My Hair is Badであり続ける覚悟の叫び “トライアングル”が一段と磨かれた『ファイヤーホームランツアー』
『My Hair is Bad presents「ファイヤーホームランツアー」』ファイナルは、バンドにとって4年ぶりのさいたまスーパーアリーナ2デイズ公演だった。2021年のライブでは感染症対策でキャパシティの半分しか観客を入れられなかったが、今回はフルキャパでアリーナはスタンディング。エリアの前方では、バンドの鳴らすサウンドに心を熱くさせた人たちが密集し、躍動している。一時は失われた光景を観客とともに取り戻したMy Hair is Badは、ライブハウス出身のロックバンドとして「俺はやっぱりこういう状況を“当たり前”と呼びたい」と噛み締めた。
6thアルバム『ghosts』を携えて全国26カ所をまわった『ファイヤーホームランツアー』。セットリストの1曲目はアルバムの1曲目でもある「一母八花」で、バンドが鳴らした最初の一音はまるで疾風だ。ステージから客席までの距離を一瞬で無効にするような、熱量の高いサウンドをバンドが客席めがけて鳴らすと、ライブをスタートさせた。『ghosts』は椎木知仁(Gt/Vo)、山本大樹(Ba/Cho)、山田淳(Dr)の3人が集い、My Hair is Badとして鳴らす音、どれだけ手練れのプレイヤーでも、テンポやピッチを100%合わせられるマシーンであっても再現できない3ピースのグルーヴ、その唯一無二性を改めて確かめようというアルバムだった。そんな作品のツアーにふさわしい直球勝負のオープニング。最初の4曲を終えると、椎木が「俺は2人のリズムに頼って、マイヘア史上一番マイヘアらしい表現ができるように、このステージに尽くします」と宣言。そしてまるでこの3人のことを歌っているような楽曲「太陽」を骨太なサウンドとともに届けた。椎木が〈燃えろ太陽〉というラストフレーズを歌うと、先ほどまでステージを照らしていた光がフロアに広がっていく。バンドの熱が観客に伝わっていく。
ステージの床やメンバーの背後に見える映像、照明の演出が視覚的な美しさをもたらすなか、ステージにいるMy Hair is Badはどこまでも生身だ。かつての彼らは、向こう見ずに思えるほど燃焼し、若さと勢いで突っ走っていたが、今はもっと違う方法で心を燃やし、自分たちにとってもリスナーにとっても濃い時間を生み出している。特に印象的だったのは、椎木が「令和の時代にそぐわないかもしれないけど、どうせ付き合うなら結婚したいと思うわけ」と自身の恋愛観を語りながら、「悲劇のヒロイン」「自由とヒステリー」「結婚しようよ」「味方」を披露したシーン。ゾーンに入ったかのような集中力を見せた椎木のボーカルも楽曲にフィットし、感情の波を増幅させる山本、山田のアンサンブルも素晴らしかった。このブロックでは、ライブに夢中になりすぎて曲順を間違えてしまったと椎木がメンバーに謝る珍しい場面が(「結婚しようよ」のあとは「あかり」の予定だったが先に「味方」を歌った)。しかし山本と山田に慌てる素振りは一切なく、演奏もどっしりしていたため、そんなことが起きていたと言われるまで分からなかった観客がほとんどだろう。
椎木が「『結婚しようよ』でグッときちゃって、このあと『味方』歌えるのかと思ったら楽しみで」と打ち明けると、山本と山田は「マジでびっくりしたー!」と何でもないことのように笑った。さらに椎木が、ライブで使うイヤホンを自室に忘れてきてしまったこと、自分はテンパっていたが2人は落ち着いていたことを明かしながら、「俺以外全員堂々として頼もしい」とメンバーを褒める。そして「夢中になることは得意だけど、正直言うと、(バンドをやるのが)向いてるとは自分では思えないの。けど、俺はこれが好きなの。あの頃聴いてた日本のロック、邦ロックが好きなの。だから諦められないんだよね。他に向いてることがあっても、俺はこれをやりたいから、これを頑張ります」と改めて腹を括った。これからもロックバンドをやっていく。My Hair is Badをやっていく。今回のツアーにELLEGARDEN、銀杏BOYZ、ストレイテナー、Nothing's Carved In Stone、クリープハイプとのツーマンを組み込んだのも、きっとそういった覚悟からだ。
My Hair is Badの音楽、ライブを駆動させる“言葉”を紡ぐ椎木が、メンバーを信頼し、だからこそ自己に没頭できるというモードに入ったら、それはもう勝ち確と言っていい。椎木の特性は、何があっても笑いながら支える山本、山田の頼もしさがあるからこそ輝く。この美しいトライアングルが3ピースバンド、My Hair is Badの真髄だ。