imase、3年間の集大成を詰め込んだ傑作ポップアルバム 『凡才』徹底クロスレビュー

 imaseが音楽を始めて約3年。メジャーデビュー曲「Have a nice day」のバイラルヒットに始まり、「NIGHT DANCER」のグローバルヒット、そして続く大型タイアップ……彼は異例の広がりをもって新世代のポップアイコンとして大きな存在となった。その歩みのひとつの集大成が、5月15日にリリースされた全19曲収録の1stアルバム『凡才』だ。「オリコン週間アルバムランキング」や「Billboard JAPAN HOT Albums」などへの上位でのチャートインはもちろん、韓国や台湾、香港など世界11の国と地域にてJ-POPジャンルのデイリーアルバムチャートで1位を獲得。この勢いのまま、彼は自身初のアジアツアー『imase 1st Asia Tour “Shiki”』へと向かう。

【imase】1st Album『凡才』全曲Trailer ( 2024.5.15 Release)

 リアルサウンドでは、アルバム『凡才』の発売を記念して、ライターの蜂須賀ちなみ氏、矢島由佳子氏(※五十音順)による『凡才』のクロスレビューをお届けする。両者の視点で解き明かすimaseという才能と『凡才』が描き出す彼の現在地を感じてほしい。(編集部)

心地好いもの、楽しいほうを選ぶ美学(蜂須賀ちなみ)

 ひとりで生み出した曲からタイアップの依頼が絶えない最近の曲まで、20歳から23歳の間に制作した楽曲を収録した1stアルバム『凡才』。楽器経験ゼロからスタートするも、わずか3年でグローバルヒット作を持つ新鋭アーティストに――という怒涛の日々から生まれた収録曲は多彩で、ギターロックサウンドによる「LIT」は、ライブをやるようになってから生まれた曲なのでは?など、いろいろと想像できるのが楽しい。「仕事ダルいけど始まっちゃえばあっという間」という気持ちを歌ったバイトソング「Happy Order?」や、“新成人”というテーマに〈ときめきを残した/大人じゃん〉というキラーフレーズで応える「18」あたりには、鋭くも等身大の感性が光っている。

【imase】18(MV)

 imaseといえば、母音にナチュラルに「h」が混ざる発音と声質のマッチングが特徴的で、国内外でヒットした「NIGHT DANCER」はその旨味を存分に味わえる曲だった。〈どうでもいいような 夜だけど/響めき 煌めきと君も〉というフレーズが有名だが、ともすれば濁ったり変に強くなってしまったりする「ど」の音を、これだけ心地好く、浮遊感たっぷりに聴かせることができるのはimaseならではだろう。

【imase】NIGHT DANCER(MV)

 19曲入りとフルボリュームなのにわりとサラッと聴けるのは、リズミカルなボーカルに起因するが、複数曲をまとめたアルバムという形式によって、imaseは音のテクスチャの操作に優れたボーカリストなのだとあらためて思い知らされた。

 たとえば「僕らだ」や「ユートピア」は地声と裏声のスイッチが非常に細かく、「よくスムーズにこんなことができるな」と言わざるを得ない。また、耳心地もよく、この歌い方こそが彼にとって唯一の正解なのだろうという説得力がある。他にも、長音(ー)や促音(っ)をどこに配置するかなど作詞段階での分かれ目もあれば、フレーズの区切り方やアーティキュレーションなど歌唱段階で考えるべきこともあるはずだ。その判定をどこまで意図的に、どこから感覚的にやっているのかははかりしれないが、ここまで的確に“選べる”人は稀有ではないだろうか。

【imase】僕らだ(MV)

 今作を聴いて、imaseのボーカルは水のようだと思った。丸い雫になって跳ねたり、細い出口から鋭く吹き出したり、せせらぎのように流れたりと変幻自在で、何色にも染まることがない。ひとつの方法論に拘泥することはないが、自分にとって心地好いもの、楽しいほうを選んでいこうという美学は一貫している。その歌声で「take it easy」や「love myself」の精神が歌われていることも興味深いポイントだ。音楽に対するimaseのしなやかな在り方自体が、忙しない社会を生きる私たちへのメッセージとして機能しているのかもしれない。

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