青葉市子の音楽はなぜ海外リスナーの共感を集めるのか 言語の壁を越えて広がった楽曲群の制作背景

青葉市子、海外人気曲の制作背景

 独自の音楽スタイルで国内外のリスナーを魅了している音楽家、青葉市子。彼女のSpotify登録者数は150万人に達する勢いで、その9割以上が海外リスナーという圧倒的な人気を誇っている。特にUSのリスナーが多く、35歳以下のリスナーが約9割で、10-20代がメインのリスナー層。本インタビューでは、その中でも特に再生回数の多い青葉の代表曲「Asleep Among Endives」や「Dawn in the Adan」などの制作エピソードはもちろん、自主レーベル「hermine」の設立背景、そして現時点での最新アルバム『Windswept Adan(アダンの風)』以来となる通算8枚目のニューアルバムについて、その進捗状況など詳しく語ってもらった。彼女の音楽がどのようにして言語の壁を越えて広がり、グローバルなファンベースを築いていったのか、その背景とターニングポイントに迫る。(黒田隆憲)

ノイズのような生活音も聞く耳を変えれば音楽になる

青葉市子インタビュー写真(撮影=林将平)

ーーSpotifyでの再生数を調べてみると、青葉さんの場合は30代以下の海外リスナーがとても多く、中でも10代、20代がメインです。

青葉:不思議ですよね。2021年にヨーロッパツアーを行い、その翌年には初のUSツアーがあったんですけど、その時は「初めまして」ということもあって、終演後にお客さんと触れ合うためフロアに出て行ったんです。サイン会を開いたり、みんなとお話ししたりする時間を作って、その時に「なんで私のこと知ってくれたの?」と集まってくれたミュージックキッズたちに聞いたら、「クラスで友達が作ったプレイリストで知った」とか「学校で、お昼の放送の時に流れていて好きになった」とか、そういう人が多かったんですよね。ライブを「ALL AGES(全年齢向け / ファミリー向け)」にしたのもあって、クラスメイトと誘い合って観にきてくれたり、親同伴で来てくれたり、ついでにおじいちゃんやおばあちゃんも一緒だったり、家族でどっさり来てくれたのは本当に嬉しかったし刺激的でしたね。

ーー再生数1位を記録している2021年リリースの「Asleep Among Endives(アンディーヴと眠って)」は、宮沢賢治の童話作品『銀河鉄道の夜』にインスパイアされて作った曲だそうですね。

青葉:コロナが本格的に流行り始める直前、2020年2月くらいに映画館に行って『銀河鉄道の夜』のアニメーションを観て帰ってきて。ちょうどその頃、新しく部屋を借りたばかりだったのですが、何もないがらんとした空間の鳴りが好きで、そこで遊んでいた中で生まれた曲です。

ーー2位の「Dawn in the Adan」、3位の「Parfum d’étoiles」は、いずれも2020年にリリースされた、通算7枚目のアルバム『Windswept Adan(アダンの風)』収録曲です。 “架空の映画のためのサウンドトラック”をコンセプトに掲げ、作編曲家の梅林太郎さん、エンジニアの葛西敏彦さん、写真家の小林光大さんと制作されたと聞いています。

青葉:まず、「Parfum d’étoiles」の録音の仕方にとてもこだわっていました。三つの時間軸が重なっていて、一つは梅林さんが自宅で弾いたピアノ。もう一つは奄美大島で私がフィールドレコーディングした教会の音。ルリカケスなど現地の鳥の声も入っています。そしてもう一つはエンジニアの葛西さんが、当時勤めていたスタジオの非常階段の響きをリバーブとして使おうという話になり、コンソールからのケーブルを階段まで引っ張ってマイクを立てて録音しました。その三つの時間軸が重なっている楽曲です。

 「Dawn in the Adan」は、アルバム制作の佳境で悪夢を書き起こして歌詞にしました。アルバムを「時間」で分けて制作していたのですが、後半のカタルシスに差し掛かる制作をしている時に見た夢の内容を、ダーッと書いて送ったらちょうど梅林さんが書いていた楽曲とぴったり合って。「これしかないね」ということで「Dawn in the Adan」が完成しました。

 「Parfum d’étoiles」は、アルバムの中で一呼吸置くようなポジションの楽曲です。歌っていますが、歌詞があるわけではないので、聴く方も言葉の意味にとらわれずにいろんなシチュエーションでスッと聴ける曲だと思います。だから、国内外問わず生活のワンシーンと一緒に切り取って聴いてくださっている方もいるようです。

青葉市子インタビュー写真(撮影=林将平)

ーーフィールドレコーディングや音響的な実験は、活動初期の頃からやっていらっしゃいますね。

青葉:そうですね。スタジオで「せーの!」と言って録ることだけがレコーディングではないと思っていますし、音楽がいかに生活の延長線にあるかということを、フィールドレコーディングは気づかせてくれました。今、こうして私たちが話している時に頭の上で鳴っているエアコンの音など、ノイズのような生活音も聞く耳を変えれば音楽になります。そういうところにフィールドレコーディングや音響的なアプローチの面白さがありますので、これからも挑戦したいことですね。

ーー再生数4位は「bouquet」(2020年)。この曲は2020年のデビュー10周年の時にリリースされた2曲入りのシングル『amuletum bouquet』のうちの1曲ですね。

青葉:自主レーベル「hermine」を立ち上げた時期でもありますし、「お守り」として書いたのがそのシングルです。梅林太郎さんと話し合い、これまでの歩みとこれからの歩み、その二つを一つにまとめた作品ですね。

ーー自主レーベルを立ち上げた経緯を改めて教えてください。

青葉:それまでは主にメジャーレーベルでリリースしていましたが、Spotifyのような配信プラットフォームが成長してきたこともあり、よりダイレクトに作り手とリスナーの距離を縮めたいと思いました。曲ができてから聴いてもらうまでのスピードを上げるため、例えばBandcampなども利用して自由にリリースできるようにしたかった。自分でレーベルを管理するようになってからは、音源もいろんなバージョンをすぐ出すことができますし、契約に縛られずに自由にできる楽しさがありますね。

ーー設立から4年が経ちますが、手応えは感じていますか?

青葉:とても感じています。自分が発信していることを直接リスナーに届けている感覚がありますし、ファンの皆さんもそれを理解してくれている。ラジオをやっていることもあり、メッセージなどで曲への反応を直接返してくださったり、会場で声をかけてくださったりすることも多くなりました。とても温かいムードができていると思いますし、立ち上げてよかったと思っていますね。

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