AIと向き合う音楽の未来の行方――Nolzy×柴那典、対談! 新曲「fit感」で問う意義のすべてを語る

Nolzy×柴那典 対談

自身の代表曲「Outsider」の言い換え――「世のなかとの“fit感”だ!」

――では新曲の話を。「fit感」はディスコファンク的なサウンドの曲ですが、これはどういうアイディアから作り始めたんでしょうか?

Nolzy:「fit感」というワードを最初に思いついたんです。発想としては、Y2K的なニュアンスもあるし、ジャスティン・ティンバーレイクとかティンバランドっぽいビートのファンクチューンをやりたいというのが自分のなかにあって。それを今やる意味を考えていた過程で「fit感」という単語を思いついたのが、この曲のスタートになりました。

――言葉が最初にあった。

Nolzy:なぜ「fit感」かと言えば、僕は「Outsider」という曲の頃から、世のなかに上手くハマれない、疎外感を感じてる人に対して、それをダンスミュージックの上で昇華することによって乗りこなしていくみたいなことを、長いあいだずっとコンセプトにしていて。だからこそいろんなジャンルの音楽をやるし、「このジャンルのトラックにこのメロディを乗っけるんだ」みたいなちぐはぐさも、そういったことの表現の一手段として意図的にやっていたんですね。「Outsider」は僕にとって代表曲だし、自分の切り札のような曲でライブでも毎回やっているんですけれど。でも、「Outsider」という言葉は直接的すぎるところがあって。その言い換えをずっと考えて、「世のなかとの“fit感”だ!」みたいなところにつながっていったんです。精神的な内面の比喩とか、概念としての「fit感」もあるし、もっと直接的に服のサイズ感、着丈とかスタイリングという意味での「fit感」も言葉として使えるし。英語と漢字っていう組み合わせも字面として単純に面白いなと思って。自分の表現したかったことを一言で集約できる言葉が「fit感」だったんです。この4、5年、いろんなことをやってきたし、「何がしたいの?」というような意見もあったんですけど、生き方も、音楽性も、ファッションも、自分なりの「fit感」を探し続けてるんだという。そのキーワードが見つかって「これだ!」ってなったんです。

Nolzy - fit感 [Official Music Video]

――ファンキーなサウンド、ノリのいいアップテンポな曲調で“馴染めなさ”を歌うのって、あんまりほかの人がやっていないことだと思うんです。

Nolzy:そうですね。でも、それこそ僕のルーツであるスガ シカオさんはそういうことをやっていたと思うんです。特に初期の曲は、歌詞にジャーナリズム性すら感じるというか。シリアスなことを歌っているけど、曲調は踊れる。それがリアルに感じられたんですよね。悩み方にもいろんなパターンがあるし、必ずしも悩んでいる時にピアノのバラードが聴きたいわけでもない。自分にとってはやっぱりちぐはぐさが大事で。感情の複雑さというか、理屈を超えたものを表現するためには、マナーに乗っかっていない部分とか、「なんでそうするの?」みたいな違和感みたいなものが、僕にとってはいちばんリアルに響く。だから、意図的にズラしてるということなんですね。

――この曲は最後にポイントがあると思うんですけれど。シックの「Le Freak」を引用していますよね。歌詞には〈fit感〉とあるけれど「Freak Out」に聴こえる。

Nolzy:まさにそうですね。もちろん意識してます。ファンクの文脈にもあるし、そもそもシックであることすらを知らない人にも、一度は聴いたことのあるフレーズだと思うんですよね。それが過去を更新していくっていうことにもつながるというか。結果「これ何か聞いたことあるけど、何の引用なんだろう」って言って、ルーツに戻ることもあるかもしれないし。それは「今と過去をつなぐ」みたいな信念ともつながるし、何よりキャッチーで。逆にこのサウンドロゴをイントロに持ってくることもできるし、もっと前段階でも出せるけど、最後に出すことにしたんですよね。最後に2回しか言わない。歌詞を言い切ったあとにしか言わないっていう。それが最後に印象として残る。しっくりきたんですよね。それが結論になることが、ファンクのサウンドをやってる意味とかにもつながる、という。

――この引用が面白いのは「Freak Out」という言葉とシックのあの曲が持っている享楽性って、“馴染めない”という曲のテーマに対してのひとつの回答にもなっていると思うんですよね。そういう意味でも非常に批評性が高いなと思いました。

Nolzy:ありがとうございます。それはやっぱりライブラリを引用したり、蓄積して表現しているというところなので。僕はずっと軽薄さと奥行きのバランスをずっと調整してるところがあって。奥行きだけに振り切ることもできるけれど、軽薄さというか、いい意味での前提知識の要らなさ、聴きやすさ、耳心地のよさみたいなものもあって。そのいちばん美しいバランスを探しているというか。疎外感がベーシックにあるから「わかる人だけにわかればいい」とすると、結局疎外感を生み出さざるを得なくなってしまう。その両方がどうやったら両立するんだろうと考えているところですね。

――もうひとつ、今年4月にリリースされた「Scent of melancholy」。こちらはどういうところから作っていった曲なんでしょうか?

Nolzy:これはずっと昔からあった曲で。シティポップ的なマナーを大事にした曲です。今まで自分の音楽のひとつのテーマとして“80年代”とか“懐かしい音楽”みたいなものはあったけれど、直球のシティポップというものは実は作っていなくて。だからそこにまっすぐ向き合いたかったっていうのがありました。あとは、この曲の制作くらいのタイミングで東京に引っ越したのも大きくて。自分にとって都市の生活がリアルになったタイミングでこういう曲を制作しておきたいという気持ちもありました。ただ、どちらかというと自分に課した使命としては「fit感」が強くあったので、それに対して導線を引くような位置づけもありました。

Nolzy - Scent of melancholy

――いろんなシティポップがあるなかで、この曲を聴いて感じたのは寺尾聰の文脈なんですよね。歌謡曲の匂いもある。そのあたりのバランス感がある曲だなと思いました。

Nolzy:たしかに、もっとメジャーコードっぽいほうがシティポップのイメージもありますよね。80年代のシティポップの前にあったニューミュージックとか歌謡曲的なニュアンスが大いに反映されるっていうのは僕のルーツにもつながってくると思います。

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