吾妻光良&渡辺康蔵、バッパーズ結成45年で実感する“誇り” 新アルバム『Sustainable Banquet』を語る

吾妻光良&渡辺康蔵、バッパーズの“誇り”

時代のトピックをユーモラスに風刺する歌詞

ーー『Sustainable Banquet』は久々のアルバムですけど、この5年半、構想を練りに練っていたわけですか。

吾妻:いや、別に。ただ生きていただけで。

渡辺:酒を飲んでただけ。

ーー吾妻さん、この期間にお勤めは退職されたとか。

渡辺:吾妻は会社を辞めてプロになったからさ。このプロはすごいよ。今、ものすごいライブやってるから。

吾妻:忙しくて、一輪車操業と言われてる。自転車じゃないからすぐ倒れちゃう(笑)。

ーー渡辺さんも、退職されてフリーになられましたよね。

渡辺:俺も同じですよ。ただフリーランスになってから、やることがそれなりに増えていて、ジャズのレコードのプロデュースは年に1〜2枚ぐらいはやってるし、去年小説も出したんで、書き物の依頼も多い。ミュージシャンの活動は、バッパーズを含めて月に2本ぐらいあるし。別にジャズのバンドをやったりとか、なんだかんだ色々やってるから。

吾妻:でも、嫌なものは一個もない。それが一番。

ーーバッパーズの歌詞って、日常のエッセイ的なものが多いですよね。テーマの取り方は、だんだん変わってきてますか。

吾妻:コロナはやっぱり大きかったんでしょうね。今回はそういう歌詞が多いんじゃないですか。訳詞ものの「Old Fashioned Love」とかね。元の歌詞は“昔ながらの愛し方をしたいね”だけど。

ーーそれで〈お前と直に会いたいんだ〉ですか。〈不要不急の用事が無くたって〉と。

吾妻:そんなに真面目に書いてないですけど、そういうことはなんとなく思ってましたね。あとは、何かの曲で〈変異株〉とかも使ってますかね。

ーー「俺の薬はデカい」ですね。〈お前は俺の変異株 まだまだ続くぜ〉。

渡辺:「誰もいないのか」もそうじゃない? あれは、コロナを経たからこその歌詞でしょ。

吾妻:いや、あれは「2024年問題」。少子化で人手が足りなくなるよという危機を、いちおう真正面から歌ったつもりですよね。「誰もいないのか」は。

渡辺:ロボットが飯を運ぶとか、スマホで注文するとかは、コロナの時から始まったんじゃなかったっけ。

吾妻:違う違う。あれは人手不足ですよ。〈コールセンターに電話しても誰も出ない〉っていう歌詞があるけど、少し前に大阪へ行った時、新幹線が台風で止まっちゃったの。で、後日払い戻しで「これ絶対また出ないんだよ」と思って電話したら、あっという間に出たんですよ。すごいクレームが来るから、急遽人手を増やしたと思うんですね。「昭和の問い合わせ窓口はこうだったなー」と思ったけど。

ーー時代性がありますね。

渡辺:スローブルースの曲って、大体いつもなんかあるじゃん、テーマが。前のアルバムの、「正しいけどつまらない」とか。あれはコンプライアンス問題だっけ?

吾妻:そう。あまりにコンプライアンス、コンプライアンスって言いすぎるから、そんなんじゃ面白くないよなと思って。どちらかというつぶやき、愚痴だね。

ーーぼやきというか。

吾妻:「誰もいないのか」のほうが、直接怒りっぽいかもしれないね。そんなに怒ってないけど。あまり怒らないんですよ、私は。怒るよりもぼやくほうに行っちゃう。

渡辺:「俺のカツ丼」は、バッドラック・ソング(運の悪い人の歌)だもんな。

ーー4曲目の「昼寝のラプソディ」もスローブルースですかね。

吾妻:これはブルースじゃなくてバラードですね。

渡辺:これはどうでもいい歌だね(笑)。退職者がただ昼寝してて、鳩の鳴き声しか聴こえないっていうのを4分以上やってる。メインにはならないよな。

吾妻:ほんとに寝ちゃうんですよ、家で。びっくりするね。昼飯食ったあと、勤めてた時も眠いなと思ったことあるけど、ほんとに寝ちゃうんだ俺、と思って衝撃を受けた。これが老人ってやつかと思ったよ。

ーー加齢の悲哀を歌うテーマは、近年のバッパーズの定番でもありますよね。アルバム2曲目「Jeepers Creepers」とかも。

吾妻:じじいテーマね。

渡辺:「Jeepers Creepers」は洋楽のカバーで、許諾がいるんだけどさ。“ジーパークリーパー”を“じいちゃんおじいちゃん”って歌ってるのをそのまま提出したら、許諾が通っちゃった。

吾妻:通るわけないと思ってた(笑)。英訳して向こうに見てもらうんですよ。これでOKってのは、要するに見てないってことだな(笑)。見てたらおかしいって思うよ。

ーーバッパーズの加齢悲哀シリーズは、だんだんと身に染みてきますね、年を取るごとに。あと、お金の話も。3曲目「俺のカネどこ行った?」とか。

吾妻:年金を自分が受け取るとは思ってなかったですからね。長年納めてこれっぽっちかい? みたいな気はありますよね。待った方が高いっていうから、待ってみたけど、「この金額じゃなかったけどな」みたいなね。

渡辺:年金の歌は初めてだよね。

ーー貯金しようっていうのはありましたけど。「飲むのはやめとこう」で。

渡辺:それはまだ若い頃だね。人生に前向きだった頃(笑)。

吾妻:あの曲はね、元が銀行のコマーシャルソングなんですよ。よくあんなもの作ったな、俺たち。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる