Nothing's Carved In Stoneの止まらぬ進化 EP『BRIGHTNESS』で手にした新たなプロセスを語る
結成10周年を機に自分たちのレーベル「Silver Sun Records」を立ち上げ独立、ここまでメンバー4人と2人のスタッフのみでバンドを進めてきたNothing's Carved In Stoneが、15周年と2度目の日本武道館ワンマンという新たな節目を経て次なるチャレンジへと足を踏み出した。彼らにとって2度目のメジャーレーベルとのタッグとなるニューEP『BRIGHTNESS』は、初となる外部アレンジャーの招聘も含め、これまで培ってきたナッシングスらしいバンドアンサンブルを軸にしながら同時に新しい制作プロセスを取り入れ作り上げられた、EPといいながらアルバム以上に濃くて強い作品だ。2月の武道館ワンマン、15周年、そして今作への手応えについて、村松拓(Vo/Gt)と生形真一(Gt)に聞いた。(小川智宏)
「新しい景色を自分たちで迎えに行こう」――独立と2度目の武道館ワンマン
――今年2月24日に開催した2度目の武道館ワンマンはどうでしたか?
村松拓(以下、村松):まずは集まってくれたファンに感謝ですね。楽曲のリクエストも含めて、来てくれるみなさんありきで考えていた武道館だったので、それを一緒に作り上げられたという実感がありました。そのぶんプレッシャーはあったんですけど、スタッフ・メンバー含め、いい形で武道館をできたというのがすごく嬉しいですね。
生形真一(以下、生形):やっぱり2回目というのがすごく嬉しくて。武道館とか、ああいうデカい場所って、最初はすごいみんな盛り上がってくれるイメージがあるんだけど、2回目となると自分たちの底力を試されるんだろうなと思って。それが成功したということが純粋に嬉しかったですね。
――15周年という節目についてはどんなことを思いました?
村松:10年目に独立して「Silver Sun Records」を立ち上げて、そこから自分たちで5年間やってきて、その5年間のいったんの最終形というか、「武道館の規模まで自分たちだけでやる」と決めて、ちゃんとできて。そこでピリオドを打って、「さあ次に行こう」みたいなタイミングだったんですよね、俺らにとっては。そういう感慨みたいなものはあったかな。
生形:うん。15周年って聞くと時間がすごく経ったなと思うし、メジャーでやったこともあったり、独立したり、いろんなことがあったけど、やっぱり過ぎてしまうとあっという間というか。ただ振り返るとすごくいろんなことがあったなと思って、すごく起伏があるバンドですごくおもしろいバンドなんじゃないかなと思いますよ。今回だって、2回目のメジャーだし。おもしろい15年間だったなと思いますね。
――おっしゃる通り、出来事を並べてみると本当に波瀾万丈なバンドで。でも、作ってきた音楽は常に前向きに進化をし続けてきたと思うんです。そこはブレてないなとあらためて思います。
村松:武道館でリクエストをもらって、初期の曲からズラーッと聴き直す機会があったんです。普段あまりそういうことはしないんですけど。そうやって聴くと、こだわりみたいなところに懸ける思いみたいなのは変わってないなって思います。バンドマンであって音楽家であって、自分たちのなかで発明して……そういうことをちゃんと繰り返してきたんだなという実感はありました。そこが軸としてあったから、いろんな波を越えてこれたのかなと感じましたね。
――しかも、バンドとしても世の中的な意味でも変化が生じた時に、ナッシングスは常にそれに応じてフレッシュな音を鳴らしてきた感じがするんです。そういう意味では先ほどの話にもあった通り、10周年を期に独立したのは大きな転機だったのかなと。
村松:すごい試行錯誤しましたけどね。ぶっちゃけて言うと、4人でやることは変わらないけれど、マネージャーひとりともうひとりのスタッフと、その人たちと忌憚のない話をして、新しい景色を自分たちで迎えに行こう、みたいな気持ちがあった。自分たちのことを信じてやりながらも、どこかで「もっと別の答えがあるんじゃないか?」ということを各々が考えていたし。それをメンバーとスタッフと話して、繰り返し擦り合わせて――そういう感じでしたね。
生形:俺らがやるべきことって実はすごく単純で、全力でライブをすることと自分達が納得のいく曲を作ってレコーディングをすることだけで。それを15年間ひたすらやってきたっていう感覚なんです。その間にはいろんなことがあったけど、とにかくいい曲を作っていいライブをするっていうことだけはブレずにやってきたんですよね。だから、独立してからもそのままやってきて。そうやって思うといろいろとタイミングだなと思う。10周年の武道館が終わった時に独立して、5年間自分たちだけで必死にやって、5年間やった時にみんなでいろんな話をして。特に曲作りとかは15年間ずっと4人だけでやってきたから、ある意味、凝り固まってはいるんですよね。俺らも正直若くはない。世界中の新しい音楽に対して敏感なメンバーが揃っているとは思うけど、そこをもっとうまく、いろいろな人の力を借りて、もっとたくさんの人に届けられたらいいなっていう。だから、今回ワーナーと一緒にやりましょうということになって。
――なるほど。独立して2作目のアルバムとなった『ANSWER』、あれは素晴らしい作品だったと思うんです。もちろんやっていることは変わらないのかもしれないけど、バンドという生き物として、また新しい表情が見えた感じもして。作り方も変えたそうですけど、ああいうアルバムを作れたというのもひとつ手応えとしてあったんじゃないですか?
