三月のパンタシア みあが織りなす物語 ワンマンライブで見届けた、愛と感謝にあふれた景色を綴る

三パシ、ワンマンライブで届けた“愛”

「私はここまでめいっぱいの愛を歌ってきたけど、それが本当に嬉しくて、楽しい。こんな気持ちになれるのって、私と同じくらい、もしくはそれ以上の愛をみんなが返してくれるからなんだなって。今本当に心の底から実感してます」

 心待ちにしている客席の拍手に迎えられ、堀江晶太(Gt)、Saku(Gt)、Kei Nakamura(Ba)、裕木レオン(Dr)、金井央希(Key)がオンステージ。大きなピンクのハートがステージ背後のスクリーンいっぱいに映し出されるなか、「愛の不可思議」のMVに描かれた、みあが現実の姿となって、颯爽と歩いてくる。照明の落ちたステージにそっと光が差し込む。そこで、ピアノの音に囲まれながら、みあが朗読を始めた。これは、8月24日、Zepp Shinjukuで開催された『三月のパンタシア SUMMER LIVE 2024 -愛の不可思議-』の光景。

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

 「愛する気持ちって言うと、どんな思いを想像するかな? パッと思い浮かぶのは、なんだか、明るくて、尊くて、光に満ちたような、そんな感情じゃない? 例えば心をキュンとときめかせる、多幸感あふれる相思相愛」ーーその瞬間、鳴り響いた「たべてあげる」のドラムのキック音で、心の中の開幕の花火が打ち上がったのを感じた。揺蕩いながら歌い、時に微笑みを浮かべ、日常のささやかな幸せを描き出していく、ボーカル・みあ。8月21日にリリースされた音楽ユニット・三月のパンタシアの5thアルバム『愛の不可思議』を携えたライブは、朗読を交えて進行していった。

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

 みあが陽気に跳ねてフロアとひとつになった「幸福なわがまま」。楽曲に内包された感情を見事に体現する優れた才能が、ステージ上で鮮やかに花開いていく。この間、ステージはひたすらハッピーな感情で満たされていた。特別な装飾がなくても、曲に応じた感情を生み出すみあの声があれば、ステージには自然と色とりどりの花を添えることだってできる。ピアノのグリッサンドが虹色に輝いた「あのね。」も、表情豊かに空高く飛ばす声が甘酸っぱい。たおやかな風貌と純粋な心を映す歌詞、そのみあの奏でる空気感には、対極的な表現力を併せ持つ神秘的な魅力が宿っている。それを肌身で感じたのは、息遣いが感じられるミディアムバラード「僕らの幸福論」。さっきまで光を集めていた歌声から、急速に陰り始める。そのドラスティックな変化に、一瞬で心が引き寄せられた。

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

「それにしても、相思相愛って本当に奇跡だよね。そう思わない? だってさ、きっと世の中のほとんどは、自分の気持ちを上手く表現できなくてジタバタしたり、あるいは胸の中にポッと小さく灯る初めての感情に困惑して、ひとりもがいたり。そうやって愛の予感にそわそわして、単純明快な二文字の気持ちを持て余しちゃう。そんな甘酸っぱい片思いの季節も、切ないけど素敵だよね」

 片思いで心が疼き出す状態から少しずつ視界が開けてくる「サイレン」では、〈携帯に映る君の言葉のひとつひとつを確かめる〉の歌詞の通り、一言一言を丁寧に紡いで、一歩一歩慎重に橋を渡る恋を連想させた。フロアが涙色へと染まった後は、軽い足どりで声を求めた「いつか天使になって あるいは青い鳥になって アダムとイブになって ありえないなら」「四角運命」「青春なんていらないわ」を続ける。

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

「恋愛だけが愛じゃない。たとえば恋い慕う気持ちとは違う、友人とか恩人とか家族に対する感情の中にも、愛はたしかに存在するよね。ひとりだと不安になって目指せなかった場所にも、君となら行ける気がしてしまう。諦めたくなる時、いつも背中を押してくれるのは、光をくれるのは、君がくれた愛なんだよ」

 バンドサウンドに強烈な光が放たれる「薄明」「春嵐」、そして「タオルの準備はできてますか?」と弾ける笑顔で優しく声を掛けた「醒めないで、青春」「ゴールデンレイ」と繋ぎ、こう告げた。

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

「愛は時に人の心に仄暗い影を落とす。叶わぬ思いに苦悩し続け、いつしか相手を支配しようとしてしまったり。呪いをかけられちゃったみたいにたったひとりの人しか愛せなくなっちゃったり、その人がどんなにドクズだったとしてもね。愛って難解で、すごく不可思議だね。美しくて気高いだけじゃない。人の人格すらも揺るがしてしまう。暗い興奮を孕んだ愛について歌ってみようと思います」

 コップからあふれる水さながらの執着心の強い愛を歌った「スノーノワール」「あいらぶゆー」「完璧彼女」「ビタースイート」。滲み出す毒が止まらない。こういった楽曲を歌う時の、みあの歌声に秘められた破壊力は、目を見張るものがある。

三月のパンタシア(撮影=大庭 元)

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