大塚 愛、油絵との出会いが変えた人生観 「失敗があって成功が塗り重なった方が深みが出る」

大塚愛、油絵が変えた人生観

絵を描くことは自分の脳みそを溶かしてる感じ

ーー楽曲は緻密に計算をしながら作られている印象ですけど、絵に関しては自由度が高いんですね。

大塚:音楽は本業なので、どうしても仕事として考えなきゃいけない部分がある。でも絵に関しては、本当に自分の好きなものを自由に描けるんです。音楽で溜まっているフラストレーションとか、そういうのも解消しながらわがままにやれるところが、絵にはあるんですよね。

ーー絵を描いているときは、ただただ楽しい気持ちが大きいですか?

大塚:楽しいわけでもなくて……なんでしょうね? デタラメをずっとやってる感覚なので、仕上がったときに「あーよかった、危なかった!」「あんなメチャクチャなところから、よく着地できたな」みたいな(笑)。最初だけですね、わーい!って好きなカラーで遊ぶのは。「さて、この絵はどう着地させようか」となってからが、やっぱりしんどい。例えるなら、絵を描くことって自分の脳みそを溶かしてる感じなんですよ。最後の方は、筆と私の脳が直接繋がれてない感覚があって、仕上げは指で描いちゃってるんですよ。筆を持っていると、筆先がちょっとイラッとしてきちゃう。「もう直に絵と繋がりたい」という衝動が湧き上がってきて、最終的には手がとんでもないことになってしまうので、最後の方はいつも爪が汚いです(笑)。

ーー習字やフラワーアレンジメントに関しては、どこに面白みを感じますか?

大塚:書道はリズムとバランスが肝だなと思うんですよね。細やかな線のかすれ具合が作るスピード感と、力強く跳ねるたりしなやかに下ったり、そういうところがダンスと似ているなと思って。スローモーションになってはらいをするところや、バーッと勢いで書く緩急を含め、すごく音楽に似たところがあるなと思います。フラワーアレンジメントで言うと、花自体がすでに完成されているので、いかに足を引っ張らずに、より魅力的な作品にしていくかが大事。やってみると、音楽のアレンジに近いなと思いました。音を足してガチャガチャしすぎてしまうと、曲が持つ世界観の邪魔になるし、足りなさすぎてもパンチがなくなってしまう。

ーーバランス勝負なところがあるんですね。

大塚:360度から見てどういうバランスで行くのかとか、メインの花があってサブの花があって、とか。サブの花があるからメインが目立つこともあるし、そういう全員に役割があるので、かなり頭を使う作業だなと思います。

大塚 愛

ーー版画で言うと、2013年に配信リリースされたセルフカバー曲「さくらんぼ―カクテルー」のジャケットを元に制作された作品を拝見しましたが、色や模様が変わるだけで、こんなにも印象が変わるのかと驚きました。

大塚:カラーリングが違うだけで、その絵にいる女性がどういう人でどんな性格なのかも全然違って見えるんですよね。そういう、もう1つのストーリーが面白くて。赤がちょっとサイコな感じを放っているからこそ、癒し系の黄色い感じがさらに強度を増すし、そういうのもバランスですよね。

ーー大塚さんは2021年、2022年にART×MUSICをテーマとした企画展『e to oto to...~ART×MUSIC~』で、ご自身の作品を出品をされましたね。そこでの手応えはどうでした?

大塚:初めて絵が売れたときに「え、私の絵が!」という驚きがあったのと、毎日見て・育ててきた作品が売れるのは特別な嬉しさがありましたね。私の絵を買ってくださった方が「家に飾ったよ」と言って、写真を上げてくれると「あ、あの子が……」みたいな。そういう音楽とはまた違う嬉しさがありましたね。

ーー冒頭で触れた通り、今回は自身初の個展を東京・表参道にあるスパイラルガーデンで開催されることになって。

大塚:「デビュー20周年に何かやらないの?」と会社から聞かれたものの「今まで作ってきた音楽を定期的に連続リリースします」というのは嫌だったんですよね。天邪鬼な性格だから「周年だから出さなきゃ」と言って出すのが嫌だった。そこに抗うために「個展だったらやりたいです」と言ってこういうことになりました(笑)。

ーー「楽曲」をテーマに油絵や書道、フラワーアレンジメントなど合計80点の作品を展示されているんですよね。

大塚:やはり20周年を記念した個展なので、今まで出してきた楽曲を肯定することや、これがあったからこそ今後につながっていくという橋渡しのイベントになれば、という狙いがありましたね。

ーー個人的に好きだったのは「クムリウタ」の絵でした。光と影のコントラストが素晴らしいなと思って。

大塚:嬉しいです! 「クムリウタ」は深海という人生の底に落ちてしまって「ここからどうするか」というのがテーマの曲なので、人生の底の部分を描いたんですよね。この世の終わりのような世界にいながらも、上がっていく階段がうっすら見えている、その階段を登る覚悟はあるのか? それともそのまま地面を歩いていく覚悟があるのか?っていう、2つのラインの道を書いたんですね。曲の部分でいうとBメロの部分〈ここに立っていることさえ/時々意識を失いそうになる〉が今回の絵になっています。

ーー中には半年かかった作品もあるそうですね。

大塚:ちゃんとカウントしているわけではないのですが、「φ」や「金魚花火」のような大きな作品はそれだけ時間もかかりましたね。

ーー特に、ご苦労された作品というのは?

大塚:ふふ、全部しんどいですね。「金魚花火」は毎日地道に透明の黒をずっと塗り重ねていって、きらっと光るハイライトの部分を細かく足し、また黒をかけてっていう、その繰り返しをやっていたので。それも結構大変だったし。「φ」も大きな作品でいろんなものがごちゃごちゃとうごめいている絵なので、あれも本当にめんどくさかった(笑)。

ーーハハハ、骨の折れる作業だったと。

大塚:完成に近づいた上で、どこかしらが気になり始めると「今度はここの雑さが目につくな」とか、色々見えてきちゃって。とはいえ、あまり綺麗に整えてしまうと面白くない絵になってしまいかねない。そのバランスが非常に難しかったですし、日によって印象も変わるので「光がちょっと違う」「ちょっとここにツヤを足して」とか、最後の方は誰も気づかないような細かいところを直していく。そうこうしてると、時間がかかっちゃいましたね。

ーー展示されている絵を拝見して思ったのは、動物が登場する作品が多いのかなって。

大塚:私は人間を描くのが本当に苦手で。多分、邪念が見えるものがダメなんですよね。動物だったり植物だったり、汚れのない綺麗なものが好き。なので人間がちょっと描けないところはありますね。

ーー「LOVE」は白いうさぎが闇に包まれてるような色合いで、可愛いうさぎがいるからこそ、ダーク味が際立っているように感じました。

大塚:ホラーが好きなので、ちょっと怖い感じの世界に惹かれるんです。“光と闇”という対極した要素が、自分の中にしっかりとあって。音楽に関しても、振り切ったものが多いんですよ。

ーーそれこそ「クムリウタ」と「さくらんぼ」にしても、対極の世界観を持つ楽曲ですよね。

大塚:そうそう。0か100かくらい別の世界が混在していて、それが絵にも反映されているんですよね。やっぱり黒と白っていう、闇があるから光が目立つわけで。暗い世界観の中で光り輝くものがある、みたいな。ダークでネガティブな中にポジティブがあってとか、そういうものが自分の性格にこびりついていて、それが曲や絵にも表れているんですよね。

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