吾妻光良&渡辺康蔵、バッパーズ結成45年で実感する“誇り” 新アルバム『Sustainable Banquet』を語る
ブルースとジャズから生まれたゴキゲンなダンスミュージックを奏で続けて今年で結成45年。日本が世界に誇るジャンプ&ジャイヴ・バンド、吾妻光良 & The Swinging Boppersが5年半ぶりのニューアルバム『Sustainable Banquet』を完成させた。
総勢12名の大所帯が繰り出すグルーヴはさらに熟成され、日常の些細な出来事への愚痴とぼやきをユーモラスに歌う歌詞はますます冴えわたる。平均年齢67歳にして『Sustainable Banquet』=持続可能な宴会の真っ最中、吾妻光良(Vo/Gt)と渡辺康蔵(Vo/Alto Sax)に新作に込めた思いを聞いてみよう。(宮本英夫)
最近はこのビートの強さと大勢いる感じが誇らしい(吾妻)
ーー前作からの5年半の間に、コロナ禍という大きな出来事がありました。振り返ると、どんな時期でしたか。
吾妻光良(以下、吾妻):これまでずっと普通にやってきたことができなくなるんだと思って、ものすごくびっくりしましたね。ひとまずは元に戻ったかなという感じではいますけど、この前も誰かに「でもこの後どうなるかわかりませんからね」と言われてドキン! として、そういうことは常にはらんでるわけですよね、人類というものは。だからいちいち考えないで、できる時にできることをやるのが一番だなと。
ーーおっしゃる通りですね。
渡辺康蔵(以下、渡辺):バッパーズでは、無観客はやってないよね。
吾妻:やってない。「少観客」はやったけど。渋谷クアトロで150人とか、あれはよくやったな。でも、打ち上げは行ったんだよな。
渡辺:ライブ自体も早く始まって、早く終わる。20時過ぎるとお酒出せないっていうから、19時に終わって、1時間だけ飲めるかな? みたいな、そういう感じだったね。
ーー今や堂々と打ち上げの曲を作れるようになって、良かったです。ニューアルバム1曲目が「打ち上げで待ってるぜ」。
吾妻:いろんなことがあってこのタイトルになったんだけど、一つはコロナで、俺は放送関係の出身なんで、いわゆる大きな番組があるわけですよ。季節折々の大特番とか。それが後輩に聞いたら「今年は打ち上げ、ないんですよ」って言うから、ものすごくびっくりして、「みんな帰るの?」「終わったら帰ります」っていう、それが信じられなくて、すげぇ世の中になったなと。
渡辺:特番自体はやったの?
吾妻:やった。でも終わったら「お疲れさま」ってみんな帰る。俺的にはありえないわけ。絶対に打ち上げがあるものだと思ってるから。
ーーあの時期は、ロックバンドとかでも、打ち上げはほとんどやらなかったですね。
吾妻:そもそも最近の子たちはやらないんでしょ?
渡辺:飲まないんだよ。この前も、あるバンドが大阪ツアーに行って、Facebookで新幹線の写真をアップしてるから見たら、誰もビール飲んでない。「ビール飲まないでツアーはねえだろ」と言ってやったら、「すみません。反省します」とか言って。
吾妻:それはアルハラだよ(笑)。
渡辺:飲まないから、関係ないんだよね。だからこの歌もあんまりよくわかんないかもしれない。
吾妻:わかんないと寂しいね。
ーーバッパーズは今年で結成45周年。打ち上げ続けて45年ですか。
渡辺:なんせ結成1年目の、初日から飲んでるからね。
吾妻:初ライブの時からね。
ーー元々が大学のサークルの集まりで、そういうノリで始まってるんですよね。
吾妻:ここ(吾妻&渡辺)は直接は知らなかったんですよ。間にベースの牧(裕/Contrabass)がいて、アルトサックスが決まらないから誰かいないかって聞いたら、あてがあるから聞いてみると。サークルの場所が俺のいた(早稲田大学)理工学部のほうで、本部まで徒歩20分ぐらいかな。
渡辺:俺は本部のほうのジャズサークルにいた。
吾妻:牧は理工学部のジャズサークルで、「同じ学部の5年生がいるから、ヒマに違いない」と。俺も牧も5年生で、もう一人5年生がいれば、ヒマな奴が3人いるからバンドぐらいできるだろうと。で、聞いてみたら「やる」って言うんで。
