トゲナシトゲアリ、『BAYCAMP』独占レポ&舞台裏インタビュー 『ガルクラ』と重なり合う貴重なステージを目撃
テレビアニメ『ガールズバンドクライ』の劇中ガールズバンド、トゲナシトゲアリが9月15日、川崎・ちどり公園で開催された野外ロックフェス『ATF 25th presents BAYCAMP 2024』に出演した。『ガールズバンドクライ』第11話「世界のまん中」のクライマックスで、トゲナシトゲアリがその存在感を遺憾なく発揮したライブシーンの舞台がまさにこの『BAYCAMP』。劇中ではかつて同フェスが実施されていた東扇島東公園の様子が描かれており、今年の開催地とは若干異なるものの、前々日の13日に同じくアニメ第13話「ロックンロールは鳴り止まないっ」でもお馴染みの川崎・CLUB CITTA'でワンマンライブを行ったあとだけに、実際のステージがどのようにアニメとリンクしていくのかに注目が集まった。
本稿では『BAYCAMP』に向かうメンバーの様子からライブ本番、そしてライブ終了直後に語ってくれたコメントを交えながら、ロックフェスを初体験したトゲナシトゲアリの姿を紹介していく。
アニメ同様、オールナイト公演となる2日目に出演するトゲナシトゲアリのライブは、メインステージとなるPHOENIX STAGEにて17時40分からの出演。前後を水曜日のカンパネラ、神聖かまってちゃんという強豪が挟むということもあってか、ステージに向かう理名(Vo/井芹仁菜役)、夕莉(Gt/河原木桃香役)、朱李(Ba/ルパ役)の表情は若干緊張しているようにも見えた。ステージに到着すると、すでにサポートメンバーのドラマー&キーボーディストがサウンドチェックを行っており、それに続くように三人もそれぞれのパートの音出しに取り掛かる。
会場を見渡すと、『ガールズバンドクライ』やトゲナシトゲアリに関連したTシャツを着たファンが多いことに気づく。彼ら彼女たちは三人がステージに立つと大歓声を上げ、それぞれのサウンドチェックを見守る。そして、一人ひとり音出しを終えると同時に、まるでライブ本編のような声援を送り、日が暮れ始めたPHOENIX STAGE周辺が温かな空気に包まれていった。サウンドチェックの締めくくりとして、バンド全体で「傷つき傷つけ痛くて辛い」をワンコーラス演奏すると、オーディエンスの熱気はより高まっていき、ライブさながらの盛り上がりを見せた。のちのちこの曲がライブ本編に含まれていないことに気づいたファンには、きっとうれしいボーナスだったに違いない。
理名が夕莉や朱李、サポートメンバーへと声をかけて気合い入れをすると、あとはライブ本番を待つばかり……と安心していると、PAブースから「じゃあ、ベースさんお願いします」と再び声がかかる。すると、アニメ同様に黒いSGタイプのベースを抱えた朱李が「お願いします」とルパの声で答え、耳馴染みのあるベースフレーズを奏でていく……それはアニメ第11話の『BAYCAMP』サウンドチェック時にルパが即興で弾いた、ライバルバンド・ダイヤモンドダストの楽曲「Cycle Of Sorrow」のフレーズと同じものだった。この時点で観客の盛り上がりはより一層大きくなり、その後もPAブースからの「ほかに音色ありますか?」の問いに朱李が「はい、歪みます」と答え、ディストーションのかかったゴリゴリのベースフレーズを会場中に響かせる。
前々日の“聖地”CLUB CITTA’公演でもアニメとシンクロした演出で観る者を圧倒させたトゲナシトゲアリだったが、この日ももうひとつの“聖地”でのライブとあって、ここまで仕込んでくるかとニヤリとしていると、そこから間髪入れずに朱李の前のめりなベースラインと理名のパワフルなボーカルが重なり、「空白とカタルシス」からライブはスタート。さすがにフェスとあってか、曲に入るまえの仁菜の“自分語り”こそなかったものの、この唐突なオープニングに多くのファンが興奮したことだろう。初めての環境にもまったく怖気付くことなく、ワンマンライブとまったく引けを取らない熱量でステージにエールを送る観客に向けて、その小さな体からは想像もつかないほどエネルギッシュでエモーショナルな歌声を発する理名。アニメ同様にブルーのジャズマスタータイプのギターをクールかつ豪快にプレイする夕莉、存在感の強いベースラインを奏でながら軽快なステップを踏む朱李。三人にとって中一日での連続ライブ経験は初めてのことだが、この日のステージはワンマンでの疲れをまったく感じさせない、むしろワンマンの成功をいい形で引き継いだ脂の乗ったパフォーマンスで観る者を楽しませてくれた。
「空白とカタルシス」のエンディングから矢継ぎ早に「空の箱」へなだれ込むと、その切ないメロディと間もなく日が暮れようとする茜色の空模様が見事にリンク。「声なき魚」では理名が夕莉とマイクを分け合って歌う場面もあり、ロックバンド然とした佇まいも板に付きつつあることが伺える。以降も、焦燥感の強いサウンドとメロディが印象的な「視界の隅 朽ちる音」、少しだけクールダウンして周りの環境を楽しむ余裕を与える「誰にもなれない私だから」と、アニメを通じて届けられた楽曲群でトゲナシトゲアリらしさをアピールし続けた。
ライブ後半に向かう前のMCでは、理名が「だいぶ外が暗くなってきたけど、ステージ上は暑くて(笑)。みんな、涼しくなった?」とオーディエンスを気遣う場面も。さらに、「一昨日ワンマンライブがありまして、21曲ほど披露したんですけど、今日は約30分のなかで何十曲できるのか(笑)」と冗談を飛ばす余裕も見せると、「ここからもっともっと熱くいけますか?」と呼びかけ「雑踏、僕らの街」でライブを再開させた。彼女たちの熱のこもった演奏に惹きつけられたのか、気づくとほかのバンドのTシャツを着た観客の姿もちらほら目につき始める。そんな初見のロックファンを前に、トゲナシトゲアリは「名もなき何もかも」「爆ぜて咲く」とライブ人気の高い楽曲を連発し、シンガロングやクラップを交えながらその唯一無二の世界へと引き込んでいく。
この日のラストナンバーに選ばれたのは、前々日のワンマンライブでアンコールに披露された「運命の華」。テレキャスタータイプのギターを抱えた理名は笑みを浮かべながら、この幸福感に満ち溢れた楽曲に命を注ぎ込んでいく。気づくと夕莉、朱李もうれしそうな表情を見せながらギターやベースを奏でており、それにつられるように客席も笑顔に包まれていく。クライマックスでの〈1、2、3、4!〉はメンバー、オーディエンスが一体となって叫び、そのままステージ上の三人が向き合いながら歌や演奏を重ねてエンディングを迎えた。約35分におよぶステージで全9曲を披露し終えた彼女たちの表情は、喜びと安堵が入り混じった幸せそうなものであり、この日のライブでも大きな手応えが得られたことは間違いない。