連載「lit!」第140回:Drake & PARTYNEXTDOOR、Lil Baby、MIKE……ラディカルな野心に溢れたヒップホップ新作

Larry June, 2 Chainz, The Alchemist『Life Is Beautiful』

 ラッパーであるLarry Juneと2 Chainz、そしてプロデューサー The Alchemistによる3者名義の本作は、最高のブレンドを目指したのか、あるいは難解な計算式に挑んでいるのか。印象としてはLarry JuneとThe Alchemist名義のアルバム『The Great Escape』の延長で、泥臭さと煌びやかさを同居させる2 Chainzによるトラップの風味を取り入れた、各々の作品の中でも他にない味わいの独特な1枚に仕上がっている。全体のムードとバイブスはリラックスしているが、それぞれの音楽性が相互的に影響し合い、化学反応を見せていく様は極めて刺激的だ。時折歌心を発揮する緩やかで安定したLarry Juneのラップと、言葉を詰め込みながらスピードに緩急をつける2 Chainzのラップの協奏、そしてThe Alchemistによる優雅に変化を見せるトラック。まるで自由なセッションを見せられているようでもある。メロウなトリップに誘われる「Munyon Canyon」やタイトルトラック「Life Is Beautiful」、トラップ調のThe Alchemistのトラックが新鮮な「Generation」は特に耳を惹く。極上にして、珠玉のラップアルバム。

Larry June, 2 Chainz & The Alchemist - Munyon Canyon (Official Video)
Larry June, 2 Chainz & The Alchemist - Generation (Official Video)

Drake & PARTYNEXTDOOR『$ome $exy $ongs 4 U』

PARTYNEXTDOOR & DRAKE “$OME $EXY $ONGS 4 U” FEBRUARY 14

 ビーフを経た失意のDrakeはPARTYNEXTDOORと組んで、OVO SOUNDのムードをパッケージするような、近作の中で最もR&Bメインと言えるような作品を放った。その様相は、いかにも『Views』や『So Far Gone』系統のDrakeのアルバムと言えそうだが、時折挟まれる彼らしい音楽的な趣向、ある種の偏執的なサウンドの捻り方が垣間見えることが、現代的なスリリングさを醸し出している。それこそが、この2010年代的な作品を、ギリギリのところで2020年代的な作品にしている所以でもあるだろう。

 アルバム全体は浮ついたシンセサウンドに顕著な、2010年代のアンビエント/R&B以降の音像を再現しながら、例えば、「MEET YOUR PARADE」ではスペイン語のコーラスを本人が歌い、ラテンミュージックの要素を取り入れ、「NOKIA」においては、ファンク調のサウンドの中でビートをスイッチさせ、巧妙に転調させていく。さらに、ビーフに直接言及したことでリリック的に話題になっている「GIMME A HUG」でも、言葉を詰め込むようなスタイルのラップを畳みかけながらビートスイッチを試み、1曲の中で前半と後半にシンメトリーな質感を生み出している。そういったサウンド展開があるからこそ、本作は言い訳がましい部分にだけ耳を取られるような退屈な作品にはなっていない。彼は、一貫してメロディとビートとラップの快楽を、統一感のある感触とムードで実現する。また、これまでのDrakeの興味(ラテンやハウス、ベースミュージック)が詰め込まれているのはもちろんのこと、ダンスミュージックとラップ的なフロウの多様な解釈がオーバーグラウンドに点在していく現在のポップミュージックシーンにおいて、そのパースペクティブを捉えながら、自らのフェティッシュを追求した作品とも言えるかもしれない。

※1:https://www.complex.com/music/a/jordan-rose/altitude-adjustment-lil-baby-cover-story

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