渡辺:年は吾妻が上なんだけど、学年は一緒。落第した5年生。
吾妻:落第じゃないよ。自主留年。
渡辺:牧くんも俺も自主留年。牧くんと僕は同じ学部で、それで(吾妻を)紹介してくれた。でもこの人(吾妻)はロックとブルース、牧くんと俺はジャズだから。
ーーそこが面白いんですよね。メンバーのジャンル感がかなりバラバラで。
渡辺:実際、ジャンル感は全然違うんですよ。未だに溶け合ってない(笑)。
吾妻:でも俺は2年生の中頃から、スウィング(&ジャズ)の部室に行って「There Is No Greater Love」とかやってたよ。
渡辺:ほんとかよ。
吾妻:ほんとほんと。ガッタガタだったけど。
ーー当時はジャズもロックもブルースも、みんな仲良かったわけですか。
渡辺:いや、別に。牧くんと仲良かっただけ。元々この人(吾妻)がロックとブルースをやっていて、「ホーンを入れてやりたい」って言うんで、牧くんがコーディネーターみたいになってたんだろうな。
吾妻:いや、コーディネーターは冨田(芳正/Tp)だな。バッパーズをやる前に、先輩と一緒に2、3管でバンドやってて、それは俺が(譜面を)書いてるからひどいアレンジで(笑)。本格的なもんじゃなかったけど、牧のサークルの冨田っていうばりばりアレンジできる奴が、バッパーズの譜面の母体を作ったの。あれがなかったら、こんなに続いてないよね。
渡辺:確かに。水と油じゃないけど、バンドとしては非常にユニークなところがあってさ。この人たち、ものすごい音がデカいの。ベースもドラムも、ピアノもデカい。そんじょそこらのハードロックバンドよりデカいのよ。でもこっち(ホーン)は、カウント・ベイシーみたいな譜面が書いてあったりするから、どうしようか? っていうエンジニアが当時はいっぱいいたわけ。ロック中心にして、ホーンを後ろにやって、R&Bのコンボみたいなイメージで(音を)作る人もいるし、カウント・ベイシーみたいに作ろうとして、リズム・セクションをどんどん下げちゃう人もいる。それがね、今やっとわかってくれた人が3人ぐらいいる。 (高円寺)JIROKICHIのエンジニアは、最初からわかってた。あと、渋谷クアトロのエンジニアも。
吾妻:WAOさんと大山(正明)さんね。
渡辺:そのへんの方たちは素晴らしいんだけど、初対面の人はちょっとわかんなくなる時があるね。
吾妻:音量がデカいってこと、意外にわかっていただけない人がいるんだよね。いつだったか、稲門会(早稲田大学の卒業生が所属する同窓会)の催しみたいなのがあって、知り合いをつたって俺にメールが来て、「Swinging Boppersにぜひ出ていただきたい」って言うわけ。立食パーティーで、みなさんが喋りながらバッパーズさんに演奏してほしいって言うから、「うちのバンドを聴きながら会話できるとは思わないでください」って言ったんだけど、ぜひにということなので、トリオでやった時にJIROKICHIに見に来てもらったら、その後は二度と声がかからない(笑)。CDだけ聴いてるとわかんないんですよ。
ーーそれは重要なポイントですね。バッパーズを語る上で。
渡辺:コロナの時に、配信やるじゃない? 配信のデータって、バランスが取れたCDで聴くのと同じような音だから、こんな音だったかな? と思ってたんだけど、(コロナ禍が一段落して)客が入るようになってあらためて音を出したら、配信の100倍ぐらいデカくてさ。現実と仮想空間は全然違うもんだなって、やってるほうも再認識したよね。
吾妻:非常に説明っぽい言い方をすると、リズム・アンド・ブルースをベースとしたビッグバンドのスタイルで、1940年代にそういうものはいっぱいあったんだけど、もう滅びちゃって久しいわけですよ。最近は、このビートの強さと大勢いる感じが誇らしいなと思いますね。人間が固まって音を出していて、電気で大きくしてるのとは違うから、人が一生懸命音を出してるのに煽られちゃう。こういうのはもう他にあんまりないんだと思うと、本当に誇らしく感じます。
渡辺:いいこと言うね。たまには。