Number_iが見せた夢と現実の境目、余白の美学 2度目のツアー『No.Ⅱ』で描かれた物語――その本質に触れて

ポップなフロートに乗って、平野紫耀、神宮寺勇太、岸優太がアリーナを一周する。10月から12月にかけて開催された『Number_i LIVE TOUR 2025 No.Ⅱ』のアンコール。3人が笑みを浮かべながらiLYs(ファンの呼称)の大歓声に応える光景は、まるで舞台のカーテンコールのようだった――。

9月リリースの2ndフルアルバム『No.Ⅱ』を携えて行われた、Number_iの2度目の全国ツアー。昨年のツアーと比較すると、大きく異なる点はふたつだった。
ひとつは、前回はアリーナの中央付近にも設けられていたサブステージが今回はなかったこと。ライブ本編、実際にパフォーマンスが繰り広げられる唯一のメインステージでは、メンバーが出演するインターバル映像を挟みながら、『No.Ⅱ』の内容を拡張したようなストーリーが描かれていた。だからこそ、物語が完全に幕を閉じたアンコールのみ、3人は観客の近くへ向かうことを選んだのかもしれない。今までにも、曲の世界観を最大限に表現するためのパフォーマンスを模索してきたNumber_iらしいギミックだと思った。


では、『Number_i LIVE TOUR 2025 No.Ⅱ』で描かれた“物語”とは一体何だったのだろうか――。筆者が見届けた11月30日夜の広島公演をもとに振り返りたい。
オープニング映像で、平野、神宮寺、岸は“ZMZMドリンク”の広告を撮影している。控室に戻ったところで、窓から空に浮かぶ巨大な謎の円盤を目撃。不思議に思って外に出た3人は、宇宙船のようなその円盤に吸い込まれてしまう。円盤の主によって身体検査をされた様子の彼らが、再び地上に降り立っていく――というところで、映像と連動するようにして天井から3人が登場。楽曲は「HIRAKEGOMA」。昨年リリースの初のフルアルバム『No.Ⅰ』のデラックス盤『No.Ⅰ (Deluxe)』に追加収録されたこの曲で、『No.Ⅰ』から『No.Ⅱ』への移り変わりを示すようにしてライブはスタートした。


昨年のツアーともうひとつ違う点は、バンドによる生演奏だ。音源からバンドサウンドが取り入れられていた「ATAMI」はもちろん、続く「FUJI」もバンドアレンジバージョンで披露された。たとえば、岸が切れ目なく歌う〈情熱が向いてる方へ/好きにやる Invasion〉からのパートは演奏が一瞬鳴り止み、彼のボーカルが強調された。そういった生演奏ならではの動と静のメリハリが効果的に用いられ、曲をよりダイナミックなものへと変えていた。ドラムロールで高揚感を誘いながら「INZM」に繋げ、テンションマックスな「幸せいっぱい腹一杯」では大量の紙吹雪が空中を舞う。3人の歌と共鳴する迫力の演奏、派手な演出が、ライブという非日常への没入感を高めていった。



「Numbers Ur Zone」ではダンサーも登場し、Number_iの武器のひとつでもあるハイレベルなダンスパフォーマンスで魅せていった。ストリングス隊も加わった「なんかHEAVEN」は浮遊感の増したサウンドで、スクリーンにはキャラクター化したメンバーがふわふわと宙を漂うような映像も映し出される。「ロミジュリ」と神宮寺のソロ曲「LOOP」をギターソロで繋ぎ、さらに神宮寺が歌い出しを務める「SQUARE_ONE」へと続いていったことからも、本公演が前後の流れを相当意識して構成されていることが伝わってきた。細やかに構築された世界に入り浸っていると、〈歩いた場所しか道になんないな〉を平野が唐突に裏声で歌い、「いたずら電話みたいな人いなかった?」「なんかいたよね?」と反応する神宮寺と岸。「かっこつけきらない感じがね(笑)」と笑う平野の通り、少しの緊張が張り巡らされた空間に少し息を抜ける瞬間があるところも、なんだか彼ららしい。

「Hard Life」のあとの映像では、宇宙船に行ったことは岸の夢だったと発覚する。撮影の合間に談笑する3人だが、用意されていた果物を平野がかじったところで彼の身に異変が起き、メインステージで平野がゆっくりと起き上がる形で「2OMBIE」へ突入。「BON」からピアノソロで岸のソロ楽曲「KC Vibes」へと繋げ、さらに、岸、神宮寺、平野の順に歌い繋ぐ「Numbers」から平野のソロ楽曲「ピンクストロベリーチョコレートフライデー」と続いていくのも鮮やかな流れだった。



ピアノとボーカルのみでゆったりと始まるアレンジで届けられた「i」は、今回のハイライトのひとつだろう。〈小さな i〉(=小さな愛)を贈るように、繊細な歌声でメロディを紡ぐ3人。バンドのアンサンブルが加わり、ドラマチックな雰囲気が増していく。生演奏によって再構築された「GOD_i」、「GOAT」のパフォーマンスを経て、ラストは「未確認領域」。流れ出した映像で「ゾンビになる夢を見た……」と平野が呟くが、再び撮影に励む3人の目が最後に怪しく赤く光る。一体どこまでが夢で、何が真実だったのか――。謎を残して、物語は終わりを告げるのだ。
そして、ここで冒頭に記したシーンに戻るというわけである。楽曲もまた、どこまでが本当なのかわからないものだ。アーティスト自身の経験に基づいて生まれた楽曲でも、それはフィクションとしての側面を持つ。だからこそ、聴き手は解釈の余白を楽しむことができる。



メインステージに戻った3人が、アンコールのラストに歌ったのは「i-mode」だった。〈i-modeな君を見たい/i-modeな君を見たい/i-modeな君といたい/それだけでいいよ〉――。この曲は、グループが2年目、3年目と月日を重ねていくなかで芽生えた「ずっと自分たちを見ていてほしい」というiLYsへのメッセージを乗せた楽曲なのだと思う。もちろんこれもひとつの解釈に過ぎないが、受け取ってさまざまな考えを巡らせられるからこそ、Number_iが生み出す作品は面白いのだ。夢と現実、事実と虚構の境目を曖昧にしながら、今後も彼らは音楽を通して今の自分たちを提示していくのだろう。
バンドセットという新たな挑戦も見られた2度目の全国ツアー。Number_iの表現者としての実力は磨かれ続けている。彼らの手で紡がれていく物語を、想像力を働かせながらいつまでも見届けていたい。



