村松:環境が単純に変わったっていう。前の事務所はスタジオも管理されていたから、そこにこもってものすごく贅沢な環境で作れたんですけど、それがなくなって「じゃあ自力でどうするんだ?」「街スタでやるのか?」って。それで各メンバーが、特に真一とひなっち(日向秀和/Ba)が時間をかけてデモを作って、そのデモをもとにメンバーで肉付けして練っていくっていうスタイルに変わったんですよ。それは新鮮でしたね。
――ひなっちさんがより積極的に曲作りをするようになったのは、どういう気持ちの変化だったんですかね?
生形:それも独立したっていうことが大きかったんじゃないですかね。その前から作ってはいたけど、独立したタイミングでみんなの役割がより明確になったっていう感じだったというか。
『BRIGHTNESS』は“4人で作った感覚”がすごくデカい(生形)
――それまでもバンドだったけど、より有機的な4人のバンドになった感じがあのアルバムにはありましたよね。
生形:うん。だから、独立したということが何にしろデカかったですよね。全部自分たちに責任がやってくる、それはよくも悪くも。ライブも変わっただろうし、姿勢も変わっただろうし。
――そうですよね。そういう意味では、今回の『BRIGHTNESS』もその新しいナッシングスによって作られた感じがします。
村松:そうですね。手探りでやっていくなかで……単純なやり取りの話ですけど、スタジオにこもりきりで話をするとなると、密度は高くなるじゃないですか。でも、その機会が限られるようになって、その密度をどうやって高めるかっていうのがこの5年間のテーマだったと思うんです。今は、そのハードルをいったん越えられたんじゃないかなっていう感じがあって。離れてる時間にどれだけ考えて、それをどれだけミックスさせていけるかっていう。
――ウブさんは、今作を作り上げての手応えはどうですか?
生形:俺はやりきった感がすごくあるんですよ。それは別に“これで終わり”ってことではなくて、“作りきった”っていう感覚。それはなんでかなって考えたんですけど、自分も限界の限界までやったのはもちろんなんですけど、今回はやっぱり“4人で作った感覚”がすごくデカいんですよ。今の時代、自分の部屋でアイデアを作って、それを誰かに投げて、それに誰かが手を加えて、っていうやりとりが簡単にできるからそうやってる人たちも多いんだろうけど、それでもやっぱり俺はスタジオに入って4人で話をしながら作業をするっていうのがいちばん大事だと思ってるんです。拓ちゃんが何気なく「そのフレーズいいね」とか「でもこういうのもいいと思う」とか言った一言もメンバーにはすごく残ったりしていて。それって、めちゃくちゃ大事なんですよね。だから、楽曲のもとになるものを持ってきたのは俺とひなっちではあるんですけど、あの時間はめちゃくちゃ大事だった。
村松:うん。
生形:そこで会話を交わして、アレンジをしていく。それは家でひとりでやってるのとは全然違うから。みんなを待たせないように、限られた時間のなかで俺はみんなに言われた意見をまとめてフレーズにして出さなきゃいけないっていう、その緊迫感もよかったりするんですよね。で、それがその日のうちにできなかったら家に帰ってやろう、とか。そういうやりとりがこのアルバムには詰まってるかなって気がします。
――うん。この『BRIGHTNESS』、7曲入りのEPで、曲数は今までのアルバムに比べたら少ないかもしれないけど、めちゃくちゃ濃いですよね。密度が高いというか。
生形:それは4人でもめちゃめちゃ言ってました。まさにそれが詰まってるんですよ。
――ウブさんがおっしゃったように、もとは誰かが作って持ってきた曲なのかもしれないけど、それを4人で鳴らしてNothing's Carved In Stoneにしていくっていうプロセスがより重要なものになってきているというか。メカニズムが煮詰まって濃くなってきた感じがするんです。
村松:だからめちゃめちゃ手応えはあるよね。
生形:さっき話したリクエストのランキングも、(上位は)やっぱり1stアルバム(『PARALLEL LIVES』)の曲が多いじゃないですか。もちろん思い入れが強いだろうからしょうがないんですけど、やっぱりあれがあったことで、そろそろ超えるものを本気で作らなきゃいけないなって思ったりもしたので。