Spotifyのグローバルヒット事例から学ぶ“海外輸出”のヒント 日本の音楽の未来に繋がるトークセッション

グローバルヒットの事例から学ぶヒント

 国内最大規模の国際音楽賞『MUSIC AWARDS JAPAN 2025』(以下、『MAJ』)が、5月21日・22日ロームシアター京都にて開催された。『MAJ』では、アーティストやクリエイターをはじめ、各分野の音楽関係者5,000名以上の投票メンバーによる投票を行い、受賞作品/アーティストを決定。全62部門の賞により国内外問わず多様な音楽を表彰した。

 「日本国内の音楽需要の拡大」「日本音楽の海外輸出」というミッションを掲げるSpotify Japanは、「世界とつながり、音楽の未来を灯す(ともす)。」をコンセプトにした『MAJ』の初開催をサポート。ユーザー投票機能での連携や全エントリー楽曲をアーカイブするプレイリスト「museum」の作成など、世界180以上の国と地域に広がるグローバルストリーミングサービスとしての強みを活かし、『MAJ』とユーザーをつなぐ役割を果たした。

 各国のSpotify担当者も『MAJ』の開催に高い関心を寄せている。5月22日の授賞式には、ストックホルムよりマーケット&サブスクリプションを担当するグローバルヘッドのグスタフ・イェレンハイマー氏、アメリカ・ロサンゼルスよりアーティストパートナーシップ&オーディエンスを担当するグローバルヘッドのジョー・ハドリー氏が出席。授賞式の前には、スポティファイジャパン代表取締役トニー・エリソン氏がホストを務めるトークセッション「Lunch with Spotify」に両名が参加し、ストリーミングサービスの現状や変化、今後の展望を語った。

急成長を遂げる日本の音楽ストリーミング市場

「Lunch with Spotify」
稲葉豊氏

「Lunch with Spotify」

「Lunch with Spotify」
トニー・エリソン氏

 『MAJ』実行委員会 副委員長の稲葉豊氏による挨拶の後、トニー氏が登壇。『MAJ』の開催が現実のものとなったことへの感慨を語りながら、改めて『MAJ』とSpotifyが共通のミッションを抱えていることに触れる。「Spotifyは世界各地で音楽市場を活性化させ、そして現地の音楽を世界に送り出す、そういった働きをお手伝いしています。今日はSpotifyがどう音楽事業を拡大し、音楽のグローバル化に役立てるかをお話ししたいと思います」と語り、グスタフ氏とジョー氏を呼び込む。サブスクリプションの統括を担うグスタフ氏と音楽パートナーシップの統括を担うジョー氏から、昨今のSpotifyならびにグローバルな音楽市場のトレンドが解説された。

 まず、グスタフ氏から近年のSpotifyに関するデータが紹介された。現在Spotifyには全世界に月間6億7800万ユーザーが存在しており、そのうちプレミアム会員は2億6800万ユーザーだ。創業以来のアーティストへの還元額は600億ドルに達し、原盤収入の25%以上の割合を占めている。北米、ヨーロッパ、中南米のユーザーの割合が多く、なかでも中南米はここ10年で有料会員数の成長が著しいことも紹介された。そして、急成長を遂げているのが日本を含むアジアである。日本でも有料会員数は前年比7%、マーケットシェアの3分の1を獲得しており、ストリーミングとダウンロードの比率は92.8%にまで達している。グスタフ氏は「『MAJ』のようなアワードをきっかけにさらに拡大していきたい」と意欲を見せた。

南アフリカから世界へ Tyla、ブレイクまでのストーリー

「Lunch with Spotify」

「Lunch with Spotify」
ジョー・ハドリー氏

 「Spotifyに期待されているのは海外への楽曲輸出である」というトニー氏の話をきっかけにジョー氏が紹介したのは、アフリカのアーティストが世界でブレイクした一例だ。南アフリカ発の音楽ジャンル・アマピアノ界の新星との呼び声も高いアーティスト、Tylaのヒットストーリーである。日本では、昨年の『SUMMER SONIC』出演が大きな話題を呼んだのも記憶に新しい。

