米津玄師、Official髭男dism、Vaundy、back number……“ドラマ風MV”で描かれる楽曲とリンクした恋愛模様
楽曲の魅力を引き出し、強く印象づけるMV。なかでもドラマ仕立てのMVはその楽曲に込められた想いが物語として表現されており、重厚な作品が多い。本稿ではドラマ風MVに着目し、そこで描かれるさまざまな恋愛模様と楽曲の呼応について読み解いてみたい。
米津玄師の4年ぶりとなるアルバム『LOST CORNER』の収録曲「がらくた」。劇的なメロディが光るロックバラードであり、映画『ラストマイル』の主題歌としても話題だ。MVは渡邊哲が監督を務め、石橋静河と寛一郎が出演。米津の歌唱シーンとともに2人によるドラマが展開される。
劇中、2人の親密そうな場面と冷め切った場面がかわるがわる映し出され、拒絶と渇望を互いに何度も繰り返す関係性が見えてくる。〈嫌いだ全部 嫌いだ〉と歌った後で〈僕のそばで生きていてよ〉と語りかける、「がらくた」にも刻まれたアンビバレントな感情が表現されている。
傍から見ても、自分たちからしてもとっくに壊れた関係かもしれないが、何度でも引き戻して愛してしまう。その人間らしい揺らぎを「がらくた」から抽出したのがこのMVと言えるだろう。米津の歌唱シーンに重なる2人のシルエットは、喧嘩しているようにも戯れあっているようにも見える。愛憎を反復しながら生きる姿に、楽曲の切実さを重ねた作品だ。
Official髭男dismの3rdアルバム『Rejoice』に収録された「Sharon」は通常のMVのほかに「Sharon [The Short Film]」という短編作品が制作された。ブラジル人姉妹ディレクターユニット Fridman Sistersが監督を務めた約6分30秒の作品である。
冒頭、主人公が家に帰り、妻らしき女性に近寄るが一切反応がない。2人は冷え切った関係のように見える。妻を探しに部屋の扉を開けるとそこには別の家族の姿。それ以降も次々とさまざまな家庭の一室を主人公が訪れるシーンが続き、ラストは海辺で主人公と妻がコンテンポラリーダンスを交わし合う非常に独特な質感の作品だ。
監督によれば“home”がテーマ(※1)とのことだが、「Sharon」は物憂げなメロディに乗せて親密な者同士がもどかしくすれ違う様を描く楽曲でもある。MVではいろいろな形の“home”が映し出されるたびに主人公の現実が浮き彫りになり、寂しさが漂う。また見方によっては主人公がすでにこの世にはいない人物であり、幻想のなかで妻ともう一度出会おうとする物語のようにも思える。終盤のダンスシーンは届かない想いの発露なのだ。
「がらくた」も「Sharon」も曲中の相反する想いを、監督の目線で捉えたMVに仕上がっているように思う。複雑に折り重なった感情を表現する上でドラマMVは最適なのだ。