藤井 風 1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』から5年 一貫したメッセージが“今”に繋がる原点の輝き
ここまでは、主に歌詞やメロディをもとに振り返ってきたが、コードワークやサウンドメイキングの観点からも『HELP EVER HURT NEVER』を振り返っておきたい。様々なジャンルのエッセンスを凝縮したような各曲のコードワークは、ともすれば複雑でとっつきにくい表現になりかねないが、本作の収録曲はどれも、緻密に構築されたような佇まいはなく、しなやかで、軽やかな響きを放っている。物心つく前から古今東西の様々な音楽に触れ、そのエッセンスを深い次元で血肉化してきた彼だからこそ、まるで一筆書きのような流麗さを誇る楽曲を生み出し得るのだろう。また、本作のサウンドメイキングについては、彼にとっての長年の盟友であるYaffleがプロデュースを手掛けていることもあり、どの曲も、近年の楽曲と並べて聴いても違和感を感じさせない洗練さを誇っている。コードワークと同じく、各曲の随所にきめ細やかな意匠が施されているが、あくまでも歌を引き立たせる、という方向性は揺るぎない。もちろん、それは今も同じだ。
こうして振り返ってみてあらためて思うのは、彼が誇る高度な知識と豊かなリスニング経験に裏打ちされた卓越したソングライティングの技術は、1stアルバムの時点ですでに確立されていた、ということ。長い音楽史の中で傑作として聴き継がれている数々のデビューアルバムがそうであるように、今作が放つ原点の輝きは、これから先どれだけ時が経ったとしても決して失われることはないだろう。もちろん、1stアルバム以降の5年間の歩みを通して、歌うテーマの広さや深さが大きくなったり、海外のプロデューサーとのタッグによってサウンドのフォルムを刷新したり、というように、彼はミュージシャンとして果敢に変化と進化を重ね続けている。
さらにライブでは、1stアルバムの楽曲たちに、新たなアレンジが施されることによって再びフレッシュな輝きを放つことも多い。昨年8月の日産スタジアム公演では、デビューしてからバンド編成で披露するのは初となった「風よ」がセットリストに組み込まれた。信頼を深めてきたバンドメンバーが紡ぎ出す豊かなアンサンブルの中で歌う姿が忘れられない。また、同公演の、TAIKINGが奏でる鮮烈なディストーションギターをフィーチャーした非常にエモーショナルなライブアレンジが施された「死ぬのがいいわ」も圧巻だった。
日々ミュージシャンとして変化/進化を重ねていくこれからの日々においても、同じ時代を生きる私たちへ向けられる普遍的なメッセージ、また、そのメッセージをポップソングへと昇華させるスタンスは、きっとこれからも変わることはないだろう。今回、あらためて、『HELP EVER HURT NEVER』を聴いたことで、揺るぎない一貫性が浮き彫りになったし、それによって彼に対する信頼はより深いものになった。変わらないまま、変わり続ける彼が、2020年代後半をどのように歩んでいくのか。次の一歩に、期待したい。

























