小林聡美が初コンサートで発揮した“ミュージシャン・マインド” 小泉今日子演出、貴重なステージ経験を振り返る
俳優・小林聡美による初のコンサート公演『小林聡美NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ』が、8月24日にWOWOWにてオンエアされる。
同コンサートは、WOWOWによる俳優のコンサートシリーズ第2弾として企画されたもの。小泉今日子が演出を手掛け、音楽監督は東京スカパラダイスオーケストラの創始者でもあるASA-CHANGが担当。阿部サダヲをゲストに迎えて、2024年4月7日に横浜赤レンガ倉庫 1号館3Fホールにて開催された。
開催前に行った小泉今日子との対談で小林は、コンサートの準備について「新しいことだらけ」と語っていたが、実際にステージに立ち、大勢の観客の前で歌唱した経験はどんなものだったのか。大好評の中で幕を閉じた同公演を、本人に振り返ってもらった。(編集部)
小林聡美×小泉今日子はどんなコンサートを画策する? 古き良き“マニアック”な昭和歌謡の魅力
俳優 小林聡美の初コンサート『小林聡美 NIGHT SPECTACLES チャッピー小林と東京ツタンカーメンズ』が、4月6・7日…
全部終わってみたら、びっくりするくらい楽しかった
ーーチャッピー小林と東京ツタンカーメンズの初ライブを終えられて、単純にどんな気持ちになりました?
小林聡美(以下、小林):始まるまでは、どんなふうになるのかあんまり想像しないようにしてたんです。(ライブを)体験したことがないので。リハーサルも日数が少ないのには驚きました。
ーーそう感じられました?
小林:はい。音楽の世界ではそれくらいが普通なのかもしれないですけど、演劇に比べてみんなで合わせたりする時間も少なかったので、ちょっと不安になりました。「これでやるの?」みたいな(笑)。でも、全部終わってみたら、びっくりするくらい楽しかった。やってるときは、「無」でしたけど(笑)。
ーー「無」でした? 舞台上ではバンマス(バンドリーダー)のASA-CHANGさんやゲストの阿部サダヲさんと楽しくやりとりされてましたよ。舞台の演出を担当された小泉今日子からはどんな指示があったんでしょう?
小林:演奏に関してはASA-CHANGさんがリーダーシップをとって細かく指示されてましたし、小泉さんは全体的に目を配って調整されてましたね。私はどちらかというと、ASA-CHANG側というか、楽器の一部みたいな感じでいました。もちろん、チャッピー小林という役として歌うという部分もありましたけど、声の出し方など、自分自身をコントロールしながら歌うのは、楽器を演奏する感覚に近いのかなと思ったり。
ーーそれにしてもですよ、オープニングで歌われた「砂漠のタイムマシーン~東京ツタンカーメンズのテーマ~」は、チャッピー小林と東京ツタンカーメンズのために用意された新曲(作詞:小泉今日子&小林聡美、作曲:ASA-CHANG)でしたが、あとはもう小林さんの好きな昭和のポップスをひたすら歌うのみという、すごい選曲でした。
小林:はい。みんな私が好きで聴いていた曲ばかりになりました。
ーー好きで聴いていた曲とはいえ、実際にご自身で歌うのは結構違いがありますよね。
小林:いやー、大変でした。本当に歌手ってすごいなと思いました。歌を歌えるのは当たり前として、それを人に聴いてもらうための歌い方が必要だし、バンドの人たちとの調和も必要。歌い出しのきっかけとか、立ち位置とか、このフレーズをあと何回繰り返せば終わるかとか、そういうのを全部やりながらの歌唱なんです。お客さんとしての私たちは「今日よかったねー」みたいな感じで帰ってましたけど、「舞台の上はこんな感じなんだ」とわかって、すごく勉強になりました。
ーー曲順はどなたが決められたんですか?
小林:みんなで話し合って決めました。最後の調整は小泉さんがしてくださったかな。
ーーでは、当日を振り返りながら、ステージのこと、楽曲のことなどを聞いていきたいと思います。まずは、やっぱり「砂漠のタイムマシーン」。これが小林さんにとって初のオリジナル曲じゃないですか。
小林:あははは。というか、チャッピー小林と東京ツタンカーメンズの、唯一のオリジナル曲です。ASA-CHANGさんは、昭和のバリバリな時代の雰囲気を意識されたそうなんですけど、最初に聴いたときは「思ってたより大人っぽいな」と思いました。
ーー小泉さんとの共作ではどんなやりとりを?
