TM NETWORKがますます面白くなっている 進化し続けたデビュー40周年の歴史を振り返る
2021年に満を持して再起動したTM NETWORKはサプライズの連続で実に見応えがある。思えば2015年の『TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA』以来となる再起動も、TM史上初となる無観客配信スタジオライブ『How Do You Crash It?』として2021年10月(one)、12月(two)、そして2022年2月(three)という計3回で行なわれた。思えばまだコロナ禍の最中、宇宙船かタイムマシンを思わせるシチュエーションでのライブは、当時他のバンドが行なっていた無観客配信ライブとは明らかに一線を画す完成度であった。
後にBlu-ray+シングルCD『How Do You Crash It?』として映像作品化されたが、サポートメンバーを要さない、宇都宮隆(Vo)、小室哲哉(Key)、木根尚登(Gt)の三人だけによる演奏。リアレンジや新曲を伴った最新形TM NETWORKのステージングに胸が熱くなった。2022年からはデビュー40周年企画も絡めた全国ツアー『FANKS intelligence Days』シリーズが展開されているが、演奏家としての三人をフィーチャーした内容というのは『How Do You Crash It?』以来、一貫されてきている。
それまでのTMのライブとアプローチが大きく変わったと感じたのは、2014年に観た『TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA』。ギターとドラムにサポートがいたことはエンディングで明らかにはなったものの、映像や紗幕によるシルエット演出やライティング効果が駆使されたこのコンサートでは、とにかく三人の存在感が前面に出されたものだった。とりわけインパクトたっぷりだったのが木根尚登のステージング。サポートメンバーを擁した公演では、リードプレイはサポートメンバーに担わせて、比較的最後のパズルピースを埋めるようなギターやキーボードをプレイすることが多く、なんなら以前ではパフォーマンス面を大きく担うことも大きかった。しかし、『TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA』では、自身のソロコーナーでアコースティックギターによるソロパフォーマンスを披露。“TM NETWORKとはこの三人”という根本が明確化されたステージングだったのである。
2024年に入り、よしもとミュージック時代のアルバムが最新リマスタリングでリイシューされたが、その中のアイテムでもある『SPEEDWAY』は、彼らの前身バンドだったSPEEDWAYがテーマとなり、先行シングル「WELCOME BACK 2」以外はほぼ三人だけでレコーディングされたアルバムだった。楽曲バランス的にも小室哲哉と木根尚登の作曲が半々であったり、終盤がインストで締められるなど、オリジナルアルバムとしても当時の新境地となっている。結果的に三人でやる意義なり、三人だからこそできることを再認識できたタイミングだったのだろう。
しかし、ライブにおける1コーナーとして三人だけの演奏が行なわれることこそあったものの、三人だけでライブを完結させていたのはデビュー当時のこと。ましてや全国ツアーを開催したのは『FANKS intelligence Days』が実は初のことである。『TM NETWORK 30th 1984~ QUIT30 HUGE DATA』に続いて筆者が感じたのは、ほぼMCもカット(以前のようにアンコールなどで打ち解けたトークをする姿もまた観てみたいところではあるが……)、ライブ自体が一つの映画なりミュージカルを観ているような、シアトリカルでコンセプチュアルなステージングだ。
コンセプチュアルといえば、毎度暗号めいたメッセージが放たれているのもポイントで、FANKS(TMファン)が謎解きに躍起になり、SNSを通じてその解釈や情報交換している様子が見られたのも面白かった。初武道館公演『FANKS CRY-MAX』以来に登場しているアイコンであるバトンの存在も確認。スタンリー・キューブリック監督の映画『2001年 宇宙の旅』のモノリスのように、時空を超えて何かしらをFANKSに訴え続けている。
TM NETWORKといえば、1980年代より当時最先端のシンセサイザーやコンピュータシステムを、小室哲哉がオンステージに持ち込むことでも話題を呼んでいた。『FANKS intelligence Days』においても、ヤマハMONTAGE7、モーグ(Moog One、Mini Moog)やヴァイラス(Indigo、TI)らのシンセサイザーがセッティングされていた。大きな話題となったのが、ぴあアリーナMM公演で久々の登場となったショルダーキーボード Mind Controlの使用である。
