夜の本気ダンス、16年目へ突入 米田貴紀と西田一紀が語る「ENISHI」と自分たちのルーツへの回帰
「ENISHI」は“禅問答”とロックの融合?
――それこそ、夜ダンってどちらかというと生真面目に作ってきた印象があるんですけど、変化が起きているんですかね?
米田:そうですね。レコーディングでもかなりガチガチに縦のラインを合わせてきたタイプなんですけど、逆に合わせなくてもかっこいい、みたいなところに憧れている自分もいて。ただ、それを許すと本当にバラバラな感じになってしまうなっていう不安もあったんですよ。でも、今これだけやってきて16年目に差し掛かった時に、そういう緩さというか、誰かが遅れてるとか、速いとかモタってるとか、そういう感じでも全然やれるんじゃないかって思えてきたのかもしれない。もともと両方やりたかったんですよね。
――結果、すごく自然なうねりがあるというか、体感的にすごく気持ちいいロックンロールになりましたよね。歌詞はどんな思いで書いたんですか?
米田:最初は“子と親”みたいなイメージ。親から見た子どもとか、そういったものを題材に作っていこうというところから始まり、そこからかなりいろんなものを取り込んでいって今の形になりました。Q&Aの形になっているところがあったりするんですけど、そういうのも、最初は子どもが親に対して「これってどういうこと?」っていろんな問いかけをして、それに親が答えてあげるみたいなものをイメージしながら書いていたんです。
――なるほど。
米田:でも、そこからかなり飛躍して、最終的には「親と子じゃなくても、人と人であれば時代を超えて通じるものがあるんじゃないか」っていう感じになってきて。だから〈モンゴロイド〉とかのワードも出てくるんです。先人たちが「これってどういうことなんだろう」とか思いながら、そのまま消えていった思いに、僕たちがアンサーしていることもある。逆に、たとえば「こういったサウンドのバンドってなんで出てこうへんのやろ」とか思ってたけど、80年代の音楽を掘ってたらそういうバンドがいたりとか、過去にアンサーが出ていたりすることもあるだろうし。最終的に、そういうメッセージ性を込めた歌詞になっていきました。かなり範囲が広い歌詞になったんですけど、それが繋がり、縁なんじゃないかなって。
――時代を超えたアンサーみたいなところで、ロックの歴史とか、そこから受け取っているものとか、逆に遺していくものとか、バンドとしてのメッセージにもなりましたよね。
米田:そうですね。言ってしまえば、曲も自分の子どもみたいなものだと思うし、そういった部分がかなり出た曲かなと思います。それこそ、30代中盤後半に差し掛かる今の自分だからこそ考え始めたテーマだと思うんです。20代だったら、子どもがどうとかっていうテーマでは絶対に書いてないなって。周りの友達にも子どもができたり家族になっていったりとか、そういうのを見てきた中で自然とそういうテーマが出てきたのかなと思います。
――西田さんはこの歌詞からどんなことを考えましたか?
西田:早い段階で歌詞をもらっていたので考察していたんですけど、僕の考察はあながち間違ってなかったなって、今の話を聞いて思いました(笑)。
米田:(笑)。
――答え合わせできた?
西田:はい。今、“親と子の問答”みたいなところがあるって言ってたじゃないですか。僕は、これはすごい“禅問答”みたいな歌詞だなと思ってたんです。歌詞って、三次元的なものが多いと思うんですよ。
――三次元?
西田:ひとつのものを、右、左、いろんな方向から見るというか。ひとつの物事を多面的に見る歌詞はよくあるかなと思うんです。でも、この歌詞を読んでいくと、それプラス時間軸みたいなのもあって、四次元的な歌詞になっているなと思って。内容的にも、明確に「これを歌ってる」とは言えないけど、でも言いたいことはわかるよ、みたいな(笑)。禅問答だな、と思ったのがその部分なんです。弟子が師匠に問いかけて、師匠がよくわからない言い方でバッて答えるみたいな、禅でいう“公案”っていうものがあって、僕はそれめいたものを感じたんですけど、これは“禅問答”ということで大丈夫ですか?
