AIと向き合う音楽の未来の行方――Nolzy×柴那典、対談! 新曲「fit感」で問う意義のすべてを語る

AIと向き合う音楽の未来「むしろ自分の強みを活かせる時なんじゃないか」

――「fit感」も「Scent of melancholy」もそうですが、Y2Kがひとつのキーワードでありつつ、その向こう側に70年代末がある感じがするんですよね。シンセサイザーのデジタルサウンドがすべてを塗り替えるちょっと前くらいのサウンド感というか。
Nolzy:たしかに。80年代前夜って感じですね。
――そういう時代感が多層的に積み重なってることが、今と過去の両立につながってるんだろうなと思ったりもしました。
Nolzy:たぶん、新しい時代のトレンド感と、その前までの流れが合流してる時点が好きなんだろうなっていう気もしますね。70年代っぽい音と80年代っぽい音の違いは、明確に技術の発達であって。その過渡期にあたるものが好きで。カオスさみたいな、そこにおのずとミクスチャーされている感じみたいなものが好きなんだろうなって思います。そのうえで、次の時代を作っていきたいという意志の表れでもあるのかもしれないです。だから、まだ僕も新しい時代の音をずっと探してるというか。2030年代の音みたいなものを探し始めてる時期な気がしてますね。この先も変わっていくと思うんです。特に今それを感じるのはAIですけど。
――AIによる音楽制作についてはどんなふうに思いますか?
Nolzy:実際、最近はAIをすごく活用しているんです。「Ableton Live」のテンプレートを作ってくれたりするんです。たとえば、リファレンスの曲をアップして、「このサウンド感で、こういう歌詞の世界観で、こういう世界観のMVを作りたい」ということをオーダーすると、だったらキックはこういう設定にしたほうがいいとか、リバーブやショートディレイの細かい秒数の設定とか、そういうところまでリスト化してくれる。そうすると、この時代のこの感じの音楽と、この感じのジャンル感を混ぜ合わせられる、と。そこでローズの音色を鳴らしてちょっと揺らしたりするとさらに世界観が出る、とか。ボーカルのEQの設定をこうするといいとか。それを踏まえた「Ableton Live」のセッションファイルのテンプレートを作ってくれる。
――なるほど。テンプレートをAIで作る。
Nolzy:「AIで作曲する」って言うと、プロンプトを入力してそのまま曲が吐き出されるっていうのをイメージする人が多いと思うんですけれど、そういう使い方じゃなくて。もっとクリエイティビティの前段で、一般のリスナーには伝わらない形でAIが作曲をアシストしているというのが今後進化していくと思います。今はまだ精度が低いので、それゆえに意味のわからない音とかがあったりするんですけれど。でも、それによって刺激されて自分のアイデアが浮かんでくる、AIと話していくなかでクリエイティブが膨らんで新しいものを生み出すというのが、自分でもリアルに見えていて。そういう意味では、2030年代は発想としてのぶっ飛び感が変わってくるなと思います。
――今年リアルサウンドでKREVAさんに取材をしたんです(※1)。彼はAIで生成したフレーズをサンプリングして曲を作ることにトライしているんですよね。AIを素材として使っているという意味では発想は近いんじゃないかと思いました。
Nolzy:そのインタビューの話、ほかのラッパーの友達から聞いた気がします。たしかに発想はそれに近いと思います。結局、テクノロジーが進化すると、身につけたスキルのほとんどが、考えようによっては意味なくなっちゃうんです。特に「Splice」の登場が僕は大きかったんですけれど、いいキックの音色を作るためにどうしたらいいのかを考えてコンプのことを勉強したりとかやってきたのに、再現したいリファレンスの素材がマスタリングされた状態でそのままあって。それを並べるだけで成立しちゃう。そうなった時に、「この10年間って何だったんだろう?」って悲観しがちだったんです。でも、ここまできたら、そのなかで自分のスキルとか培ってきたものをどう活かせるかというゲームになっているわけで。それをやってきた人が長く戦い続けてる。そういう発想ですね。今って、もはや作業自体は結構楽ができるんです。そこで戦いづらくなってきてる。だから、発想力とかゼロからイチのきっかけとかがすごく大事で。そうなってきた時にそこを刺激してくれるっていう意味でのAIの使い方になってくると思います。
――僕も日々原稿制作とリサーチに「ChatGPT」や「Claude」をフル活用しているんですけれど、AIを使っていて思うのは、ブルース・リーが言ってた「考えるな、感じろ」というのが予言のような意味合いを持っていたなということで。AIは“考える”という部分をひたすら高速に回してくれる。だけど“感じる”の部分は自分にしかできない。自分の心がどう動くか、何に感じ入ったのか、そういう感性の大事さがいよいよ前景化してきた印象があって。これはクリエイターもひしひしと感じていることなのでは、と。
Nolzy:まさにそういうことを言おうと思ってました。何を感じるか、感性の独特さとか、人間としての面白さみたいなものが問われる時代になっていく。僕は、「Outsider」からずっと“普通になれない苦しさ”を歌っていたけど、でもそこを肯定し続けてきていて。「Family」の時も、普通じゃない家族というものを悲しいものとして描きすぎない。そういうものもあるという肯定をしたかったというか。「その状況を“いい”ととらえるか“悪い”ととらえるかはあなた次第だ」という歌詞の書き方をずっとしてきてた。そういう意味で言うと、自分のやってきたことがようやくハマってきたなって思います。自分がやってきたことって、わかりづらかったりとか伝わりづらかった部分もすごくあるんです。そこを明確にしていないから。でも、何を感じるかが問われていく時代においては、僕はずっとそこにフォーカスして表現してきたから。AIを前向きに使えるようになったのも、これはむしろ自分の強みを活かせる時なんじゃないかっていう、そのストーリーが自分のなかであって。だから今、音楽家として、人間として、すごく高まってきているって思います。

※1:https://realsound.jp/2025/02/post-1925859.html
■リリース情報
Digital Single『fit感』
配信中
配信URL:https://nolzy.lnk.to/fitkan
■公演情報
『Nolzy ONE MAN LIVE 2025 "fit感"』
2025年7月13日(日)OPEN 17:30/START 18:00
会場:東京 TOKIO TOKYO
チケット受付URL:https://eplus.jp/nolzy/
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