Tempalay、結成10年の軌跡を日本武道館に刻む 圧巻のパフォーマンスと映像演出で提示したバンドの真髄
長めのインターバルの最中は強力な1本のレーザーが“宇宙船・武道館号”に乗り合わせた時間の推移を演出しているようで、シンプルだがいい効果を上げていた。そして強い曲と強い画を持つセクションに移っていく。オリエンタルなネオソウルというべき「脱衣麻雀」のブレイクでは破壊力満点な映像がブチ込まれ、続く「シンゴ」ではメンバーの顔が漫画にトランスフォームする演出も。パーカッションの専任メンバーがいることで、よりアフロビート的な体感が強まった「EDEN」は後半にいくに従ってセッション色を強め、「GHOST WORLD」も生身の演奏が際立った。受け取る情報量が膨大かつ独自で、瞬時に消化しきれないほどだ。
休憩から「ただいまー」と言いながら戻ってきたAAAMYYYに一際大きな拍手が起こる。ヘアスタイルや衣装をいじりながらサポートメンバーを紹介した後、10周年で武道館というベタなことをやっている、という小原の照れ隠しにもこの日は温かな拍手が送られた。
AAAMYYYが戻ってからのセクションは、最新作『((ika))』から聴かせるナンバー「預言者」。AAAMYYYの揺蕩うボーカルや小原が弾くストラトが落ち着いたムードを演出するが、〈BGMじゃないわ〉という歌詞とサウンドの対比が彼ららしい。続く「深海より」のサイケデリックなムードもただの雰囲気ものに終わらない。スローなBPMでじわじわ攻める演奏の胆力が、死生観すら匂わせるのだ。初期ナンバー「革命前夜」での藤本のビート感のビルドアップ、音数を絞り切っているからこそ屈強なリズムが際立つ「SONIC WAVE」、榎元の太いベースラインで生まれ変わった「新世代」が、さらにフロアを熱くしていく。「新世代」の予測可能な新しさをシニカルに伝える歌詞は、Tempalayの変わらない創作姿勢だと改めて思うのだった。
小原は「ここに立ってみて何を思うかというと、“やめなくて良かった”くらい。愛憎という言葉が一番しっくり来る10年だったと思います。ここまできたらやめるまでやろうかと。今日までの期間楽しくて、やめなくて良かったと思います」と、筆者が記憶している限り、最も素直な感想を聞いた気がする。
そこからは最新作のモードを全開にした3曲が続く。クワイヤのSE、豊かに上昇するメロディ、そして渾身のギターソロで驚くほどストレートな感謝が溢れた「愛憎しい」に始まり、「NEHAN」でも弾きまくる小原はどことなくプリンスにも少し似たカリスマを漂わせる。それは音楽的な引き出しの多さにも裏打ちされているのだが、パフォーマーとしても解放されているのだと思う。
「ドライブ・マイ・イデア」では全員のヒューマンパワーが横溢し、ラストは過去のライブでも締めくくりにセットされることの多い「そなちね」が鮮やかな音像で立ち上がった。もはやTempalayらしさのシグネーチャー的なギターサウンドも、小原とAAAMYYYの声の重なりもとことん美しい。このキャパで彼らのサイケデリアが細胞に染み渡る。ビジョンに映し出された小原は、見たことがないぐらい爽やかな表情をしていた。
自発的にスマホのバックライトを点けて揺らす人、拍手を続ける人、「アンコール」と声に出す人などアンコールのやり方も人それぞれだ。しばしののち、ステージに全員が戻り、MCなしでいきなり始まった「続・New York City」。照明がステージ左右を照らすとなんと総勢10名からなるゴスペルクワイヤが登場し、驚きの歓声と感激がマックスに達する。しかも小西遼もサックスで参加して、爆発的な生命力に自然と笑ってしまった。Tempalayのカオティックな世界のその先を予感したというと安直だが、音源でしか聴けなかったアレンジを生で体験したことで少しだけ新しい兆しを感じたのは確かだ。
そして、冒頭からカタルシス全開の「Last Dance」が2時間40分の音楽の旅を締め括った。PERIMETRONチームによる愛情いっぱいのエンドロールとともに。10周年を祝う気持ちより、武道館で今何を見せてくれるのか? にフォーカスしていた筆者の気持ちは、ごく自然にTempalayが今存在してくれている事実への感謝に変わっていた。
※1 https://rollingstonejapan.com/articles/detail/41012