Spotifyのグローバルヒット事例から学ぶ“海外輸出”のヒント 日本の音楽の未来に繋がるトークセッション

グローバルヒットの事例から学ぶヒント

千葉雄喜、世界中にリスナーを広げたコラボレーションの力

 BLACKPINKのROSÉ、ブルーノ・マーズといったアーティストバリューに頼らずともグローバルなヒットにつながったコラボレーションの事例としてトニー氏が紹介したのは、日本のラッパー・千葉雄喜だ。

 千葉は、2024年2月に「チーム友達」をリリース。国内外で広がりを見せた楽曲ではあるものの、この時点の月間リスナー数は35万人ほどだった。この楽曲リリースと並行して進行していたのが、アメリカの人気ラッパー、ミーガン・ザ・スタリオンから打診を受けたコラボレーションである。6月にリリースされたミーガンのアルバム『Megan』の一曲として収録されたのが、千葉が参加した「Mamushi」だった。〈お金 稼ぐ 私は スター〉といった日本語を交えた歌詞もフックとなりバイラルヒット。月間リスナーの伸びに早々に気づいたSpotifyのエディトリアルスタッフがヒップホップの人気プレイリスト「RapCaviar」に同曲を57日間追加。このプレイリストに入った時点で月間リスナーは40万へと増加した。その後、「Today's Top Hits」に追加された時点で月間リスナーは50万へと到達。主要プレイリストに約2カ月間掲載されることによって大きな伸びが見えたという。

 そして、12月に月間リスナー434万人という驚異的な伸びを見せたのが、Spotifyが世界中で大規模キャンペーンを展開する企画「Spotify Wrapped」だ。日本では「Spotifyまとめ」として知られるこの企画で「Mamushi」にフォーカスしたところ、2900万人が「Mamushi」を介して千葉雄喜を知ったというデータが出たという。トニー氏は「やっぱりコラボの力というのはすごい」「日本のアーティストにも十分な可能性がある。スーパースターのみならず十分ありえる話です」と力説した。

 このように、世界中でオーディエンスを拡大できる好例にもなっているコラボレーションだが、グローバルアーティストからも日本のアーティストとのコラボレーションを待望する声が度々聞かれるようになってきているという。その話を受けてトニー氏が「クールジャパンという表現もありましたけど、日本のカルチャーは、僕から見ればすごく今ホットだと思う。とにかくジャパニーズカルチャーは世界で熱い」と話すと、ジョー氏も「関心や熱が盛り上がっているタイミング。まさにクリエイティブなものをアピールしていく絶好の機会が日本に訪れている状況。うまくサポートすることによって活性化できるのでは」と期待を寄せた。

「Lunch with Spotify」

 続けてトニー氏は、日本のカルチャー人気が高まっていることにふれつつ、その中での音楽の存在の小ささに言及する。「『日本語の壁』みたいなことを時々言われるんですよ。海外に楽曲を届けるためにはアニメ以外の突破口がない、と。そこで気づいたのがインバウンドで日本に来たり海外で日本の音楽を楽しんだりしている、いわゆる外国の消費者の中にアーティストたちがたくさん含まれているということなんです」と話し、近年「Mamushi」以外にも日本語の歌詞を使っている楽曲、日本のカルチャーから影響を受けている楽曲が複数あることを紹介。「ひょっとしたらポップス、スポーツ、アニメ、ゲームが影響しているかもしれないですが、日本のことがこれだけ好きだということは海外に知り合いを作っていく、つまり海外アーティストとのコラボしていくことがより多くの聴衆に到達できる鍵なのではないかと思います」と、日本のアーティストにとっても海外アーティストとのコラボレーションが重要であることを改めて伝えた。

 ジョー氏によると、Spotifyでは日本のアーティストと世界のアーティストをつなぐ取り組みも行っており、現在、インドネシアと日本のアーティストによるコラボレーション作品の準備を進めているという。ジョー氏は「今後も世界中でコラボレーションを実現することができるような企画がある。現時点で詳細は申し上げられないが、多くのコラボレーションの機会を提供できれば」と語った。

「これからの日本の音楽市場、本当に明るい将来が広がっている」

「Lunch with Spotify」

 最後に、Spotifyが用意しているいくつかの機能についての紹介が行われた。

 アーティストがリアルタイムでさまざまな統計を確認できる「Spotify for Artists」は、どこにマーケティング投資をするべきか、どんなアーティストとコラボレーションするべきかなど、施策の検討に活用することができる機能。短尺のビデオを配信できる「Clips」は、ファンとアーティストのつながりを高め、親近感を構築することで消費活動を活性化させる効果があるという。「カウントダウンページ」は、ファンがお気に入りのアーティストの新作を事前にプリセーブしたり、リリースまでのカウントダウンタイマーを見たりすることができる機能。「Clips」などと組み合わせたコンテンツを展開していくとより効果的だといい、プリセーブをした70%のユーザーが実際に楽曲リリースされた初週に即ストリーミングを開始するという結果につながっている。

 ジョー氏のお気に入りの機能は、アーティストとファンが直接交流することができる「リスニングパーティー」だ。ファンは世界中どこにいてもアクセスすることができ、ファンはアーティストと一緒に楽曲を聴いたり、アーティストはファンの質問に答えたりすることができる。アジアでは特に使われている機能の一つで、日本でもSnow ManやNumber_iといったグループが活用した。いずれもファンの熱量が高く、参加率も高かったという。

 トニー氏は、プレミアムユーザーのみがアクセスできる「ミュージックビデオ」機能を紹介。すでに100近くの国で展開され、カタログは30万以上。今後も拡大していく予定だ。ストリーミングと同じく1再生ごとに数字が集計されるため、アーティストの収益にもつながる。また、ヘビーリスナーに対するライブチケットの先行販売特典も行われている。Spotifyの調査によると、好きなアーティストのライブに行き損ねるユーザーは実は多いそうで、よく聴いているリスナーに対してライブの開催や先行販売をアナウンスできるのは大きい。ライブのチケットでは、イープラスとパートナーシップを結んでおり、音楽を好きなユーザーに対してチケット情報を届けられる利便性の高い機能と言える。

「Lunch with Spotify」

 「これからの日本の音楽市場、本当に明るい将来が広がっている。少なくともSpotifyは、日本に対する期待値がとても高いです。今配信普及率が低いのは、つまり今後のビジネスチャンスが多い、今海外進出していく日本のアーティストが少ない、つまりこれからどんどん伸びていく。楽しい思いしかありません」とトニー氏は語る。コラボレーションの重要性、長期的・戦略的なアーティスト育成など、今後の音楽業界の未来に向けたヒントが多く詰め込まれたトークセッションだった。

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