連載「lit!」第136回:セクシーレッド&ブルーノ・マーズの衝撃作からバッド・バニーら男性スターによる怒涛のリリースまで
Zach Bryan「Blue Jean Baby」
2020年代アメリカ音楽の特色といえば、カントリー潮流。ラップ流歌唱でなんでもヒットに変えるモーガン・ウォーレンの『Dangerous: The Double Album』は、2021年リリースにも関わらず21世紀もっともヒットしたアルバムに君臨した(※2)。2024年には、シャーブージー「A Bar Song (Tipsy)」がBillboard史上最長となる19週連続首位を達成している(※3)。
ビヨンセやポスト・マローンなど、ビッグネームの参入も活発化しているカントリー。ただ、ローカルなジャンルであるため、アジアからすると少しとっつきにくいかもしれない。そんななか、日本のリスナーに親しみやすそうな人気者が、ザック・ブライアン。繊細なフォークを合唱アンセムに昇華する男子として、ブルース・スプリングスティーンはじめ熱心な支持者を集めているロックスター的存在だ。
軍人一家として沖縄で育ったこともあるザックの詞は、ゆらぐ愛国心や地に足のついた生活を文学的に描き出していく。新たに公開された「Blue Jean Baby」の場合、詩的で儚いエッセンスを残しつつ2分で終わる軽やかなラブソングであるため、入門に最適だ。
The Weeknd「Open Hearts」
2025年初旬をしめくくる大作は、スーパースターのザ・ウィークエンドによるアルバム『Hurry Up Tomorrow』だ。マイケル・ジャクソン「Thriller」のようなオープニングで始まる本作は、文字どおり映画のような壮大さ。ファレル・ウィリアムスからラナ・デル・レイまで、オールスターな豪華制作陣によって、ゴシックオペラの如きサウンドスケープが展開していく。はやくも人気曲になった「Open Hearts」の濁流のようなシンセサイザーを担当するのは、全米史上最大のヒットとなった代表曲「Blinding Lights」で組んだマックス・マーティンだ。
「遺書のようなアルバム」と評された本作の物語は、引退劇。「I Can't Fucking Sing」で提示されるように、スターダムで消耗していった彼は、ライブ中に歌えなくなるほどのどん底を経験した。こうして、芸名ウィークエンドとしての人格を脱ぎ捨て、本来の個人へと戻る宗教的な「生まれ変わり」の旅路を歩んでいくのだ。
キャリア史上もっとも暗い最終作とも評されているが、最後の最後には、リリース月に逝去したデヴィッド・リンチ監督作『イレイザーヘッド』挿入歌「In Heaven (Lady in the Radiator Song)」が美しく挿入された表題曲によって幕を閉じる。
※1:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/143712
※2:https://www.billboard.com/lists/morgan-wallen-dangerous-top-albums-21st-century-chart
※3:https://www.billboard-japan.com/d_news/detail/143903
