 Tylaのオーディエンスは「Been Thinking」をリリースした2023年1月の段階で、主にアフリカ、加えてジャマイカ、ハイチ、パプアニューギニアにとどまっていた。しかし、3月にMajor Lazerとのコラボレーションシングル「Ke Shy」をリリースしたことをきっかけに、ヨーロッパでもユーザーが増えていく。トニー氏によると「この時点でSpotifyでは『EQUAL』(女性たちの活躍を継続的にサポートするプレイリスト)でTylaの楽曲を紹介していた」とし、アフリカ以外のユーザーに楽曲が届き始めるきっかけの一つになったのではないかと分析した。

 5月に発表したシングル「Girl Next Door (feat. Ayra Starr)」では、2022年に「Rush」がヨーロッパを中心にバイラルヒットしたナイジェリア出身アーティスト、アイラ・スターとコラボレーション。同曲がヨーロッパで大きく取り上げられたことでTylaの認知度は高まり、北米でも初めて存在感を示すこととなった。Spotifyでは、このタイミングで「RADAR」(各国の注目アーティストを世界の音楽ファンに紹介するグローバルプログラム)を活用し、このインパクトを最大化させる強力なサポートを行ったという。「Girl Next Door (feat. Ayra Starr)」は、53のプレイリスト入りを果たし、世界中にTylaの音楽が伝播していく。

 そして、2023年7月にリリースされた「Water」が爆発的なヒットを迎える。SNSでのダンスチャレンジ「#waterchallenge」も流行し、ヨーロッパ、北米、ブラジルに加え、アジア太平洋にもTylaの名前が広がりを見せていく。Spotifyはこのタイミングで『Spotify’s Greasy Tunes showcase』にてTylaが「Water」を初披露する場、ファンと直接の接点をつくる機会を設けた。その後も南アフリカで行ったイベント『Giants of Africa Festival』へのブッキングや、Spotifyがパートナーシップを結ぶルワンダのフェス『Giants of Africa』に「RADER」アーティストの一人としてブッキングするなどサポートを続け、2023年9月には、1日に400万ストリームを達成するという劇的な成長を見せる。そして、Tylaは10月の段階で10億ストリーミングを達成。わずか1年未満で驚くべき成果を残した。その後も2024年の『第66回グラミー賞』では「最優秀アフリカン音楽パフォーマンス」を受賞。2025年2月には「Water」が10億ストリーミングを記録した。

 ジョー氏はこれらの結果を受けて「何か一つの出来事がきっかけになっているということではなく、さまざまな取り組みが功を奏して集大成として劇的な成長という成果につながっていると思っています。オンラインプラットフォーム、イベント、さまざまなマーケティングやチームの活動が重なってこの結果が生まれたと確信しています」と語る。日本でも「Water」リリース以降に名を上げたTylaだが、トニー氏は「我々は『Water』から登場したのではなく、初期から継続的にサポートしてきた。それがこのような結果につながっていると思う」と早い段階からサポートを続ける重要性を強調した。

ROSÉ & Bruno Mars「APT.」ヒットが証明した「言語の壁はない」ということ

 続けて、グスタフ氏からは効果的なコラボレーションの例として、『MAJ』の最優秀楽曲賞にもノミネートされたROSÉ & Bruno Mars「APT.」の紹介が行われた。この楽曲に対してグスタフ氏は「それぞれファンのいるアーティスト同士のコラボレーションですが、ファンを奪い合うのではなく、win-winでお互いのファンを増やすことができたいい事例」だったとし、「言語の壁がない」ことにもフォーカスする。韓国語と英語が用いられた同曲が全世界で爆発的にヒットしたことについて「歌詞を理解できなくても十分楽しんでいるというのが重要」と指摘。また、日本の楽曲もストリーミングを通して海外のリスナーに聴かれる機会が増えていることにもふれ、「言語の壁はなく、多くの日本の楽曲が海外に進出できるようなトレンドがある」とした。

 さらにグスタフ氏によると、「APT.」では「Spotifyのさまざまなツールを活用していたことも成功につながった」という。短いビデオコンテンツを配信できるClipsの活用などでファンへのリーチを高めた結果、Spotifyで1日に再生された回数、Spotifyで1日に再生されたMVで1位、さらに10億回再生到達歴代2位という成果に結びついたのではないかと説明した。

「Lunch with Spotify」
グスタフ・イェレンハイマー氏

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