“浜野はるき”という器そのものが拡張していくプロセス つやちゃんが紐解く――『NET BaBY (FuLL)』の真実

つやちゃん、浜野はるき評

 2025年の浜野はるきを振り返った時にまず驚かされるのは、その活動の幅広さと、それらを“浜野はるき”というひとつの人格へと編集してしまう統合力だ。音楽性、ビジュアル/ファッション、メッセージといった異なる要素を横断しながらも、彼女の表現は不思議と破綻しない。その背景にあるのは、人格そのもののレンジの広さだろう。今のポップシーンが求める複数の役割を、ほとんど無理なく同時に引き受けてしまう感度こそが、浜野はるきの表現を支えている。その懐の深さは、デビューから数年で身につけた技術というより、もともと彼女のなかに備わっていた資質が2025年に一気に可視化された結果のようにも見えた。

 そもそも、現代のポップシンガーという職業は、器用さなしには成立しない。ジャンルレスが前提となった音楽シーンにおいて、多様な音楽性を歌いこなすこと。TikTok、YouTube、Instagram、X(旧Twitter)といった複数のSNSでさまざまな顔を見せていくこと。世界観を作り込んだMVを成立させ、ライブでは音源以上の体験を提示し、さらにファンとのコミュニケーションも怠らないこと。役割は年々増え続けている。そうした状況のなかで浜野はるきは、カメレオンのような多面性をもった存在として、ポップシーンに現れた。「Princess GaL」「CuL」といった楽曲がTikTokを中心にバイラルし、Billboard「TikTok Weekly Top 20」をはじめとする各種チャートを賑わせた時点で、彼女はすでに“今のポップの中心”に足を踏み入れつつあったと言えよう。2025年5月にリリースした1stアルバム『NET BaBY』は、その時点までの浜野はるきを総覧するような作品だった。ハイパーポップ的な高揚感を持つ楽曲だけでなく、和テイストを取り入れた「NINNIN」、内省的なバラード「腑抜けたsoda」など、音楽性も感情のトーンも実に幅広い。恋愛の描かれ方も、片思い、すれ違い、自己肯定、距離感と、さまざまなシチュエーションが並んでいた。

Hamano Haruki「NINNIN」(Official Music Video)

 さらに、リップケアブランド「CHOOSY」とのコラボレーション楽曲「ちゅ<3」を書き下ろし、MVではコスチュームプレイのように多彩なルックを着こなす。ライブでは、バックを務めるメタルバンドの楽器隊が強靭なサウンドを鳴らし、音圧のあるステージを作り上げる。そのすべてが、浜野はるきというアーティストの幅広さを証明していた。

Hamano Haruki「ちゅ - CHU」(Official Music Video)

 しかし、浜野はるきという器の拡大はそんなものでは止まらない。季節が移り変わるごとに、その表現はますます更新されていったのだ。アイメイクブランド「Love Liner」とのコラボレーション楽曲「Prettique Bomb」は、その象徴的な一曲だろう。ポップでダンサブルなサウンドのこの曲は、浜野はるきのキャラクター性に新たなカラーを増やした。何より特筆すべきなのは、アルバム『NET BaBY』自体がどんどん進化していったことだ。8月には『Deluxe Edition』へ、11月には『FuLL』へと発展。新曲が追加されるたびに、アルバムは別物のように姿を変えていった。

Hamano Haruki「Prettique Bomb」(Official Music Video)

 浜野はるき本人はインタビューで、『NET BaBY (FuLL)』を「おもちゃ箱みたいなアルバム」と表現している。

「おもちゃ箱みたいなアルバムだなと思ってます。喜怒哀楽はもちろん、過去も現在も未来も、恋愛も自己肯定もぜんぶ入っている。ひとつのテーマに絞るというより、25年間の自分の全部を詰め込んだ作品ですね」(※1)

浜野はるき、過去も未来も恋愛も自己肯定も! 追い求める“いちばんリアルな存在”とアルバム『NET BaBY (FuLL)』

浜野はるきが『NET BaBY (FuLL)』をリリース。同作の制作背景から浮き彫りになる、“最新版・浜野はるき”を紐解いていく…

 この“おもちゃ箱”は、固定された完成品ではなく、一年かけて中身が増え続ける箱だった。ライブやSNSでファンとコミュニケーションを重ねるなかで、浜野はるき自身の感情が変化し、その変化がそのまま楽曲として反映されていく。彼女は自分を「プロデューサーのよう」と語るが、まさしく、浜野はるきという器そのものが拡張していくプロセスがアルバムに刻まれているようだ。

 『FuLL』でさらなる新曲が加わったことで、アルバムのバラエティ感は一気に増した。その結果、楽曲同士のコントラストがより鮮明になり、それぞれの個性が立体的に浮かび上がってくる。「Prettique Bomb」は、ダンスナンバーとしてのアグレッシブさはもちろん、「かわいくなきゃ」「きれいでいなきゃ」というプレッシャーをあえて爆発させることで解放する一曲だ。アップテンポなビートの奥には、現代的な自己演出へのシニカルな視線も感じられる。

