様々な活動の軸がある。2017年より活動をスタートさせたボカロPとしては、2021年発表の「フォニイ」が代表曲として数えられるだろう。提供楽曲は、MAISONdes「トウキョウ・シャンディ・ランデヴ feat. 花譜, ツミキ」を筆頭にして、今年ツミキが手がけた星街すいせい「ビビデバ」が大ヒット中。花譜「チューイン・ディスコ」、LiSA「ハルシネイト」など、ほかにもコンポーザーとして担当した楽曲が多数ある中で、2024年はNOMELON NOLEMON、Aoooとしての活動も並行して走っていたことになる。
NOMELON NOLEMONのシングル表題曲「水光接天」はTVアニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 京都動乱』第一クールのエンディングテーマ。初のアニメタイアップ曲として、作詞・作曲のどちらにおいてもユニットの新境地と言える楽曲となっている。Aoooにとって初の全国流通となるフィジカル作品『Aooo』は、1曲目の「Flash Forward」からハードコアな激しいサウンドから始まるのを象徴的に、バンドメンバー4人の今の勢い、熱量をそのままパッケージングした全12曲、38分を疾走していくような1stアルバムだ。
今回のインタビューでは、NOMELON NOLEMON、Aoooそれぞれの新譜を軸にして、自身の肩書を「音楽家」だと語るツミキの活動の先にあるビジョンと彼の根源にあるルーツ、原体験を辿っていった。(渡辺彰浩)
『るろうに剣心』から受けたカルチャーショック
――10月16日に、ツミキさんが関わるNOMELON NOLEMON(以下、ノーメロ)とAoooから2作品が同時にリリースされるというのは感慨深いのではないですか?
ツミキ:そうですね。発売日が重なったことで相乗していろんな人に聴いてもらえたらいいなとは思います。
――まず、ノーメロの「水光接天」は『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚- 京都動乱』のエンディングテーマとして、初のアニメタイアップ曲になりました。これまでとの制作の違いというのはありましたか?
ツミキ:ノーメロは何かを掲げて発足したユニットではなく、単純に今やりたい音楽をやるためのユニットとしてスタートしました。具体的にテーマ性があるということが新鮮で。『るろうに剣心』という題材があって、そこからアイデアをもらうというその作り方に新鮮味があって、僕もボーカルのみきまりあもワクワクしながら制作できました。
――テーマ性を与えられたからこそ、より面白く楽曲を作ることができたんですね。
ツミキ:その中で、自分たちのオリジナルをどういう風に打ち出していくかというところも面白かったです。
――そこで見つけたオリジナル性というのは具体的にどういったところだったんですか?
ツミキ:アニメの内容が、割と女性目線の描写もあるので、(みき)まりあに僕が取材をして作っていきました。彼女が元々『るろうに剣心』を知っていたというのもありますし、本人が歌うということもあるので、物語と重ね合わせた時にどういう風な心情になるのかなと。
――ツミキさんは『るろうに剣心』の世代ではない?
ツミキ:僕は今回、初めて作品に触れました。
――「水光接天」がかかる初回の放送では、神谷薫の「剣心に会いたいよ」というセリフからエンディングへと流れていく素晴らしい構成でしたね。
ツミキ:おっしゃる通りで、エンディングに繋がるセリフが計算されていたかのような流れになっていて感動しました。
――原作は読んでいかがでしたか?
ツミキ:僕は、強さの誇示みたいなところに、なんとなく抵抗があって生きてきたんですよ。でも、いざ触れてみると、単純にその強さみたいなところだけではない部分があって、『るろうに剣心』で描かれる強さは心の部分だと感じたんです。技で勝負するというよりかは、その思いの強さみたいなところに触れられたのが新鮮でしたし、自分の中のカルチャーショックでした。
――それは、サビの〈逢いたいよ〉という歌詞にも表されていますよね。
ツミキ:そうですね。あとは優しい音色を使って強さを表現するというところの音像部分は意識したかもしれないですね。今回はAoooでもお世話になっている、井上うにさんにミックスを担当していただいたんです。元々僕たちのルーツである音楽も手掛けられたエンジニアの方で、うにさんにミックスしてもらったらこういう音像になるかなと意識して作ったところもあります。実際にミックスしてもらったものを聴いて、「これ! これ!」みたいな感じでした。
――前半はツミキさんのドラムが鼓動していく感じですが、後半にかけてのつんざくようなギターサウンドが印象的でした。
ツミキ:そこの攻撃性というか、単純に音の暴力みたいなところではない説得力を前半で表現していて、後半にその強い音がくることによって、臨場感があったり、パンクではない音の歪み方が聴こえるような構成になってるのが面白いですよね。
――コーラスの重ね方も薫と剣心を彷彿とさせるようなイメージです。
ツミキ:そこも表現したかったところです。重なってるようで、別のメロディを歌っているところに風景が生まれるといいなって思って作りました。
――歌詞に関しても、『るろうに剣心』の直接的な描写はなくとも、なんとなく作品を思い描けるところは、ツミキさんが『るろうに剣心』を通ってこなかったというのを聞いて腑に落ちました。
ツミキ:フラットに今その作品に触れて思ったことをドロップできたので、それは自分にとって財産だなと思います。歌詞で言うと、今回は縛りとして、外来語やカタカナを使わないように作ろうというのがありました。それは日本の原風景的なところを描写したいというのがあるんですけど、それも相まってアニメでエンディングを観た時は、世界観の中で意味のあるものになったなと感じました。
――みきまりあさんのボーカルも高音が存分に活かされていますよね。
ツミキ:本人は「高い!」と言ってましたけど、叫ぶようなサビを歌ってほしかったので、ディレクションはうまくいったかなと思います。
――シングルとしては「どうにかなっちゃいそう!」も収録されています。
ツミキ:僕は元々バンド畑で育ってきたんですけど、並行してクラブミュージックも好きで。ノーメロでも「バンド×クラブミュージック」みたいなことをやってきたんですけど、もっとハウスミュージックに寄り添ったものを作ってみたいというのがテーマにありました。「どうにかなっちゃいそう!」というタイトルからキャッチーな曲を作ってみたいというのはまりあのアイデアで、そこからクラブミュージックのアイコニックな部分に当てはめて書いた感じですね。サウンド的には割とシンプルな構成になっています。普段は足し算の音楽をすることが多くて、どんどんトラックが増えていくんですけど、今回の曲はできる限り音数を抜いて、音色だったりとかフレーズでの勝負を心がけていました。
――ユニットとしては、昨年LINE CUBE SHIBUYAでのワンマンライブを成功させていますが、この先の活動をどのように考えていますか?
ツミキ:今、自分たちが本当にやりたいことに熱を注いでやるユニットとしてどんどん楽曲を作っていきたいです。僕たちに気づいて、何か生活が変わったりしている人たちがいてくれて、それが嬉しいので、ついてきてくれる人たちをさらに増やしていきたいと思っています。