なとり「ポップスを極めたい」 蔦谷好位置やimaseとのコラボによる広がり、変わらない信念を語る

なとり、ポップスを目指す広がり

 なとりが新曲「糸電話」を9月20日に配信リリースした。映画『傲慢と善良』の主題歌として書き下ろされた同曲は、プロデュースに蔦谷好位置(agehasprings)を迎えた軽快なテイストの1曲。耳馴染みのいいメロディ、ストリングスの映えるサウンドと、なとりの楽曲の中でもポップスとしての大衆性を特に強く持つナンバーになっている。

 今年2月の初ライブを経て、今夏には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2024』や『SUMMER SONIC 2024』にも出演するなど活動のフィールドを広げてきたなとり。4月には敬愛するボカロP じんが編曲とギタープレイで参加した「絶対零度」を、8月には盟友 imaseとのコラボ曲「メロドラマ」をリリースするなど、他者との共作にも意欲的に取り組んでいる。新曲について、そして変化の時期を迎えた今のモードと変わらぬアーティストとしての信念について、話を聞かせてもらった。(柴那典)

新しいオーディエンスと対峙していく挑戦

――初の夏フェス出演はどうでしたか?

なとり:『ロッキン』に関しては、夏フェスも野外も初めてだったので、最初から緊張していて。「フライデー・ナイト」と「メロドラマ」をimaseくんと披露したんですが、ステージでコラボするのも初めてですし「糸電話」も初披露だったので、そわそわしながら歌ってました。想像以上にたくさんの方が集まってくれてとても緊張していたので、個人的には反省点も残るパフォーマンスだったのですが、サマソニに関しては屋内で、かつ個人的には『ロッキン』のリベンジをしたい気持ちがあって。魂を削ってやりました。

――初めてのお客さんを掴むことができた手応えもありました?

なとり:今までで一番熱量が高かったライブでした。全部やり切らないと悔いが残ってしまうと思って。リベンジの心で挑んだら、みんなそれに応えてくれた感じがしたので、すごくよかったなと思います。楽しかったです。

――ワンマンと違って、フェスのオーディエンスは必ずしも自分が目当てで集まったわけではない。そういう人たちを目の前にしての感触はどうでしたか?

なとり:まず、こんなに自分の音楽に興味を持ってくれる人がいるっていうことが嬉しくて。でもその反面、自分の思うようにノッてくれないお客さんも目に見える。そういうところに対峙することの怖さというか、挑戦という感じもありました。

――「糸電話」は映画『傲慢と善良』の主題歌のオファーがあって書き下ろした曲ということですが、話を受けての第一印象は?

なとり:僕は原作を知っていて、かつ好きだったので、純粋に嬉しい気持ちが大きかったです。

――『傲慢と善良』という作品のどういうところに魅力を感じていましたか?

なとり:そもそも、辻村深月先生の作品が好きなんです。『かがみの孤城』から入って『スロウハイツの神様』とか、いろいろ読んでました。うまく言葉で言えないんですけど、辻村先生の作品って感覚的にすごく寄り添えるというか、肌感が合う感じがあって。物語としての読みやすさもあってすごく好きです。

映画『傲慢と善良』予告編|9月27日(金)全国公開!(60秒)

――主題歌を書くにあたっては、どういうところが取っ掛かりになりましたか?

なとり:曲は映画にフォーカスして作っていったんですけど、映画を観終わった後に改めて思ったことがあって。人と人との関係性って、「あくまでも他人だから」っていうのがまず念頭にあると思うんです。でも、この映画を観てからは「あくまでも他人だけど、“私とあなた”や“あなたと私”」という明確な関係でありたいと思って。その距離感を諦めたくなくて、そういうところから作っていきました。

――単純にラブソングとも言い切れない、人と人とのコミュニケーションのあり方や関係の結び方を歌おうというところが着想になったと。

なとり:そうですね。それはありました。

「ポップスの僕なりの定義に一つ答えを出せた」

――メロディや曲調に関してはどうですか?

なとり:映画サイドからはポップなイメージの曲という希望をいただいていたので。ポップではあるけど、ちゃんと人の感情の機微や哀愁も帯びたもので、かつちゃんとなとりとして届けてきたメロディやリズムの感覚、グルーヴも兼ね備えた曲を作りたいなと。自分としては、昨年リリースしたアルバム『劇場』を作り終えてからずっと、上質なポップスを作りたいと思っていて、今までに出た日本のポップスをたくさん聴いて、「こういう雰囲気の曲を作りたい」みたいなことを意識して作りました。

――上質なポップスを作りたいと思った理由やきっかけはありました?

なとり:最初にアルバムを作る前は、いろんなジャンルの曲を作ってたんで、自分ってどこに属するんだろうと思っていたんです。でもやっぱり自分はポップスを作るのも聴くのも好きなので、だったら「上質なポップスを作りたい」「ポップスを極めていきたい」って思ったのがきっかけですね。

なとり - 糸電話

――それこそポップスって、国や時代によっていろんなバリエーションがあるものですよね。その中で、どんなものがインプットとしてありましたか?

なとり:最近は曲を作っていく上で関わる人がたくさん増えているので、そういう人にどういう曲を聴いてるのかをよく聞くんですけど、そうしたらaikoさんが結構多くて。いろんなプレイリストを送ってもらったりするんですけれど、だいたいaikoさんが入っているんですよ。そこから聴くようになって、気づいたらaikoさんの曲がめちゃくちゃ好きになっていて。aikoさんはポップスでありつつ、ギミックも多いし、ちゃんとみんなの心に突き刺さるものを作ってるところがすごいなと思って。そういうところでは影響を受けてるかもしれないと思います。

――他にも刺激になったアーティストはいましたか?

なとり:スピッツもよく聴くようになって。やっぱりサビがいいものが一番いい、ということを思ったりしました。あとはもともと米津玄師さんがすごく好きで、曲もずっと聴いてきたんですけど、改めてちゃんと“ポップス”に視点を置いて聴いてみると、すごく馴染み深いものがある感覚があって、自分も作り手として、そういうことも一つ意識して作るべきなのかなっていう風に思いました。

――今回の「糸電話」は編曲に蔦谷好位置さん、永澤和真さん(agehasprings)が参加していますが、蔦谷さんと一緒に制作するというのはどういう感覚でしたか?

なとり:それこそ蔦谷さんって、僕が聴いてきたポップスにたくさん関わっているんですよね。米津玄師さんの曲もそうだし、Superflyさんの「愛をこめて花束を」もめちゃくちゃ好きで。そのポップスの成分を僕の曲に入れてほしいと思ってお願いをしたんです。僕のデモって聴きづらいことも多くて、ポップスとは言い難いものですけど、それを聴きやすい、馴染みやすいサウンドにして返してくれた。やっぱり蔦谷さんにしかないポップス理論があるんだろうなと思ったし、それも刺激になりました。

――蔦谷さんとはデータのやり取りみたいな感じで作っていったんでしょうか?

なとり:データのやり取りが多かったですね。最初お会いした時はご飯食べながら喋ってたんですけど、ちゃんと曲の制作に取り掛かってからはデータのやり取りが多かったです。

――蔦谷さんと話した時に印象残っていることはありますか?

なとり:自分が東京ドームに立った時は、ご飯を奢らせてほしいと言っていただきました(笑)。

――「糸電話」はそういう制作を経たこともあって、自分としてもポップスとしての大衆性がある曲を作れたという感触があると。

なとり:めちゃくちゃあります。ポップスの僕なりの定義って「どんな人が聴いてもいい」というもので。それに対して一つ答えを出せたのかなっていう感覚はありますね。

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