『【推しの子】』連載完結間近 「アイドル」「POP IN 2」ら楽曲群、SNSを席巻した背景を振り返る

 アニメ化による人気拡大やアニメ第1期OP主題歌「アイドル」のビッグヒットで、各界から大きな注目を浴びた『【推しの子】』。物語の行く末を見守る多くの読者の視線を集めながら、11月14日発売の連載誌『週刊ヤングジャンプ』50号(集英社)にて、原作マンガが完結することがすでに明らかになっている。

 連載当初から、大勢の予想を裏切る物語序盤の急展開や芸能/メディア業界のリアリティある描写が話題を集め、界隈では注目作と名高かった本作。2021~2022年には各マンガ賞で高評価を獲得し、2023年のアニメ化でその評判はさらに拡大。結果、現在の注目度を築くに至っている。

 作品自体の秀逸なストーリーはもちろん、アニメ化による人気拡大においては、やはり関連曲のヒットによる影響も見逃せない。そこで今回は原作完結を直前に控える中で、アニメ『【推しの子】』(TOKYO MXほか)を彩る楽曲群が巻き起こした現象や、各曲の魅力について改めて論じてみたい。

YOASOBI「アイドル」 Official Music Video

 今作の関連曲を語る上で、やはり最も欠かせないのはアニメ第1期OP主題歌であるYOASOBI「アイドル」だ。注目作のアニメ化タイアップというネームバリューのみならず、各種ストリーミングやSNSでの話題性を視野に入れた細かな仕掛けがバズを巻き起こし、結果本楽曲が日本の音楽シーンを象徴する金字塔として今や世界的な評価を得たことは周知の通りだろう。

 一方で音楽単体のヒットに留まらず、アニメ自体も曲とともに多くの視聴者に支持された要因のひとつには、YOASOBIが従来から作法とする“小説原作の楽曲制作”も大きく影響している。原作・原案を担当する赤坂アカによる書き下ろし小説『45510』を元とすることで、曲に物語の世界観をより色濃く反映し、かつ『【推しの子】』という作品に重層的な魅力を生み出した。それもまた、本楽曲が成し遂げた大きな功績とも言える。

【推しの子】ノンクレジットオープニング|YOASOBI「アイドル」

 アニメで初めて本作を知る人に向けてネタバレを防ぐべく、作中のコア人物・星野アイに焦点を当てて作ったと思われていた「アイドル」ならびに『45510』。だが、原作終盤でアイの死に絡む重要人物が発覚したことで、楽曲及び原作小説を“象徴する人物”が大きく塗り替わった点も、今その意義を再度語るべきポイントのひとつとなる。

 そしてそれは、第1期ED主題歌である女王蜂「メフィスト」に関してもすでに近しい現象が起こっていた。華やかで煌びやかな『【推しの子】』という作品の初見の印象を見事体現した「アイドル」と対をなすように、物語の本質である復讐劇の要素を色濃く落としたダークでシリアスな楽曲「メフィスト」。本楽曲の歌詞には、当時まだアニメ未登場のとある人物の心情を反映したようなフレーズが図らずしも盛り込まれていたというエピソードは、すでに各所で明言されているとおりだ。重ねて、当時放映されたED映像のワンシーンと原作終盤のとある一コマの構図の酷似も、連載を追う読者の間では大きな話題を呼んでいる。

【推しの子】ノンクレジットエンディング|女王蜂「メフィスト」

 今まさに、長い復讐劇の終幕へとひた走る物語。その顛末とともに第1期の両主題歌を聴くと、放送当時は気づかなかった作中要素を改めて拾うことができる。ここにきて上記2曲が重要な伏線回収の役割をも果たし始めているのだ。

 『【推しの子】』の2つの物語的側面を見事表現した両曲の存在も相まって、アニメは好評のうちに続編制作も決定。原作では“2.5次元舞台編”と称されたエピソード以降を描くアニメ第2期は、今年2024年夏に放送された。「アイドル・星野アイの仇を討つ息子・アクアの復讐劇」という筋書きが明らかとなった今クールからは、両主題歌ともに物語の内容に伴う重厚感が全面に押し出されている。

 第2期OP主題歌は中島健人×キタニタツヤのユニット・GEMNによる「ファタール」。現役アイドルである中島と、インターネットミュージックをルーツとするキタニの異色な組み合わせも注目を集めた本楽曲。曲の歌詞やユニット名・GEMNにも、物語の真の主人公とも言えるアクアの悲痛な心情や作中の状況を踏まえた多彩な要素が巧みに織り込まれた点も、曲の大きな支持へと繋がっている。

【推しの子】第2期ノンクレジットオープニング|GEMN「ファタール」

 「ファタール」が主人公のパーソナルな一面を切り取った曲ならば、ED主題歌の羊文学「burning」は今期のエピソードにおいて大勢の人物に広くフォーカスした“創作者/表現者の葛藤と苦悩”を描いた楽曲だと言える。芸能/メディア業界の裏側を関係各所に多大な敬意を払いつつ、リアリティを伴って描いた点も間違いなく『【推しの子】』の魅力のひとつだ。その点でも、本楽曲は作品の見どころを復讐劇のみに留まらないものへ拡大した1曲と位置付けてもいいかもしれない。

【推しの子】第2期ノンクレジットエンディング|羊文学「Burning」

 重ねて、アニメ視聴者であれば周知の通り、今クールで物語の主題はアイの息子・アクアから彼の妹・ルビーの復讐劇へと一度大きく転換する。今後のストーリーでもその復讐の意志を発端とし、アイドル活動に執念とも呼べる意欲を燃やし始めた結果、摩耗していくルビーの様子が物語の一部として描かれる。何かに苦しむような表情で、それでも再度立ち上がり駆け出す彼女の姿を「burning」とともに描いたED。その映像は制作決定したアニメ第3期への布石となっており、先の展開を知る者であれば、この演出に物語の連続性を感じた人もいたに違いない。

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