連載「lit!」第106回:Dos Monos、Daichi Yamamoto & JJJ、TOFU & MIKADO……ヒップホップの多様さを示す5作
昨年同様、『POP YOURS』や『ラップスタア』(ABEMA)などが盛り上がりと注目を集める中、独自性を極めた日本語ラップアルバムの数々が話題だ。そういった作品は、それぞれ多様な音楽性を孕みつつ、内省世界を追求するものもあれば、多様なコンテクストを突き詰めるものまで様々に存在する。まさしく本連載「lit!」では、ヒップホップという一つのジャンルを取り上げることで、その“多様さ”に注目してきたが、今回もそんな多様性溢れる新譜を5枚紹介したいと思う。
Daichi Yamamoto & JJJ『Radiant』
JJJがビートメーカーとしてプロデュースするサウンドにDaichi Yamamotoがラップを乗せる本作は、この国で生きること、またはその生きづらさを捉えた鮮やかな傑作と言っても過言ではないだろう。例えば、印象的なピアノの音色を含め、叙情性が漂うスマートで安定したビートには、メロディアスなDaichi Yamamotoのラップを抱擁するような繊細さと温かさがあり、他にはないような体温を感じ取ることができる。Daichi Yamamotoのラップには過去の記憶やポリティカルなメッセージが仕込まれており、特に自らのアイデンティティと外部からの視線に葛藤する姿は、この作品にシリアスなドラマを生んでいる。一方で、CFN MALIKが唯一の客演として参加する「F1 (feat. CFN MALIK)」は一際ハードな楽曲で、作品の中でも特異な感触をもたらしているが、そこも含めて、あくまで全てが“自己表現としての音楽”に帰結していく様は見事で、全曲がまるでモザイク絵の一枚として機能していくような美しさを携えている。
TOFU & MIKADO『New Vintage』
和歌山出身のラッパー MIKADOとTOFUによるジョイントアルバム『New Vintage』も、独特の色を放つ。レイジビートに接続する浮遊感とストリートの匂いが充満する本作の中毒性を、決して侮ることはできない。そこには感覚的で即物的な言葉やレトリック、メロディが走馬灯のように散りばめられる。ハードな「Welcome 2 Wakayama」、煌びやかな「Amiri Star」をはじめ全編エネルギッシュで刹那的なナンバーが、その速度を緩めないように流れ続ける本作は、酩酊感とともに、自らの感覚や感情に身を委ねる姿を映していると言えそうだ。アルバムは前半から後半へと、風景がひらけていくような展開を見せるが、特に映画『ゲド戦記』でお馴染みの「テルーの唄」(手嶌葵)をサンプリングした印象的な最終曲「RR」は、様々な感情が入り乱れるような強烈な楽曲。〈俺はまるで、、、/いやまるでじゃなくて俺は俺〉というリリックに鮮明な感情の動きが刻まれている通り、何か劇的なことの渦中で打ちのめされるような体験、その鮮烈さそのものが『New Vintage』には刻まれている。
ACE COOL『明暗』
ACE COOLの『明暗』は、明け透けで真に迫った独白が綴られるシリアスなレコードだ。まさに、人間の明の部分と暗の部分を覗き込むようだとも言えようか。ケンドリック・ラマー(ACE COOL自身もラッパーとして影響を受けている)の『Mr. Morale & The Big Steppers』すらも連想させる。ビートは徹底してシャープ。そこに乗るラップで綴られる寂しさとプライド、嫉妬に自己嫌悪。誰もが抱え込むようなナイーブさを言葉に落とし込んでいく様は、胸に迫るものがある。ハイトーンでスキルフルなラップは相変わらず安定し、ピアノの音色からドリル的なダンスミュージックに、内省世界の風景を鮮やかに接続させていく。「虚無主義」をはじめ、内省的な叫び、その反響を表現するような歌唱も印象的である。