Vaundy、異質な存在感をポップスに昇華する刺激 研究や解体を経て“内なる衝動”を放つ新フェーズ

2025年、Vaundyがますますその勢いを加速させている。現在は『CDTVライブ!ライブ!』(TBS系)に5週連続出演中。その皮切りとなる5月5日の放送ではロンドンからの生中継で最新曲「僕にはどうしてわかるんだろう」などを披露。この後の放送でもVaundyを代表するヒット曲が次々と披露されていくという。Vaundyがそれだけ多くの“代表曲”を世に送り出してきたということだが、その中でも2024年以降、つまりアルバム『replica』(2023年)を経て彼がリリースしてきた楽曲たちはまさにその絶好調ぶりを物語っているように思える。Vaundyは常に“ポップス”を生み出すことに自覚的であり続けてきたが、ポップスとは何であるのか、何に根差したものなのかを研究するような作品となった『replica』を経て、彼はいよいよその“実践編”に突入していった感じがする。その結果、明らかにシーンの中で異質でありながら、それがポップスとしてさらに広がっていくという、一見矛盾するような状況が生まれていったのである。
Vaundyにとって2024年の幕開けとなった「タイムパラドックス」から話を始めよう。『映画ドラえもん のび太の地球交響楽』の主題歌として書き下ろされた楽曲である。Vaundyにとって初のアニメ映画タイアップ、そして『ドラえもん』映画史上初めて2000年以降に生まれた男性歌手による主題歌となった同曲は、国民的コンテンツである『ドラえもん』とのコラボレーションによってVaundyという名前とその音楽を小さな子どもたちにも届ける契機となった。
だが、「タイムパラドックス」はそれまでの“Vaundyらしさ”に満ちた楽曲かと言えば決してそんなことはない。むしろ非常に実験的な、とても新鮮なフォルムを持っていた。サウンドの柱を担うのは軽やかに鳴り響くピアノ。弾むようなリズムに乗せて歌うVaundyの歌声もリラックスしていて、音と戯れることを楽しんでいる印象がある。まさに“音楽”のプリミティブな部分がそのまま形になったような純粋さ……というよりも無防備さは、それまでの緻密に構築されていたVaundyの楽曲とは違う手触りだった。もちろん、この曲もとてもロジカルに考え抜かれた先ででき上がったものであることは言うまでもないが、そのロジックの矢印が「今ここ」にどれだけ刺さるか、どれだけハマるかという視点ではなく、はるか遠い未来に向かっている感覚があって、それが「タイムパラドックス」に特別な親密さをもたらしているように思う。
そうした視点は、その後リリースされた楽曲にも確実に反映されていた。映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE ユアネクスト』の主題歌とエンディング主題歌になった「ホムンクルス」と「Gift」、幕張メッセでのワンマンライブ『HEADSHOT』でのMV生収録&配信も話題となった「GORILLA芝居」。いずれの曲もサウンド的/歌詞の内容的に、同時代性へのリンクをテーマにするというよりも、自身を形作ってきたルーツ、あるいは脈々と流れる音楽の歴史――それはアルバム『replica』でVaundyが自覚的に表現していた音楽的素地としての“来歴”という言葉とも一致する――に参照点を置きながら、それを現代的なポップスとしてアップデートするような楽曲だったからだ。少なくとも2023年、アルバムをリリースするまでのVaundyはもっとシーンの動きに対して敏感に反応し、そこに対して的確にボムを投下するような姿勢で楽曲を作り出していた気がするが、それとは明らかに違うモードが、次々とリリースされる楽曲からは感じられた。サイクルがどんどん速くなり、新しさや先鋭性がフォーカスされがちな現代の音楽シーンにおいて、それはとても特異なものだが、ポップスを作るというのは本来そういうことだと、Vaundyの楽曲は訴え続けてきた。
そのひとつの到達点になったといえるのが、昨年10月にリリースされた金曜ドラマ『ライオンの隠れ家』(TBS系)主題歌「風神」である。コシの強いファンクをベースにしたグルーヴは「GORILLA芝居」の延長とも取れるものだが、そこに乗るストリングスの響きやサビへの展開の仕方、突き抜けるようなメロディラインによって、同曲のある意味マニアックな匂いを見事にポップスとしての強度に転換している。〈僕が、誰かを想うたび/風纏い擦り傷が絶えないだろう〉という歌詞にある通り、この曲で歌われる〈風〉とは“誰かを想う”ことであり、〈君もそう、風神さ〉という一節が物語るようにそれはVaundyの一人称というよりも、聴き手一人ひとりに向けて歌われているものだ。ライブで「風神」が披露されるときは、風神の巻き起こす風を表現する大量のスモークがステージはおろか客席をも覆い尽くすように噴出するが、それはまるでこの非常にディープな音楽性を持った曲がそこにいる全員を巻き込んで当事者に仕立て上げていくかのようで、それこそVaundyのポップス観をよく表しているように思う。「風神」はドラマの高評価も相まってチャートアクションでも健闘。今年4月には自身15曲目となるストリーミングの累計再生回数1億回を突破し、Vaundyが提示するポップスの正しさを改めて世に知らしめる結果となった。