My Hair is Bad、連作で味わうストーリーテリング 別れ際の心情描写に光る椎木知仁の才

マイヘア、連作で味わうストーリー

 My Hair is Badが、2022年10月にリリースした「瞳にめざめて」以来となる新曲「悲劇のヒロイン」「自由とヒステリー」を2週連続で配信リリースする。

 「瞳にめざめて」はメンバー3人が30代になってから初めてリリースされた楽曲だった。ABEMAの恋愛番組『恋する♥週末ホームステイ 2022秋 ~Honey Soda Story~』の主題歌として書き下ろされ、〈君〉と出会った時のときめきをエンジンに、どこまでも突っ走るようなストレートな疾走感溢れる楽曲で、30代になってもなお、瑞々しい衝動で1曲を書き切ってしまうマイヘアの底知れなさに驚かされたものだ。

 そこから約1年4カ月。2週連続リリースのうち、まず2月14日に配信されたのが「悲劇のヒロイン」。マイヘアらしい爆音のバンドアンサンブルの中、歪んだギターがメロディアスなリフを奏で、椎木知仁(Vo/Gt)の歌にバトンを繋ぐ。

 性急で影のあるバンドサウンドに乗せて、〈私〉が少し前まで恋人同士だった〈君〉と同棲していた家に荷物を取りにいくというシチュエーションがみるみるうちに浮かび上がっていき、稀代のラブストーリーテラーである椎木の真骨頂がどんどん発揮され、手に取るように〈私〉の心情や〈君〉との関係性が伝わってくる。

My Hair is Bad – 悲劇のヒロイン

 サビでは、椎木が一息ついた後、〈笑顔でいようって決めてたのに/なぜか涙が出てきて/かっこわるいってわかってるよ/でもインターホンが鳴らせないよ〉という歌詞が哀愁漂うメロディに乗せて歌われる。インターホンを鳴らした瞬間に、“終わり”のゴールテープが切られてしまうような状況に〈私〉は追い込まれているのだ。

 〈私〉の“終わり”に近づく中での逡巡と葛藤と呼応するようにゆるやかに言葉を紡いでいた1番とは違い、2番で椎木は矢継ぎ早に言葉を吐き出すボーカリゼーションを聞かせる。数えきれないほど開いたことのあるドアを前にして、〈いや、弱くない弱くない、私は弱くない/怖くない、焦らないで〉と「私」は心の中でのたうち回る。

 やがて〈私〉は〈笑顔でいようって決めてたから/最後まで笑顔でいるね/君は私のものじゃないよ/でも私は君のものだよ〉という〈君〉に対して全面降伏するかのような結論に辿り着き、この場所に来たのは〈「好きだからだよ。」〉と口にするーー。

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