小林:歌詞のベースは、ほとんど小泉さんが作ってくれました。私は、ここの語順を変えたら、この単語を使ったら、みたいな提案をちょっとしたくらいです。とにかく、小泉さんが最初に作ってきてくださった歌詞の世界観が素晴らしくて。「砂漠」とか「私」っていうキーワードは最初にASA-CHANGさんが出してくれたんですけど、そこに「ラクダ」や「タイムマシーン」を持ってきたのは小泉さん。あの歌詞のおかげで、チャッピーたちが昭和からタイムマシーンで現代に来たというステージの世界観が決まっていった。そういう意味でも小泉さんはすごいなと思いました。
ーー小林さん自身も歌いながらタイムトラベラーとしての設定を飲み込んでいくというか、この曲を歌っちゃえば、あとは何が来てもOKと思えたんだろうなという気もしました。そうやって始まってからの、「若いってすばらしい」で、もう容赦なくチャッピー小林ワールドに引っ張り込まれます。
小林:でも、ここからの3曲(「若いってすばらしい」「帰り道は遠かった」「そばにいて」)が、歌っていていちばん難しくて大変でした。「なんでこの3曲を最初にしたんだろう」って歌いながら思ってました(笑)。
ーーそうなんですか。
小林:みんな当時、十代くらいの若い人たちの歌なんです。そのテンポやノリで私が歌うのは結構大変。いきなり息が上がって、もう終わり、みたいな(笑)。
ーーでも、この3曲は畳み掛けるようで、つかみとしてはバッチリでしたよ。
小林:歌手の方ってそういうことまで考えて普段やってらっしゃるんですよね。いや、本当に私は大変でしたというか、ちゃんと歌わなきゃ、という気持ちでした。「この3曲が終われば阿部さんが来てくれる!」と歯をくいしばって。
ーー阿部さん、というか、人気歌手アベィ・サディさんは小林さんのアシストとしても、「そんな夢」「ふたり」「ナオミの夢」のデュエット相手としても最高でした。
小林:いやー、本当に。何回めかの会議で「アベィ・サディ」って芸名がすんなり決まって(笑)。その名前からああいう人物になっていったらしいですよ。私も阿部さんが、ああいうスーツを着て、ああいう髪型で出てくるっていうのは、「衣装合わせしました」と写真を送っていただいて初めて知りました。「アベィ・サディってこういう人なんだ!」ってちょっと自分でも盛り上がりましたね(笑)。
ーーお二人の声質がすごく合ってたと思います。歌っていて気持ちよくなかったですか?
小林:楽しかったです。3曲で帰ってしまうのがもったいないくらい。だって、アベィ・サディが隣にいるんですよ(笑)。トークでも毎回すごく考えてくださって。私がちょっと疲れてそうなときは、アベィ・サディがいつもより多めにしゃべってフォローしてくれたり、そんな優しさも感じました。
ーー歌手って全部舞台の上で解決しないといけないですからね。水も飲まないとカラカラになっちゃうし。
小林:本当ですよね。今回はいろんなことを体験しました。
ーーそんなアゲアゲの前半を終えて、中盤ではバラードにも挑戦されました。「くれないホテル」も「黄昏のビギン」も簡単な曲ではないです。
小林:聴いていて「いいな」と思う曲には、歌う難しさがあるんだなと気がつきました。でももちろん、ちゃんと聴くに耐えうる歌であることは基本ですが、上手に歌うことだけがいいライブということでもないかなと。だから、「上手に歌う」は途中から置いといて、という感じになりました。
ーーこのバラード2曲は特に、小林さんが本気でこの曲が好きなんだという思いが伝わってきましたよ。
小林:ありがとうございます。「黄昏のビギン」は、永六輔さん(作詞)と中村八大さん(作曲)が作られた歌なんですよね。歌い終えて、そんなすごい歌をちゃんとしたバンドで歌えてすごく幸せだって、あらためて思っちゃいました。