米田:タイトルが「ENISHI」で禅問答って、だいぶジャパンな感じですね(笑)。ま、でもそういう見方もありだと思う。
――確かに禅問答的というか、明確な答えに向かって突き進んでいく歌詞ではないですよね。でもその答えがあやふやな状態とか、手を伸ばしてるんだけど掴めてるんだか掴めてないんだかわからない、そういう状態を気持ち悪がってないというか、それすらも楽しんじゃってる感じがある。
米田:そうですね。20代はめちゃめちゃ考える時期だったんですけど、30代に入ってちょっとしたプチ悟りみたいな。この先でもっと悟っていくんだろうなと思うんですけど、第一次悟りの部分が自分の中で芽生え始めた感覚はありますね。
西田:一言二言で明確に答えられてしまうことって歌詞にすることじゃないなって思うから。やっぱり歳を取ってくると言語化できない気持ちがたくさんあるなと思うんです。この曲は、愛というか明言できない感情がすごくこもってて、いい説法やなと思って聴いてます。
――完全に説法として受け取ってるじゃないですか(笑)。
西田:歌詞じゃなくて説法です(笑)。
――ありがたいですね(笑)。でもその中で、たとえば〈ダンスウィズユーだけ オレは言う〉とか、〈また会える日までどっかで待ってるよ〉とか、「俺のスタンスはこうだよ」みたいなことはズバッと言ってるんですよ。そこの切れ味がすごいなと。
米田:確かに、そこだけ急にキメるっていうか。その手前とかはかなりぼやけたことを言ってるけど、そこはしっかり伝えたかったんです。「俺はこうしていくんだ」みたいなものをそこで宣言してるような曲でもあるから。コロナも経て、いろんな見せ方、いろんなお客さんの楽しみ方が出てきた中で「僕たちは夜の本気ダンスとしてどうやってパフォーマンスしていったらいいんやろう?」みたいな思いを考えてた時期がかなりあったんですけど、それに対しての一種のアンサーは封じ込めたなっていうのはありますね。そこはみんなに届いてほしい。
――それは確信を持って言っているのか、自分に言い聞かせている感じなのか、どんな気分なんでしょうか?
米田:自分に言ってる部分もあるかもしれない。俺は結局これしかできないから、これを貫いていこうぜって口に出すことで、改めて「そうやっていくしかないな」って。ずっと言ってきたけど、そういったことを真ん中に置いてやっていくべきなんじゃないかっていうことを、ゆったりとした8ビートの曲で歌っているというのもちょっとまたアレなんですけど(笑)。
――そう。これがバキバキのダンスロックみたいな曲だったら全然意味が違うんだけど、こういう曲で伝えるのはすごくいいなと思いましたね。
米田:こういう曲調で言うことのおもしろさも相まっていいなっていう。
――だから、やっぱりこの曲を聴いてすごく思ったのは、15周年を経てできることは増えたし、引き出しも多くなったけど、いろいろやってきたからこそ「じゃあ結局、俺たちがやることって何なんだっけ」という芯の部分を、改めて突き詰めていけたからこそ掴めたものなんだろうなと。
米田:そうですね。アルバム作ると、毎回もう一回自分たちを見つめ直すみたいな感覚になってるなって思いますけどね。やっぱりバンド名が「夜の本気ダンス」っていう、「そうさせてくれるんでしょ?」みたいなバンド名がゆえに、そこを考える時間が他のバンドよりは多いのかもしれないですね。
――「そういうのはおいといて、俺らはこれをやるんだよ」みたいな潔さも感じます。エイトビートでも踊るんだよ、っていう。たとえば、オアシスが再結成するじゃないですか。きっと解散していた何年間とかまったくなかったような感じでやると思うんですよ。当たり前のように。その強さってあると思うんです。
米田:確かに、その間にいろんな音楽が流行ったりしたけど、きっとそれをガン無視してやりますよね。で、みんなもそれをやっぱり求めていたりする。
――そう。夜の本気ダンスも、そっちの方向に足を踏み出した感じがします。そういう意味でも、15周年を経て新たなスタートを切るタイミングでこういう曲が出てきたのは大きな意味があると思います。ここからの夜ダンはどうなっていくんでしょうか?
米田:そうですね。「ENISHI」をリリースしましたが、もっとわかりやすいダンサブルな曲も控えているというか、それを作っている前提で今回の「ENISHI」がある、というイメージなんですよ。リスナーの皆さんからしたら「この先どうなんねん」っていう期待と不安があると思うんですけど、そこは安心していただいて。わかりやすく踊る曲もずっとやっていきたいですし、ライブのキャパとかも含めて、より多くの人とそれを分かち合いたいな、というマインドにはなってますので。さっきは「悟ってきた」みたいなこと言ってましたけど、もちろんそういう欲はまだありますよ。
■リリース情報
夜の本気ダンス
「ENISHI」
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