 「25」は、メロディの力が際立つ楽曲だ。年齢という数字を背負うことの不安と期待、その両方を含んだ旋律は、聴く側の人生経験に静かに触れてくる。派手な仕掛けはないが、その分、浜野はるきの声そのものが感情を運ぶ秀逸な曲だ。「リナリア」は、アルバムのなかでも屈指のバラード。感情を大きく振りかざすのではなく、あくまで等身大の距離感で描かれる別れや喪失。その抑制された表現が、逆に深い余韻を残す。そして、タイトル曲「NET BaBY」。エレクトロニックなサウンドが爆発するこの曲は、アルバム全体の価値観を象徴する重要なナンバーだ。もともとはアンチへの苛立ちから生まれた言葉だった“NET BaBY”が、制作期間を経て、まったく別のニュアンスへと変化していく。

「アルバムを一年かけて作るなかで、自分の気持ちが変わっていって。私に対して(ネットで)悪口を書いてくる人も誰かの家族かもしれないし、誰かのヒーローかもしれない。私から見ればヴィランでも、別の誰かにとっては大切な人かもしれない、というふうに思うようになった。そう考えた時に“NET BaBY”の“ベイビー”がすごくかわいく思えてきたんですよね」

 この視点の転換こそが、浜野はるきの2025年を象徴している。敵と味方を単純に分けず、複雑な感情のまま受け止める。その態度が、楽曲を進化させている。『FuLL Version』によって、「ちゅ<3」や「Vengeance」といったハイパー調の楽曲も、より際立つ位置に置かれた。かわいさ、攻撃性、遊び心が同時に成立していることが、アルバム全体の振れ幅を示している。

Hamano Haruki「リナリア - Linaria」(Official Music Video)

 インタビューで語られた、「浜野はるきは私がプロデュースしているキャラクター」という言葉は、このアルバムを理解するうえで非常に重要だ。世間が抱く“恋愛ソングを歌うかわいい女の子”というイメージと、実際の自分とのギャップ。そのズレを否定するのではなく、あえて二重構造のまま引き受ける。そのスタンスが、浜野はるきのポップスを単なる消費物に終わらせない。アルバムに挟まれたボイスメモや環境音も、そのリアルを補強する装置だ。アンチの声、駅の音、日常のざわめき。それらは「リアルだよ」と言い切るためのピースであり、17曲を通して聴いたと時に、アルバムを総合的な体験へと変えている。

 一年かけて拡張していったアルバムと同じように、浜野はるきのメッセージも広がっている。2026年に控えるツアー『LIVE TOUR 2026 “COVER GIRLS”』は、その象徴だ。

「ライブにきてくれる全員がそれぞれの人生の『COVER GIRL』であってほしい」

 自分だけが主人公ではない、という考え。『NET BaBY (FuLL)』は、完成された答えではない。むしろ、これからも更新され続ける浜野はるきという現象の、ひとつの通過点なのだろう。2026年、彼女はさらに多くの人の味方となり、その器を広げていくはずだ。

※1:https://realsound.jp/2025/12/post-2240579.html

■リリース情報
1stフルアルバム『NET BaBY (FuLL)』
配信中

配信URL:https://linkco.re/uS30DqeN

<収録曲>
01. CuL
02. 速攻ゴミ行き案件
03. リナリア
04. ちゅ<3
05. Vengeance
06. Voice memo 001
07. Prettique Bomb
08. 25
09. ?OUT CaST¿
10. NINNIN
11. Voice memo 002
12. HYPER級GIRL
13. クズやん
14. 腑抜けたSoda
15. 『I』
16. Voice memo 003
17. NET BaBY

■ツアー情報
『LIVE TOUR 2026 “COVER GIRLS”』

2026年4月6日(日)東京 STAR LOUNGE
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年5月3日(日)札幌 cube garden
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年5月5日(火・祝)仙台 MACANA
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年5月10日(日)金沢 AZ
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年5月23日(土)岡山 PEPPERLAND
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年5月24日(日)京都 club METRO
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年6月6日(土)大阪 Yogibo META VALLEY
OPEN 16:15 / START 17:00

2026年6月21日(日)福岡 LIVE HOUSE CB
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年6月27日(土)広島 Live space Reed
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年6月28日(日)名古屋 SPADE BOX
OPEN 16:30 / START 17:00

2026年7月10日(金)東京 豊洲PIT
OPEN 18:00 / START 19:00

<チケット>
プレリク先行:2026年1月4日(日)23:59まで
https://l-tike.com/concert/mevent/?mid=726122

・豊洲以外
プレミアムスタンディング:6,500円(税込)※前方優先・ポストカード付
スタンディング:4,500円(税込)
※学生の方は1,000円割引

・豊洲のみ
VIP席:12,000円(税込)※前方エリア・ラミネートパス&ポストカード付
S席:9,000円(税込)※前方~中央エリア・ポストカード付
一般席:6,000円(税込)

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