三月のパンタシアの初単独公演に感じた、心地よい喪失感

三パシ、初単独公演レポート

 三月のパンタシアが11月25日、初の単独公演となる『三月のパンタシア ワンマンライブ~きみとわたしの物語~』(shibuya duo MUSIC EXCHANGE)を開催した。2018年6月23日にTSUTAYA O-EASTでのワンマンも発表されたなかで、“三パシ”がストイックなまでに表現を追求した一夜を振り返りたい。

 1stアルバム『あのときの歌が聴こえる』のオープニングトラック「いつかのきみへ」のメロディが流れるなか、ライブはボーカル・みあの朗読からスタート。観客が“きみとわたしの物語”の世界に誘われるなか、切ない恋心を歌う「day break」が披露される。ステージに設置された3つのスクリーンで流れるリリックビデオと、音源以上にクリアに響くみあの歌声が、相乗的に観客の胸を締めつけた。

 みあは「三月のパンタシアです。最後まで楽しんでいってね」と観客に声をかける。ライブ全体を通じてMCは最小限に抑えられ、あくまで音楽が主役であり、表現に集中するという真摯な姿勢が伝わってきた。続いて、アニメ『亜人ちゃんは語りたい』のエンディングテーマとしてヒットを記録した「フェアリーテイル」、情緒的な歌詞が魅力の人気曲「青に水底」、抜けのいいギターサウンドが切なさと痛みを強調する「イタイ」と、1stアルバムでも序盤から中盤を彩った楽曲たちを披露し、一気に会場を温めていく。

 再びの朗読と、それに合わせた衣装チェンジをはさみ、アニメ『Re:CREATORS』のエンディングテーマに起用された「ルビコン」、『リスアニ!TV』のオープニングテーマになった「花に夕景」など、タイアップ曲を惜しげもなく披露。アルバム未収録ながら、物語性の高い楽曲としてファンの心に残っている、シングル『フェアリーテイル』のカップリング曲「ないた赤鬼、わらう青空」をアコースティックアレンジで披露し、再び朗読が流れる。バンドメンバーは、ステージに設置された透過スクリーンの裏側で――みあと同様、やはり表現に深く集中しており、作り込まれた演劇の舞台を観ているような感覚もあった。

 その後は、ケータイ小説サイト「野いちご」のノベライズコンテストに課題曲として提供された「ブラックボードイレイザー」と、そのアンサーソングとして制作された「シークレットハート」が続けて演奏され、本編のラストをメジャーデビューシングルの「はじまりの速度」で飾るなど、構成もファンを喜ばせるものだった。みあがステージを後にして、すぐに起こったアンコールは、初のワンマンということもあり「三パシ」コールと「アンコール」の掛け声が混ざり合うものだったが、その不統一がかえって、物語の続きを求める観客それぞれの熱い思いを伝えていた。

 ここまでも十分に満足行くステージだったが、アンコールが出色だった。ヒット曲「群青世界」をアコースティックバージョンで届けると、2018年1月より放送される話題のTVアニメ『スロウスタート』のエンディングテーマに起用される新曲「風の声を聴きながら」を初披露。冬の渋谷に春風を運ぶような爽やかな楽曲で、三月のパンタシアらしい、新たな物語の始まりを想像させた。

 みあは観客一人ひとりに目を運び、「こんなに素敵な夜が過ごせるのも、ずっと聴き続けてくれて、こうしていろんなところから会いに来てくれたみんながいるからです」と、感謝を伝えた。最終曲は、『あのときの歌が聴こえる』を締めくくった「あのときの歌」。<終わりと始まり その隙間にあるものを ただ、僕らは宝箱の中にしまう>というフレーズが、この日のセットリストをひとつの物語に昇華しているように思えた。

 三月のパンタシアが、卓越した表現力を発揮した初のワンマン。冒頭に記したように、みあも、バンドメンバーも、ストイックなまでに一曲に集中し、観客を物語のなかに巻き込んでいった。言葉の一つひとつが、これほど心に届くライブは決して多くないだろう。一遍の小説を読み終えたとき、あるいは映画館を出るときのような、心地よい喪失感を味わう夜だった。

(取材・文=橋川良寛/撮影=MON)

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