そもそもは小室哲哉のソロアルバム『Digitalian is eating breakfast』時のライブ用として制作されたものだったが、長年幻のショルダーキーボードだった。ギタービルダーがワンオフものも制作する弦楽器類と異なり、開発に多大な手間がかかる電子楽器においては、かつてのYAMAHA EOSのようにアーティストモデルが制作されること自体が異例のことである。その意味ではMind Controlは一般販売も想定していた画期的なキーボードだと思うのだが、残念ながら製品化には至らなかった。なお、このMind Controlにこだわり、限られた資料類から極めて完成度の高いレプリカをハンドメイドしているミュージシャンたちがいることを、コロナ禍に盛況だった音声SNS、Clubhouseにおける“FANKS部屋”で僕は知った。実際、sho.、708、K’s、BENといった小室哲哉フォロワーたちが、当時の小室哲哉のMind Controlをもはや修理という域を超えて、最新形にアップデートさせたというエピソードが面白い。
以後、Mind Controlはステージで大活躍! 先述した最新鋭のバーチャルアナログシンセサイザーなど、ステージ演奏を熟考したがゆえのシンセサイザーの要塞がもちろんセッティングされたわけだが、よりアグレッシブなステージングを行うために、最新形のショルダーキーボードが小室哲哉には必要だったのである。
そしてとりわけ筆者が目を見張ったのは木根尚登のギター。無観客配信スタジオライブ『How Do You Crash It?』のときから、フェンダー・ストラトキャスターやPRSのレアなワンオフモデル、さらにはスタインバーガーのWネックなども登場して驚いたのだが、『FANKS intelligence Days』でも様々なエレクトリックギターやアコースティックギターをプレイする姿が観られた。ルーパーを駆使してのアコースティックギターのソロパフォーマンスも記憶に新しいところ。エレクトリック、アコースティックギター共に6弦のみならず12弦もプレイ。特にアコースティックギターはそのサウンドがそもそも命なので、楽曲によって持ち替えを要するのは当然なのだが、『FANKS intelligence Days』で面白いのはエレクトリックギターに関してもツアーごとに多数用意されたことだ。テクノロジーの進化によってギターアンプやキャビネットのシミュレーター類が発達、ギターをそこまで持ち替えなくてもある程度の音色に追い込める時代になっているとも言えるのだが、木根尚登はそれぞれのギターの持ち味を発揮する、王道のプレイアプローチを選んだのである。
中でもゼマイティスのメタルフロントをプレイしたのはインパクト大。こうしたギターもプレイする木根尚登が世に拡まればもっと面白いことになるのにな、と思った次第である。『40th FANKS intelligence Days ~YONMARU~』のサポートを務めている北島健二(FENCE OF DEFENSE)があまりギターを持ち替えずプレイし続けたのとは好対照だった。なお楽曲によってはキーボードパートも担当。クラビアのノード・シリーズなどでピアノパート主体でプレイしていた。
『FANKS intelligence Days』では宇都宮隆も楽曲によってアコースティックギターを弾きながら歌う姿が見られた。木根、小室によるツインボーカルナンバーが披露されたのも新たな試みだったし、双方のソロコーナーやインスト楽曲のプレイも観どころだった。TMの演奏はかつてもどんどんエスカレートしていった記憶があるのだが、とりわけ再起動以後はシーン最先端のサウンドでの楽曲リアレンジ、バージョンアップが顕著となっている。EDM系シンセサウンド、強烈なアナログシンセサウンドの台頭かと思えば、いまだ「Get Wild」などでオーケストラヒットこそ健在だが、一時は避けていたような80年代的サウンドも原曲から踏襲されているパターンも目立った。個人的には『Human System』などで多用された、小室哲哉によるチョッパーシンセベースサウンドに衝撃を受けた世代なのだが、2023年発売の作品『DEVOTION』収録の「RESISTANCE(TK Remix)」では残念ながらチョッパーシンセサウンドは復活しなかった。おそらく今の時代にはそぐわないという判断なのだろうが、小室哲哉のキーボードプレイの十八番の一つなのでまたぜひどこかで聴いてみたいところ。
そして再起動を告げた「How Crash?」筆頭に比較的ギターサウンドがフィーチャーされている。打ち込みとは言えグルーヴィに編まれたリズムに、小室哲哉による手弾きの鍵盤楽器が重なるとともに、ハードなドライヴサウンドと共にクリーントーン、楽曲によってはアコースティックギターも鳴っているのが今のTMならでは。『DEVOTION』では小室哲哉によるギタークレジットも目立ったが、これらギターサウンドの多用が先の木根尚登のプレイアプローチを左右した。